こんにちは。ころすけです。
飛行機の整備に興味ある方はいらっしゃいませんか?
そうです!飛行機の整備士さんです!
世の中に現場の仕事は数あれど、飛行機の整備士って言うとものすごく難しい資格ってイメージがありますよね。
エアラインで飛行機の整備作業をするための資格は「一等航空整備士」と言います。
この一等航空整備士ですが、確かに取得難易度は高いと思います。
ええ、相当な勉強が必要です。
しかし、勉強が必要=高学歴っていうわけでもないです。
僕の知り合いには整備士の方もたくさんいますが、別に全然高学歴じゃない方なんてザラです。
高学歴じゃなくても「航空専門学校」で学んで整備士になってる方は大勢いますし、もちろん大学を卒業して、エアラインに就職して一から整備士を目指す道もあります。
いずれにしても、第一に必要なのは志なのです。
それでも飛行機の整備士がとりわけ難しそうって感じる理由の1つは、「飛行機システムの得体が知れないから」というのがあるんじゃないでしょうか?
「なんかすごい難しいんでしょ?複雑なんでしょ?知らんけど」
みたいな。
今回はそんな方に “飛行機のシステムってこんな感じ” というイメージをもっていただけたらと思い、ATAチャプターというものを紹介したいと思います。
ATAチャプターって何?
ATAとはAir Transport Associationという組織の名前で、ATAチャプターとはそこで規格化された航空機システムの章体系のことです。
航空機(飛行機)はたくさんのシステムから構成されていますが、もしもそのシステムの章体系がメーカーごとに違っていたらどうでしょう?
例えば、あるメーカーでは始めは油圧システムからマニュアルが作られているけれど、違うメーカーでは操縦系統からマニュアルが作られているような場合です。
また、例えばあるメーカーだけ着陸装置とブレーキシステムが別の章として区別されているなど、メーカーによってシステムの章分けの考え方が異なると、使う側がメーカーに合わせて頭を切り替えないといけません。
このような煩わしさを省くための規格がATAチャプターなのです。
具体例を挙げると、ATA28章はFuel(燃料)になるのですが、どのメーカーのマニュアルであっても28章と言えばFuelについて書いてあるのです。
ATAチャプターの数だけシステム章があるわけなので、言い換えれば勉強しなければならないシステムには何があるのか、イメージがつかめるというわけです。
ところで、航空の世界では日本語表現よりも圧倒的に英語表現が使われます。
例えばHydraulic Systemは油圧装置ですが、「油圧」の表現はほぼ使われず「ハイドロ」と言う方が一般的です。
なので解説の文章も横文字が多めになるかと思いますが、それが航空業界の文化であると思ってついてきてください。
ATAチャプターによる飛行機システムの分類
ここからはATAチャプターについて、どのような章があるのか順番に見ていきたいと思います。
ATAチャプターは0章からありますが、0章~20章までは整備方法や作業方法一般などについて書かれた章になります。
システムの章はというと、21章~57章と70章~80章に割り当てられています。
21章:Air Conditioning(空調)
まず始め、21章は空調関係のシステム章になります。
飛行機のエアコンシステムは通称「Pack」と呼ばれますが、エンジンから抽気した圧縮空気を外気などで冷却したのちに膨張させて冷やし、温度を調節して客室内に送り込んでいます。
このPackシステムやエアコンダクト関係、客室温度センサーなどに関することが21章として分類されているのです。
また、「与圧」に関する内容も21章になります。
飛行機はエンジンから圧縮空気を送り込みつつ、Outflow Valve(アウトフローバルブ)と呼ばれる弁の開度を調節して、機外に出ていく空気量を調節しています。
これにより客室内の気圧を一定に保つのですが、この与圧システムも21章に分類されているのです。
22章:Auto Flight System(自動操縦装置)
Auto Flight System(オートフライトシステム)はいわゆるオートパイロットシステムのことだと思えば当たらずとも遠からず。
厳密にはオートパイロットはオートフライトシステムの1つに過ぎません。
一般にオートフライトシステムは、操縦桿やラダーペダルを自動で動かすオートパイロット、エンジンスロットルを自動でコントロールするオートスロットル、それからフライトディレクター(FD)と呼ばれる機能を含んでいます。
Flight Director(FD)は入力した速度や経路どおりに操縦ができるよう、機首や旋回度合いなどのガイダンスを計器上に表示させる機能で、マニュアルで操縦していてもFDに合わせれば計画通りの飛行ができるというものです。
これらのシステムを構成するソフトウェアや自動で操縦桿を動かす機構などについて、22章のシステムに分類されているというわけです。
23章:Communication(通信)
飛行機の通信と言えば無線が該当します。
メインで使う無線機はVHF無線機と呼ばれるもので、太平洋上を飛行する機体は他にHF無線機も搭載していることがあります。
最近では人工衛星を介した通信システムもありますが、そちらも23章に分類されますし、音声ではなくメールのように文字でやり取りするACARSと呼ばれる機能も23章に該当します。
24章:Electrical Power(電源)
飛行機のメインの電源は、エンジンのアクセサリーギアボックスに取り付けられたIDG (Integrated Driven Generator)と呼ばれる発電機になります。
ここから得られる交流(AC)電源と、ACを整流器で変換した直流(DC)電源が機体全体に電力を供給しており、バックアップ電源としてバッテリーもDC電源に繋がっています。
さらに両エンジンが停止してしまった場合など、最終手段の発電装置となるRAT(Ram Air Turbine)も24章になります。
これは風車式の発電機で、機体の外部にせり出すことで受ける風圧により回転し、電力を供給する装置になります。
25章:Equipment and Furnishing(客室設備)
25章の例としてはCAさんの仕事場であるギャレーや、お客さんの座席、Overhead Bin(手荷物収納棚)などが挙げられます。
またパイロットのシートやLavatory(トイレ)の設備、緊急脱出用のスライドも25章のシステムなのです。
26章:Fire Protecting(防火設備)
飛行機において消火剤が撒かれる可能性がある場所はエンジン、補助動力装置、カーゴ内の3か所です。
これらの場所では出火を検知するセンサーがついており、コックピットからの操作で消火剤を撒いて鎮火を試みることができます。
あと、Lavatoryのごみ捨てにも消化ボトルが設置されています。
ごみ捨て内で火が上がると、その熱で消化ボトルの栓が溶け、中の消火剤が噴射される仕組みになっています。
また、LavatoryにはSmoke Detectorという装置がついていて、煙を検知して警報を鳴らす機能も付いています。
さらに加えて客室内にはいわゆる一般的な消火器も装備されているのですが、こちらも26章システムの1つとなるのです。
27章:Flight Control(操縦系統)
Flight Controlとは飛行機の姿勢を制御するシステムのことを指します。
これにはPrimary Flight ControlとSecondary Flight Controlの2つがあって、Primary Flight Controlはエルロン、エレベーター、ラダーという、機首上げ(ピッチ)、傾き(ロール)、首振り(ヨー)をそれぞれコントロールする装置を指します。
一方でSecondary Flight Controlはスポイラーやフラップ、トリムと呼ばれる装置を指し、飛行機の姿勢制御で補助的な役割を果たすシステムです。
Primary Flight Controlは、最近ではFly By Wireを呼ばれる電気信号で動きを制御するシステムが主流になっています。
これらの機能をコントロールするコンピューターやエルロンなどのアクチュエーター(駆動装置)が27章に含まれる内容です。
28章:Fuel(燃料)
飛行機の燃料タンクは翼の中にあります。
Fuel Systemを主に構成するのは、Fuelの流れを開閉する制御バルブと、Fuelの流れを作り出すポンプになります。
ポンプは電気モーターで駆動するポンプもあれば、Ejector Pumpと言って負圧を利用して液面を吸い上げるタイプのポンプもあるのです。
また、燃料タンクにはFuelの残量を測るQuantity Sensorや、Fuelの温度を測るTemperature Sensorも取り付けられています。
29章:Hydraulic System(油圧システム)
先ほど27章で出てきたPrimary Flight Controlを動かす動力は油圧によるHydraulic Systemです。
ハイドロというと、一般の方は「水の力」を思い浮かべるようですが(ポケモンのせいかな?)、Hydraulic Systemで使われるのは油(Hydraulic Fluid)です。
このシステムを構成するのは、なんと言ってもこのFluidを加圧するポンプです。
このポンプにはエンジンの回転力で駆動するEDP(Engine Driven Pump)や電気で駆動するEMP(Electrical Motor Pump)などがあって、ハイドロフルードを3,000 psi (B787では5,000 psi)まで加圧します。
psiというのはPound Square Inchという圧力の単位で、1気圧が大体14psiです。
だから3,000psiはざっと、200気圧ということになります。
これほどの大きな力を生み出すシステムが29章なのです。
30章:Ice and Rain Protection(防雨氷装置)
飛行機は飛行中に雲に入ったりして機体が凍り付くような状況になると、エンジンの圧縮空気を抜き取って翼の前縁(前側の丸みを帯びた部分)に流し、翼に氷が付かないようにしています。
これがIce Protectionです。
着氷防止のHeating Systemは他にもエンジンのInlet(吸い込み口)であったり、シンクの水が外に放出されるドレーンマスト、機体の速度を計測するピトー管などにも備えられています。
また、コックピットの窓にはワイパーが付いていますが、この装置も30章のシステムになるのです。
31章:Indicating and Recording(表示および記録装置)
これは少しイメージがしづらい章ですが、Indicating Systemとしてはまずコックピットのディスプレイ類が挙げられます。
最近の飛行機は昔ながらの針や目盛りによるアナログ計器ではなく、液晶ディスプレイにデジタル表示させるシステムなので、31章に関わるシステムは非常に重要です。
また、いわゆるブラックボックスと呼ばれるFDR(Flight Data Recorder)やCVR(Cockpit Voice Recorder)も31章のシステムです。
32章:Landing Gear(着陸装置)
飛行機の脚のことをランディングギアと言います。
このランディングギアを上げ下げする機構であったり、タイヤのブレーキシステム、タイヤの向きを変えるステアリングシステムなどが32章に含まれます。
これらのシステムは基本的に29章のハイドロシステムによって駆動されます。
もちろん、車のものと同じようにゴムでできたタイヤもシステムに含まれます。
33章:Light(灯火)
飛行機の灯火は着陸、地上走行時に前方に光を放つLanding LightやTaxi Light、翼の先端で点灯するNavigation Lightなどがあります。
飛行機のシンボル的な光とも言える赤色の「ピカッ、ピカッ」と光るAnti Collision Light(衝突防止灯)ももちろん含まれます。
意外なところでは、非常時に使う懐中電灯(Flash Light)もパイロットとCAの人数分機内に積まれていて、こちらも33章のシステムです。
またキャビン内の照明や、非常時に脱出用の案内として点灯するEmergency Lightも重要な33章のシステムです。
34章:Navigation(航法装置)
こちらもイメージが難しいかもしれませんが、飛行機が飛行中に自分の位置を知るために必要な装置がまず第一に挙げられます。
VORと呼ばれる地上設備からの方位を知る機上装置であったり、地上設備からの距離を知るDMEなどが代表です。
最近ではGPSも主流になってきています。
その他、管制レーダー画面に表示させる便名や高度情報を送信するトランスポンダーや、飛行機同士の衝突を防止するTCASと呼ばれる装置などもあります。
また、飛行機の高度や速度を知るためのピトー管などのシステムも34章になるのです。
35章:Oxygen(酸素装置)
酸素システムというと、機内の与圧が低下した時に天井から落ちてくるマスクを想像される方が多いかと思います。
まさにそのシステムが35章になります。
客室のシステムはPassenger Oxygen Systemといって、化学反応によって酸素を発生させる装置なのですが、一度使用してしまうと新しいものに交換する必要があります。
一方で緊急事態ではコックピットのパイロットも酸素マスクを被るのですが、こちらの酸素は使い捨てではなく、専用のボトルに酸素を補充するタイプになっているのです。
36章:Pneumatic System(圧縮空気装置)
Pneumaticは「ニューマチック」と読み、圧縮空気のことを指します。
最初に登場したエアコンシステムも、元々はエンジンの圧縮機から抽出した圧縮空気(ブリードエアと言います)を使っており、Packに入る前までのシステムが36章になるのです。
ブリードエアは他に、翼の防氷機能、エンジンのスターター、給水システムの加圧などにも使われています。
38章:Water and Waste(給水廃水)
簡単に言ってしまえば、手洗いの水とトイレの廃水機構が38章に該当します。
飛行機には手洗いやトイレ用に使う水のタンク(Portable Water Tank)と、トイレの汚物を溜めておくタンク(Waste Tank)があります。
これらの配管であったり、トイレのFlushing System(水を流すシステム)が38章なのです。
44章:Cabin System(客室装置)
Cabin Systemと言えばまず挙げられるのが、客席に装備されたエンターテイメントシステムです。
それ以外では、CAさんが操作する照明や空調などを調節するサービスパネルが挙げられますし、機内アナウンスに使うPassenger Address Systemも44章になります。
45章:Central Maintenance System(整備中枢システム)
整備中枢システムと無理やり日本語にしてみましたが、一般にはCMC(シーエムシー)とかCMCF(シーエムシーエフ)と言った方が違和感がありません。
これらはCentral Maintenance Computer Functionと言います。
最近の飛行機ではいろいろなシステムに様々なセンサーが付いていて、何か不具合が発生するとその状態を記録していてトラブルシュートができたり、CMCFを通じて復旧作業を行ったりすることができるのです。
飛行機自体が大きなパソコンのような装置になっていると言えば近いかもしれません。
CMCFを使ったトラブル対処は、整備士にとって切っても切り離せないことなのです。
49章:Auxiliary Power System(補助動力装置)
飛行機は翼のエンジンを回していないとElectric GeneratorやHydraulic Pumpが止まり、Pneumatic Systemも作動しないので、電気が消えてシステムも動かなくなってしまいます。
このような時にエンジンの代わりに動力や電力を供給するのがAuxiliary Power Unit、通称APUであり、地上駐機中に活躍するシステムです。
ジェットエンジンを作動させるには、Pneumatic Airの力でエンジンの圧縮機を回さないといけませんが、その時のPneumatic Airを供給するのもAPUです。
APUは地上で使うほか、上空でエンジンが故障した場合の予備電源や予備動力源としても使われます。
50章台:Structure(機体構造)
50章台はまとめて1つのチャプターと思ってもよいぐらいです。
これらの章はすべて、機体構造の章になります。
正確には機体構造の中でもさらにチャプターが分かれていて、例えば52章はDoorに特化した章ですが、57章は翼の構造に関する章になります。
飛行機胴体は卵の殻のように柱のない壁だけの構造で、この壁に円形の補強材である「フレーム」、胴体の長さ方向の補強材である「ストリンガー」を用いて強度を増したセミモノコック構造と呼ばれています。
材質はアルミ合金です。
最近ではアルミ合金に代わり、炭素繊維複合材のプラスチック、いわゆるCarbon FRPを用いた機種が登場し始めたことは有名ですよね。
70章台~80章:Engine(発動機)
70章台+80章もまとめて1つの章と言ってもよく、こちらはジェットエンジンの章になります。
50章台と同じく、70章台もエンジンシステムで細かく分かれていて、73章が燃料供給、74章がIgnition(点火系統)で78章がスラストリバーサー、80章がOil(潤滑) Systemといった具合です。
大型機材のジェットエンジンは1基で小型飛行機1機分するぐらい高価な装置ですし、ジェットエンジンだけの専門家が存在するぐらい、それだけで幅広い知識が必要なチャプターと言えるでしょう。
絶対理解できない!無理!と思うかどうかはあなた次第
いかがでしたか?
ここに出てきたシステムすべてが航空機システムであり、整備士資格を取得するためには全て理解しておく必要があります。
「うへぇ!絶対無理!」
と思う方もいるかもしれませんが、実際にこれだけのボリュームがある勉強をこなして、立派に整備士として活躍している人がたくさんいるのです。
最初に触れたように、必ずしも高学歴である必要はありません。
むしろこのように勉強することが体系化されているのが航空業界の特徴であり、やるべき内容の全体像が見えているので勉強しやすい一面もあると思います。
もしも飛行機の整備士に興味を持ったのであれば、まずはそれぞれのATAチャプターが何のシステムに関するチャプターなのか、覚えることから始めてみませんか?
以上!