こんにちは。ころすけです。
飛行機の動力と言うと何を思い浮かべますか?
多くの人が「ジェットエンジン」と答えると思います。
これは大正解です。
飛行機が “推進力を得るための動力” としてはジェットエンジン以外にありません(レシプロエンジン機はジェットエンジンではないですが)。
しかし飛行機が飛ぶためには単に推進力があれば良いわけではなく、客室内の空調や照明などが機能していなければなりませんし、飛行機の姿勢を制御するためのエルロンやラダーといった装置類も作動させなければなりません。
これら“飛行機システムを動かすための動力” には何があって、どこから来ているのでしょうか?
解説します。
飛行機のシステムを動かす仕組み。動力は3つあります。
飛行機システムを動かす動力は大きく分けると3つしかありません。
その3つとは以下の通りです。
① Electrical Power:電力(ATA24章)
② Hydraulic Power:油圧(ATA29章)
③ Pneumatic Power:圧縮空気(ATA36章)
飛行機の推進力を得るのはジェットエンジンですが、そもそもジェットエンジンを作動させるためには電力や圧縮空気の力を借りなければなりません。
なので飛行機を動かす最も基礎的な動力というと、上で挙げた3つの力になるのです。
ATAのチャプターも添えておきましたが、整備士になる時など飛行機のシステムの勉強をするのであれば、これらはまず始めに理解しておきたいチャプターになります。
なぜなら飛行機システムのどれをとっても、この3つの動力と無関係であるシステムはないと言ってもよく、すべてのシステムにおいて基礎になるからです。(50章台の機体構造を除く)
とりわけ24章のElectrical Powerについては関係していない章なんてないと思います。
(ATAチャプターについてはこちら↓)
それではここからは、3つの基礎的な動力がどのようなものか詳しく見ていきましょう。
飛行機システムを動かす3つの動力源について詳しく見ていこう
① Electrical Power(電力)
まず始めは電力です。
小学生の理科の授業でも出てくるかと思いますが、電流にはDC(直流)とAC(交流)があります。
直流は一方向にしか電気が流れない電流なのに対し、交流は電気が流れる方向が周期的に変化する電流です。
飛行機のシステムでも直流で動いているものと、交流で動いているものの2種類あるのです。
どのシステムが直流で動いていて、どのシステムが交流で動いているのかまで話すとキリがないですから、今回は飛行機でも直流と交流の2つの電力が必要ということだけ頭に入れておいてください。
ではこの電力ですが、飛行機ではどのようにして確保しているのでしょうか?
直流、交流それぞれに分けて発生装置を確認してみましょう。
DC電源(直流):交流から整流器で変換、バッテリー
AC電源(交流):エンジンの発電機、APUの発電機、(外部電源)
うーん、ちょっと分かりづらいですね。
なので図を用いて解説しましょう。
下の図がエンジンを回す前の電源確保のイメージです。
そもそも飛行機が夜間駐機している時、飛行機の電源は落とされた状態にあります。
ここから飛行に向けて準備するわけですが、この時に使用できるのはバッテリーの直流電源だけです。
これではAC電源は使えませんし、DCを使うにしてもバッテリーの容量はたかが知れています。
そこでどうするかと言うと、まずバッテリー電源を使って補助動力装置(APU)を作動させるのです。
APUはジェット燃料で動く小型のジェットエンジンのようなものですが、排気で推進力を得るのではなく、排気の力でGenerator(発電機)を回して電力(AC)を得ることができます。
このようにしてAC電源を確保し、AC駆動系が使えるようになるというわけです。
一方で直流電源はどうするかというと、APUが発生させたAC電流を整流器で直流に変換して確保しています。
この整流器はTRU(Transformer Rectifier Unit)と呼ばれています。
つまりDC電源もAC電源も、基本的にAPU Generatorが生み出す電力によって賄われているというわけです。
この状態で飛行機の出発準備が整うと、飛行機は翼にあるジェットエンジンをスタートさせます。
そうするとAPUはここでお役御免となって、今度はエンジンについているIDGと呼ばれる発電機がAC電源となるのです。
IDGはジェットエンジンの回転力を使う発電機です。
このように地上ではAPUのGenerator、エンジンがスタートしてからはエンジンのIDGが全ての電源の元になるというわけです。
なのでAPU GeneratorやIDGは、Primary Power Sourceなんて言われたりもします。
ここまでが基本で、地上にいる時の電源はAPUなのですが、地上にGPU(Ground Power Unit)という外部電源がある場合はAPUを回さなくとも電源を確保することができます。
GPUは地上設備で発電したAC電流を機体に供給する設備で、コネクターを機体側の差込口に挿せば使えるようになります。
ただしGPU設備が整っていない空港もあるので、そのような空港ではエンジンが止まっている際にはAPUを使わないといけません。
② Hydraulic Power(油圧)
2つ目の動力源がHydraulic Powerです。
この動力を得るために、飛行機ではHydraulic Fluidと呼ばれる作動油をポンプで加圧しています。
Hydraulic Fluidは触ると皮膚にピリピリと痛みを感じるような、人体にとってはとても有害な油です。
これを昇圧するポンプにはEDP(Engine Driven Pump)やEMP(Electrical Motor Pump)があります。
EDPはジェットエンジンの回転力をそのままポンプの回転に使って圧縮する装置で、EMPでは電気モーターを使ってポンプを回転させています。
なのでエンジンが止まっている時はEMPを使わないとHydraulic Systemを加圧することができません。
エンジンが回りだすとEDPがメインになって、EMPはバックアップのポンプになるというわけです。
加圧されたFluidは3000psiという圧力値まで加圧されて、アクチュエーターの片面に流されます。
加圧されたFluidを流された方とそうでない方の圧力差で、アクチュエーターが動くというわけです。
3000psiという圧力がどの程度か想像しづらいですが、手のひらを使ってこの圧力で力を加えると、約8.5トンの力がかかる計算になります。
ちなみにB787ではさらに高い5000psiになっているそうです。
アクチュエーターというのは駆動装置のことで、様々なシステムのアクチュエーターが油圧によって動いています。
機種により異なりますが、油圧式アクチュエーターで動くシステムには以下のようなものがあります。
・エルロン、ラダー、エレベーター(まとめてコントロールサーフェスと言います。)
・スポイラー、フラップ
・タイヤブレーキ、ステアリング
・ランディングギアの上げ下げ
・スラストリバーサー(逆噴射装置)の開閉
③ Pneumatic Power(圧縮空気)
3つ目が圧縮空気で、ニューマチックパワーと読みます。
この力はどこから生み出されるのかというと、エンジンの圧縮機からになります。
下の図はジェットエンジンの模式図を示していますが、ジェットエンジンは吸い込んだ空気をまず圧縮し、その空気を燃料と一緒に燃焼させることで推進力を生み出しています。
この燃焼する前に圧縮される空気を、少し抜き取って使うのです。
このような空気をブリードエアと言います。
ブリードエアの使用先のほとんどはエアコンと与圧です。
抜き取ったブリードエアを冷やしてから膨張させると、適度な圧力を持った冷却空気を作ることができます。
飛行機が飛ぶ高度1万メートル付近は気圧が低く空気が薄いですから、客室内に空気を送り込んで気圧を高めてあげないといけません。
この送り込む空気の源になるのがブリードエアというわけです。
ブリードエアは他に翼に氷が付着しないように温める「アンチアイス」と呼ばれる装置に使われたり、給水システムへの圧力源となって給水タンクから客室内の蛇口へ水の流れを作る用途もあります。
ブリードエアはAPUでも作られるので、地上にいる時の冷暖房の空気はAPUからのブリードエアで作られています。
ですがAPUで作られるブリードエアで最も重要な用途は、ジェットエンジンをスタートさせるためのスターターとしてです。
ジェットエンジンをスタートするためには、まずエンジンの圧縮機を外部からの力を借りて回してやる必要があります。
この圧縮機は非常に重いので、電気モーターなどで回すのは非常に困難なのです。
そこで圧縮機を回す動力源として、APUからのブリードエアが使われるのです。
圧縮空気(ブリードエアの使い道)
・客室の与圧
・客室の冷暖房
・着氷防止のアンチアイスシステム
・給水システムの加圧
・ジェットエンジンのスターター
と、ここまでが多くの機種に見られるブリードエアの使い道ですが、B787ではこのブリードエアの使い道になる装置のほとんどが電力で駆動するように変わっています。
B787では客室のエアコンや与圧も電気モーターによる圧縮機を使っているようですし、エンジンのスターターも電気モーターだそうです。
このように機種によってシステム設計が異なるので、機種ごとの違いに注目してみるのも面白いと思いますよ。
3つの動力源にはバックアップの仕組みが施されている
ここまでで、飛行機システムの動力源となる3つの力についてイメージができたかと思いますが、実は3つの動力源について共通するある設計思想があるのです。
それは「動力源には必ずバックアップの仕組みがある」ということです。
下の図はHydraulic Systemの例を示しています。
ほとんど全ての飛行機がそうですが、Hydraulic Systemの油圧ラインは通常、1本ではなく3本ほど備えられています。
飛行機の運航では何らかのトラブルがつきものです。
そのようなトラブルが発生した場合に、もしも1つの動力源が不作動になってしまった場合に、その動力で動くすべてのシステムが停止してしまったら大変です。
そのような場合に備えて、仮に1つの動力源が不作動になっても、残りの動力源で飛行自体は継続できるように予め設計されているのです。
終わりに
いかがでしたか?
飛行機のシステムは複雑ですが、実はひも解いてみると3つの動力源しかないのです。
先ほども少し紹介したように、B787ではブリードエアに代わって電力で従来のシステムを駆動させる設計が多く採用されています。
これから新しい飛行機が開発される際、このようにこれまでの動力源が別の動力源にとって代わるといった発想が今後も出てくると予想されます。
その時に、これまでの動力源は今回解説した電力、油圧、圧縮空気の3つだったと理解しておけば、従来の機種と比較することでまた違った見方ができて面白いと思いますよ。
以上!