こんにちは。ころすけです。
みなさんは飛行機の車輪についてどのぐらいご存知でしょうか?
飛行機の車輪は翼の付け根付近にあるものと、機首付近にあるものと2種類あるのですが、これは外観からでも見て取ることができるかと思います。
ではそれらの車輪がそれぞれどのような働きをしているのか、ちょっと興味が湧かないでしょうか?
飛行機の車輪は翼の付け根付近のものと機首付近のものでそれぞれ異なる役割があって、それぞれ興味深い仕組みを備えているのです。
今回はそんな飛行機の車輪(脚)について、その仕組みを解説したいと思います。
飛行機の脚は前脚と主脚とありますが、今回は前脚についての解説です。
それでは始めましょう。
飛行機の車輪(脚)はランディングギアと呼ばれる
飛行機の車輪(脚)はLanding Gear(ランディングギア)と呼ばれ、タイヤやホイールから力を支える構造まで含めた部分を指しています。
今回焦点を当てる前脚はNose Landing Gear(ノーズランディングギア)と呼ばれ、表記する際は多くの場合NLGと書かれます。
一方で主脚はMain Landing Gear(メインランディングギア)と呼ばれ、MLGと表記することが一般的です。
メインランディングギアについての解説は以下の記事で解説していますので、併せて読んでいただけると面白さが倍増すると思います。↓
それではまず、ノーズランディングギアがどこに取り付けられているのか確認しておきましょう。
下の図は飛行機を横から見た図を表しています。
ノーズランディングギアは図の赤丸で記した部分、ちょうどコックピットの下にあるランディングギアのことを指します。
飛行機では機首のことをNose:ノーズと言うのですが、機首部分にあるランディングギアなのでノーズランディングギアというわけです。
ちなみに、翼の付け根付近にあるもう1つがメインランディングギアです。
ランディングギアが果たす役割は主に地上走行時の車輪としてですが、ノーズランディングギアではそれ以外にも以下の役割があります。
・地上走行時の車輪の役割
・地上にいる時に機体重量を支える役割
・地上走行中に方向を変えるステアリングの役割
・着陸時の衝撃を緩衝する役割
ランディングギアの基本構造と格納・展開する機構
下の図は先ほどの図でノーズランディングギア部分を拡大したものです。
図に描かれているように、ノーズランディングギアには軸脚を斜め方向に支えるDrag Braceがついており、これによって荷重を分散させています。
Drag Braceと軸脚に跨るように取り付けられているのはLocking Stayと呼ばれる部材です。
Drag Braceはギアの格納(ギアアップ)時にLocking Stay側に折れ曲がるように可動するのですが、Locking Stayが突っ張り棒の役割をすることによって、展開(ギアダウン)した際にDrag Braceがロックされた状態になるのです。
図ではLocking Stayまで図示していますが、通常はLocking Stayから上の部分は胴体やGear Doorの陰に隠れてしまうので、外から見ることは難しいかもしれません。
後方側に見えるくの字の部材はTorsion Linkと呼ばれるものです。
ノーズランディングギアはタイヤの向きを変えるステアリング機構を備えていますが、Torsion Linkが軸脚とタイヤ間でステアリングの回転力を伝達しているのです。
Torsion Linkは機種によってはTorque Linkなどとも呼ばれます。
それではここからは、ランディングギアが格納/展開(ギアアップ/ダウン)される際の機構について見てみましょう。
ここでは図示していませんが、ギアのアップ/ダウンは油圧の力で伸縮するギアに取り付けられたアクチュエーターによって行われます。
ギアアップ/ダウン時の詳細な動きを簡単に説明すると、2つのアクチュエーターの動きが連動しています。
以下はギアがアップする時の動きです。
① 始めにLocking Stayを上向きに持ち上げるアクチュエーターがStayの突っ張りを解除する。
② 次に軸脚の回転軸よりやや下側に取り付けられたアクチュエーターがギア全体を内側に引っ張ることで、Side Stayが折り曲げられ、ギア全体が内側に回転して格納される。
展開(ダウン)する時はこの逆の動きをするというわけです。
なかなかテクニカルな機構ですね。
ちなみに、メインランディングギアはアップ/ダウンの向きが90度違っていて胴体の内側に引き込まれるような構造ですが、向きが違うだけでStayのLock機構やアクチュエーターの動きはノーズランディングギアとほとんど変わりません。
メインランディングギアのアップ/ダウン。↓
ノーズランディングギアは機首の前方に折りたたんで格納される。その理由は?
ノーズランディングギアは機首方向に折りたたむように引き込まれますが、なぜ機首方向なのでしょうか?
これには風の風圧によって受ける力の向きが関係してきます。
ランディングギアは着陸の際に必須になるので、飛行機にとってはランディングギアがアップできないことよりも、ダウンできないことの方がより危機的な状況と言えます。
油圧などが不具合を起こしてランディングギアの通常操作ができない場合、重力を利用して自然にギアをダウンさせるような手法を取るのですが、その際に受ける風圧がギアダウン操作の妨げにならない向きになっているのです。
着陸時の衝撃緩衝機構はどうなっている?オレオ式ショックストラットについて
それでは次は、ランディングギアの着陸時の衝撃緩衝装置としての働きを見ていきましょう。
この機構はメインランディングギアと同じなので、メインランディングギアの解説記事を既に読んでいる方は読み飛ばしていただいて構いません。
ランディングギアの軸脚は、実はアウターシリンダーとスライディングチューブの二重構造になっていて、スライディングチューブから下側が上下に伸び縮みできる構造になっています。
アウターシリンダーとスライディングチューブの中にはN2(窒素ガス)と作動OILが充填されていて、上側にN2、下側にOILの配置になっています。
N2とOILにはそれぞれ異なった役割があるのですが、まずN2は伸縮時に衝撃を和らげるバネの役割を果たしています。
いわゆる空気バネの構造になっているのです。
しかし、実はバネが入っているだけでは緩衝装置としては不十分なのです。
バネは上下に伸び縮みすることで衝撃を和らげてくれますが、これだけではバネの伸縮が減衰せずにボヨンボヨンと弾みつづけてしまうのです。
この伸縮を減衰させる役割を果たすのが、下側に充填されたOILです。
OILはスライディングチューブが伸び縮みする際、アウターシリンダーとスライディングチューブの間を行ったり来たりします。
実はスライディングチューブの上部にはオリフィスと呼ばれる穴が開いており、行ったり来たりする際にOILはオリフィスを通過することになります。
このオリフィスを通過する際に発生するOILとチューブ間の摩擦力が、バネの振動を徐々に減衰させる効果を生み出すのです。
このように飛行機の衝撃緩衝装置は、N2によるバネの効果とOILによる振動の減衰効果を組み合わせた機構になっているのですが、このタイプの装置は「オレオ式ショックストラット」と呼ばれています。
飛行機の車輪ステアリングの仕組みは?
続いてはノーズランディングギアのステアリング機構について見てみましょう。
地上走行中に飛行機が曲がるためには、コックピットの脇にあるチラーハンドルと呼ばれるハンドルを操作します。
チラーハンドルは操縦桿とは異なりますので注意しましょう。
チラーハンドルを回してやると、それに応じてステアリング機構がノーズランディングギアのタイヤの向きを変えるように働きます。
実際にタイヤの向きを変えるために作動するのは、ノーズランディングギアに取り付けられたステアリングアクチュエーターです。
ノーズランディングギアをよく見ると、タイヤのすぐ上に筒のようなパーツがあることが分かります。
これがステアリングアクチュエーターです。
ステアリングアクチュエーターの機構は機種により異なりますが、いずれにしても油圧駆動のアクチュエーターが使われています。
油圧アクチュエーターの前後運動をノーズホイールの回転運動に変えることで、タイヤの向きを変えているのです。
下の写真はA330のステアリングアクチュエーターですが、ピストンの筒が2本あることが分かります。
終わりに
いかがでしたか?
特に地上にいる時は、飛行機にとってランディングギアは非常に重要なシステムの1つになります。
ランディングギアは胴体やパネルの陰に隠れがちですが、飛行機のシステムの中で唯一外からむき出しになっている部分でもあります。
最近のカメラは望遠機能も充実していますから、拡大して撮影すれば部品の細部まで見ることができると思います。
飛行機を見る際にはぜひ、ちょっと趣向を変えてランディングギアに注目してみてはいかがでしょうか?
以上!