飛行機

ジェットエンジンの仕組み!~エンジンはどのように始動するのか~

こんにちは。ころすけです。

飛行機のエンジンと言えばジェットエンジンですね。

飛行機に乗り、駐機場からプッシュバックが始まると、間もなく「シュイ~ン」というエンジン始動音が聞こえます。

この音に高揚感を覚える方も多いのではないでしょうか。

ではこのジェットエンジンですが、どのような仕組みで始動するのかご存知でしょうか?

今回はジェットエンジンが始動する際に飛行機内で何が起こっているのか、解説したいと思います。

ジェットエンジンの始動!

まずは圧縮機を回して助走をつける

下の画像は旅客機のジェットエンジンの中でも最も主流である、ターボファンエンジンの仕組みを簡略化したイメージです。

ターボファンエンジンでは最前方にあるファンが回転することで、後方にジェット噴射を排出しています。

ファンの後方には圧縮機があって、これは吸い込んだ空気を回転の力で圧縮し、そのさらに後方にある燃焼室に送っています。

ターボファンエンジンの全体イメージ

燃焼室に送られた空気は燃料と共に燃焼され、燃焼によって膨張する空気のエネルギーがジェット噴射となるのです。

この時のジェット噴射のほとんどは、燃焼室のさらに後方にあるタービンを回す力に使われます。

燃焼室のすぐ後ろの高圧タービンは圧縮機に繋がっていて、次に吸引する空気を圧縮するので、これはジェットエンジンの連続運転につながります。

一方で最後方の低圧タービンは最前方のファンに繋がっていて、ここでの回転力=ファンの回転力になり、ファンの回転が推力の大部分を作り出すのです。

このようにジェットエンジンを作動させるためには、まず第一行程として圧縮機を回して空気を吸い込み、さらにその空気を圧縮することが必要です。

ですが、エンジン始動前は当然圧縮機も回転していません。

そこでどうするかと言うと、まず始めの行程のきっかけを作ってやるために、圧縮機を外部からの力で回して助走をつけてやるのです。

この時、助走には直接圧縮機を回すのではなく、エンジン下部に取り付けられたアクセサリーギアを回すことで間接的に圧縮機を回します。

アクセサリーギアとニューマチックスターターのイメージ図

アクセサリーギアは、普段は圧縮機の回転力を分けてもらって、エンジンの作動に必要な様々な補機を回転させる動力源となっています。

エンジンをスタートさせる時は、アクセサリーギアを回すことで逆に圧縮機に回転力を伝えるわけです。

ところで、エンジンの圧縮機というのはそれなりに重量もあって、回転させるにしてもある程度大きな力が必要です。

この力を得るために、ジェットエンジンでは通常、別のところから引っ張ってきた圧縮空気(ニューマチックエア)を使用するのが一般的です。

アクセサリーギアボックスには外部からの圧縮空気が来るダクトと、その流れをコントロールするバルブが付いているのですが、この仕組みのことをニューマチックスターターと呼んでいます。

ニューマチックスターターのエアはどこから来る?

ジェットエンジンの始動には外部からの圧縮空気が必要と分かったところですが、この圧縮空気はどこから供給されるのでしょうか?

エンジンスタートのための圧縮空気には以下の3通りの供給源があります。

① APU(補助動力装置)からの圧縮空気

② 地上の補助設備(GSE)からの圧縮空気

③ 既に作動している反対側のエンジンからの圧縮空気

順番に見ていきましょう。

① APU(補助動力装置)から

通常時のエンジンスタートで使用されるのはAPUからの圧縮空気を使う方法です。

APUは胴体の後部に取り付けられた小型のジェットエンジンです。

ジェットエンジンと言っても噴射によって推進力を生み出すことが目的ではなく、排気の力をそのまま圧縮空気として使用したり、排気の力で発電機を回して電力を生み出すことが目的の装置です。

このAPUの始動は電気モーターによって行われますが、機体に搭載されたバッテリーや、空港施設の外部電源で始動させることができます。

なので、エンジンを始動する前にまずAPUを始動させるのです。

そしてAPUで作られた圧縮空気をジェットエンジンのアクセサリーギアボックスまで通すことで、ジェットエンジンの始動に利用するわけです。

下の図はAPUから翼下のジェットエンジンまでのダクトの様子をイメージしていますが、ダクトは胴体、翼を経由してAPUからジェットエンジンまで繋がっています。

APUからの圧縮空気供給のイメージ

② 地上の補助設備(GSE)から

続いては、万が一APUが故障していて使用できない場合の方法です。

イメージとしてはAPUと同じですが、空港に備え付けの地上設備(GSE: Ground Service Equipment)が圧縮空気を供給します。

大きな空港では駐機スポットの地面にダクトが埋まっていて、圧縮空気を使用することが可能ですし、小規模な空港でも通常、台車が付いた可搬式のGSEが配備されています。

飛行機側には、ちょうど胴体のお腹あたりのパネルを開けると機体内部ダクトへの接続口があるので、そこへ接続して使います。

エンジンのスタートは通常、機体をプッシュバックさせながら実施しますが、この方法ですと駐機スポットに停止したままエンジンをスタートさせる必要があります。

GSEからの圧縮空気供給のイメージ

下の画像では、ASU(Air Starter Unit)と呼ばれるGSEがエンジンスタートのために機体胴体下部に接続されています。

ちなみに、大きな空港では駐機中、機内空調のための空気も外部施設から供給するケースが多くあります。

こちらの接続部も胴体中央付近の下部にあり、エンジンスタート用のエアホースよく似ていますが、エアコン用のものはエンジンスタート用のホースよりも太いので見分けることができます。

③ 既に作動している反対側のエンジンから

最後は既に作動している反対側のエンジンから圧縮空気を導く方法で、②の方法で1番目のエンジンをスタートさせた後、2番目以降のエンジンをスタートさせる場合に使用します。

作動中のエンジンの圧縮機に流れる空気を一部抽出して(ブリードエアと言います)、これもまた胴体のダクトを通じて反対側のエンジンに送り込むのです。

左右のエンジン間のダクトは、通常は胴体中央にあるクロスブリードバルブ(Cross Bleed Valve)で仕切られていますが、エンジンをスタートさせる時はこのバルブが一時的に開くのです。

下の図は、作動済みの右エンジンから左エンジンをスタートさせる場合のイメージです。

作動しているエンジンからの圧縮空気供給のイメージ

 

B787のエンジンスタート。ニューマチックエアは不要です。

ここまでは多くの旅客機で主流のニューマチックスタートについて解説してきましたが、実はB787ではニューマチックエアによるエンジンスタートは行っていません。

B787ではエンジンのアクセサリーギアボックスに大容量の発電機が付いているのですが、これがジェットエンジンのスターターになるのです。

この発電機は、エンジン作動時にはエンジンの回転力によって発電機として働き、B787に必要な大量の電力を供給しています。

その逆に発電機に電気を流して回してやれば、今度はその強力な電力でアクセサリーギアを介してジェットエンジンを始動させるスターターになるというわけです。

この発電機兼エンジンスターターVFSG(Variable Frequency Starter Generator)と呼ばれています。

B787のVFSGによるエンジン始動のイメージ

ただし、VFSGを作動させるために今度は電力を供給しないといけないのですが、その電力はAPUの発電機で作られたものが使用されます。

圧縮機の助走から定常運転までの流れ

一連の制御はN2の回転数で判断される

ここまではジェットエンジンを始動させる際の、圧縮機の助走について解説してきました。

ここからは、助走によって圧縮機が回転を始めると、その後に何が起こるのかについて解説します。

ジェットエンジンでは通常、一番前方にあるファンの回転数をN1、その次にくる圧縮機の回転数をN2と表現します。

コックピットのエンジン計器には、このN1やN2の回転数がエンジンの作動状態を示すパラメーターの1つになっていて、定格運転時の状態を100とした場合のパーセントで表現されます。

ちなみに、機種によっては圧縮機が二段に分かれているものがあって、それぞれ別の回転数で回るものもあります。

その場合は前段の圧縮機の回転数がN2で後段の回転数がN3などと表示されます。

さらに燃焼室の状況をモニターする計器表示として、燃焼室に流れる燃料流量を示したFF(Fuel Flow)の値や、機種によっては点火プラグのIgnitionの状況もコックピットの画面(EICASやECAM)上に表示されるのです。

エンジン構造と計器表示 コックピットのエンジン計器表示のイメージ

機種によって細かな数値は異なりますが、エンジンのスタートが開始されると、通常以下の順番でエンジンは定常運転状態まで始動されます。

① 外部からの力で圧縮機が回転するためN2が上昇を始める。

② N2の回転数が約7~15%になるとIgnitionプラグが点火を始める。

③ N2の回転数が約20%で燃焼室に燃料が流れ込みだす。FFの値が上昇する。

④ N1やEGT(排気ガス温度)が上昇してアイドル状態まで加速する。

⑤ N2の回転数が約50%でスターターが切り離される。Ignitionプラグの点火停止。

Ignitionの開始や燃料供給の開始など、N2の回転数に応じて順番に物事が進んでいくように制御されているのです。

そしてある程度回転数が上がると、外部からの力はシャットアウトされて、エンジンは自らの力でアイドル状態まで回転数を上げていくのです。

また自動車のエンジンとは異なり、ジェットエンジンではIgnitionの点火は始動の時だけ行われている点も興味深いかと思います。

ジェットエンジンは圧縮や燃焼など全ての行程が連続的に続く仕組みが特徴ですから、一度燃焼が開始されれば、その後は点火不要で自動的に継続されるのです。

エンジンスタート時のパイロットの操作は?

基本はコンピューターによるオートマチックスタートです

では、これだけ複雑な始動プロセスを踏むにあたって、コックピットのパイロットはどのような操作をしているのでしょうか?

結論から言うと、エンジンのスタートプロセスはほとんど自動化されていて、パイロットはエンジン始動に必要なスイッチやノブ操作をわずかにする程度です。

エンジンの作動制御は、エンジン本体に取り付けられたFADECEECと呼ばれるコンピューターが行っており、始動時の複雑なシークエンスもこのコンピューターが制御してくれるのです。

これもまた機種によって若干異なりますが、パイロットの操作としては①エンジンスタートノブをスタート位置に回す②Fuel Controlスイッチを押して燃料供給を可能な状態にする、この2操作だけなのです。

ただエンジンをスタートさせるだけであれば、自動車のエンジンをかける時とさほど違いがないぐらいなんですね。

終わりに

いかがでしたか?

ジェットエンジン始動時の内部の様子は実際に見ることができないですから、その仕組みについて少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。

飛行機に搭乗した際、窓側の席であれば始動するエンジンの様子を見たり、始動音を聞くことができるかと思います。

もしも興味がありましたらぜひ、エンジン始動時の一連のシステムの動きについて、想像しながら搭乗してみてはいかがでしょうか?

 

以上!

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