こんにちは。ころすけです。
飛行機の速度が6種類あるってご存知でしょうか?
「えっ?速度なんて一つに決まってるじゃん」という声が聞こえてきそうですが、何をどのように計測して速度とするかによって、飛行機では6種類の速度が存在するのです。
ちょっとマニアックな話題ですが解説します。
飛行機の速度には6種類ある!
6種類の速度にはそれぞれ名前が付いていますが、まずはどんな速度があるのか挙げてみましょう。
1. Indicated Air Speed (IAS): 計器指示対気速度
2. Calibrated Air Speed (CAS): 校正対気速度
3. Equivalent Air Speed (EAS): 等価対気速度
4. True Air Speed (TAS): 真対気速度
5. Ground Speed (GS): 対地速度
6. MACH: マック ※音速基準の速度
以上の6種類が飛行機の世界で使用される速度です。
それでは、それぞれの速度についてどのような速度かを順番に見ていきましょう。
①Indicated Air Speed (IAS): 計器指示対気速度はコックピットに表示されるメインの速度
Indicated Air Speed(計器指示対気速度)はコックピットに表示されるメインの速度になります。
この速度はどのような速度かというと、前方からぶつかってくる空気の圧力の大きさを基準とした速度です。
バイクに乗っていて、速度が速ければ速いほど、受ける風圧(ぶつかってくる空気の圧力)は大きくなると思います。
このように、受ける圧力の大きさを基準にして速度を逆算しているのがIASなのです。
なぜ、圧力の大きさを基準にした速度をコックピットに表示させているのでしょうか?
考えられる理由の一つとして、ぶつかってくる空気の圧力を測定して速度表示する機構は原理が簡単であり、飛行機の黎明期から継承されている仕組みがそのまま引き継がれていることが考えられます。
またもう一つ大きな理由として、ぶつかってくる空気の圧力を基準とした速度を用いると、翼に発生する揚力と関係づけられる点が挙げられます。
実は翼に発生する揚力は、翼に空気が当たる角度とぶつかってくる空気の圧力で決まるのです。
翼に当たる空気の角度が急になりすぎると、飛行機は失速と呼ばれる状態に陥ってしまいます。
この時、ぶつかってくる空気の圧力基準の速度を用いれば、当たる空気の角度を逆算して失速の兆候を知ることができるのです。
②Calibrated Air Speed (CAS): 校正対気速度は補正されたIAS
Calibrationというのは校正するという意味ですが、その名の通りCASは校正された速度を指します。
何を校正しているかと言えば、IASを測定している機器の取り付け位置による誤差です。
図に示すように、IASを測定するには全圧と静圧という二つの圧力を測定する必要があるのですが、それぞれを計測する機器はピトー管、静圧孔と呼ばれます。
これらの測定機器は、厳密に言えばその取り付け位置や機体の姿勢などで、理論通りの正しい値とは誤差が生じてしまいます。
この誤差をIASから取り除いたものがCASというわけです。
実は先ほどコックピットに表示されるのはIASと言いましたが、速度計算をコンピューターで処理している飛行機においては表示されるのはCASとなります。
一般的にCASの誤差は非常にわずかであり、計測機器の精度が高いか低いかの違いですので、IASとCASの違いを意識することはあまりありません。
パイロットのマニュアルも、CASを用いている場合であってもIASという言葉で表記されている場合がほとんどです。
ですから、CASとIASはほぼ同じものと考えても良いでしょう。
③Equivalent Air Speed (EAS): 等価対気速度は空気の圧縮性を考慮した速度
EASは少し難しいですが、IASやCASから空気の圧縮性を考慮した速度になります。
IASやCASの測定に使用されるピトー管は、前方からぶつかってくる空気を堰き止めて、その時の圧力を計測しています。
この圧力を速度に変換するのがベルヌーイの式と呼ばれる方程式なのですが、実はこのベルヌーイの式は空気が全く圧縮性を持っていないことが前提になっているのです。
圧縮性とは押すと気体の体積が変わる性質のことを指します。
圧縮性があると、堰き止めた時に空気分子の体積が小さくなるのですが、そうすると計測される圧力は圧縮性がない時に比べて高くなります。
つまり、圧縮性を考慮しないと前方からぶつかってくる空気は実際よりも速いと認識してしまい、飛行機の速度は実際よりも速く表示されてしまうのです。
これが等価対気速度です。
圧縮性の影響は高度が高いほど、速度が速いほど正確な値とのずれが大きくなります。
ですから、高高度を音速に近い速度で飛行する旅客機では無視できないものです。
先ほど、IASは翼に発生する揚力と関係づけられる速度だと言いましたが、実は圧縮性も考慮したEASを使わないと正確な関連付けはできません。
例えばEASが同じであれば、飛行機は同じ速度で失速状態に入ります。
コックピットの表示はIASなので問題があるように思えますが、パイロットのマニュアルには圧縮性が無視できない条件では、EASの補正も考慮して失速するIASを掲載しているので問題はないのです。
EASは飛行機を設計開発する時によく使われるようです。
④True Air Speed (TAS): 真対気速度は密度変化も考慮した実際の速度
True Air Speed(TAS)はその名の通り、真の対気速度を表しています。
どういうことかと言うと、地上付近と高高度では空気の密度は高高度の方が小さいことは想像できるかと思います。
IAS、CAS、EASはどれもぶつかってくる空気の圧力を基準とした速度ですが、地上から見た速度が同じであっても、空気密度が低いところを飛ぶ方が受ける圧力は小さくなります。
実はIAS、CAS、EASは、この密度の大きさを地上の平均的な値であると固定した条件で算出されているのです。
TASは圧縮性も考慮したEASに対し、さらに地上との密度の違いも考慮した速度になっており、実際に空気が機体の表面を通過する速度に一致します。
すなわち、本当に正確な空気に対する速度というわけです。
この速度は無風状態であれば地上から見た飛行機の移動速度と一致します。
なぜ無風状態に限るのかは次のGround Speed(対地速度)を見てみましょう。
⑤Ground Speed (GS): 対地速度は地上から見た飛行機の移動速度
Ground Speed(GS)は言葉の通り、地上に対する移動速度を表しています。
先ほどのTASが実際に空気が機体の表面を通過する速度と言いましたが、何が違うのでしょうか?
もしも風がなく空気が静止している状態であれば、機体が前方から受ける圧力や機体表面を通過する空気の流れは、飛行機自体が移動していることによるものです。
ですが、風があって空気が動いている場合はどうでしょう。
もしも向かい風であれば、機体表面を通過する空気の速度は移動する飛行機の速度に向かい風分を足したものになるはずです。
すなわち同じTASであっても、向かい風ではGSは遅くなり、追い風ではGSは速くなるのです。
飛行機は基本的に空気に対する速度が同じになるように飛行するため、向かい風だからといってIASやTASを大きくすることはありません。
だからジェット気流の追い風に乗ることができる東行きでは、対地速度(GS)が速くなるため飛行時間が短くなり、逆に西行きでは飛行時間が長くなるというわけです。
⑥MACH: マックは音速基準の速度
MACHはこれまで見てきた速度の中ではTASと関連付けられる速度になります。
ポイントになるのはMACHは音速を基準とした速度という点です。
飛行機は通常、IASがある一定の速度になるように操縦するのですが、空気密度が低い高高度を飛行する際はTASがどんどん大きくなっていきます。
このようにTASが大きくなっていくと、あるところでTASが音速を超えてしまいます。
TASが音速を超えると衝撃波が発生し、飛行機の安定性に影響が出るほか、地上への騒音にも影響してきます。
したがって、高高度を飛行する場合は、TASが音速の○○倍になるような速度で飛行するのです。
具体的には、一般的な旅客機では音速の0.8倍前後で飛行するのですが、巡航高度での飛行はほとんどこのMACHによる基準で飛行しています。
コックピットの計器表示では、IASの他にMACHの値も表示されるようになっています。
音速の0.8倍の速度は「.80」のように表示され、「マックハチマル」のような言い方をします。
高高度では音速を超えないように飛行することが優先されるのです。
終わりに
いかがでしたか?
飛行機にとって速度という概念は非常に重要なもので、これらを理解することは航空業界の技術者としては必須の内容になってきます。
実際に飛行する上で重要なのは、コックピットのメインの計器に表示されるIASとMACHの二つになります。
他にコックピットで表示されるのはTASとGSですが、どちらも参考情報として表示されている意味合いが強いものです。
速度に関する記事は他にも書いていて、今日紹介した6つの速度をテーマを変えてより詳しく説明していますので、興味があれば是非ご覧になってください。
以上!