こんにちは。ころすけです。
前回の記事で、飛行機にとって毎飛行ごとの重心位置管理がものすごくシビアで重要であることを紹介しました。
それほど重要な重心位置ですが、実際の運航ではどのようにして飛行機全体の重量や重心位置を計算しているのでしょうか?
解説します。
毎飛行ごとの飛行機の重量・重心位置はどうやって量る?総重量=基本重量+変動重量
飛行機の重量・重心位置を量るためには、飛行機の全重量や重量分布を把握しなければなりません。
その際にまず把握しておかなければならないことがあります。
それは、
「飛行機の全重量の半分近くは機体構造や座席など日によって変わらない重量である」
ということです。
お客さんの数や貨物の量、そして搭載する燃料の量はフライト毎に違うのですが、機体構造や座席の重さなどはお客さんがガラガラであろうが何しようが変わりません。
そして実はこのような日によって変わらない重量が、飛行機重量全体の半分以上を占めているのです。
このように飛行ごとに変わらない基礎的な重量のことをOEW(Operational Empty Weight)と言います。
Emptyとは「空」の意味ですから、お客さんや貨物、そして燃料を除いたガラガラ状態の飛行機重量ということになります。
例えばB777-300ERが離陸する際の重量は750,000 lbぐらいになりますが、その内OEWが占める重量は400,000 lbほどであり、大体半分を占めているのです。
このOEWは、大きな整備を実施する時などに整備工場の重量計を使って予め計測されている機体構造や内装品などの重量に、どのフライトでも搭載するサービス品などの重量も加えて算出されています。
具体的にOEWに含まれる重量を見てみると以下のようになります。
OEWに含まれるもの
・機体構造
・機体システム部品
・機体の内装品(座席やコンパートメント、トイレやギャレー設備など)
・機内食や食器類、機内サービス品(座席ごとの機内誌なども含む)
・貯水タンクの水(Portable Water)
・パイロットやCAの数と総重量
・パイロットやCAの持ち込み品(業務用カバンなど)の重量
どうでしょうか?
意外なところで、パイロットやCAの重量は機体構造などと同じように既に考慮されているんですね。
ただし、この重量はその日のクルーごとに細かく計測して算出するわけではありません。
パイロット1人当たり、CA1人当たりの手荷物を含めた想定重量が予め決められており、クルーの編成数によって掛け算により算出されるのです。
機内食の量などもお客さんの数によって変わりそうですが、ある程度の変動は考慮に入れた値を使っているので、毎飛行ごとに細かく重量を量ることはしていません。
このようにまず基本重量となるOEWが前提にあって、そこに変動重量である旅客重量や貨物重量、燃料重量を加えていくのです。
変動重量(旅客+貨物+燃料)はどうやって量る?
それでは続いて、変動重量である旅客や貨物、燃料の重量について見ていきましょう。
先ほど、基礎重量であるOEWが全体の50%※ぐらいの重量を占めている計算でしたので、残りの50%が変動重量であるということになります。
※お客さんが非常に少ない時や、距離が短くて燃料が少ない場合などはOEWの割合がもう少し増えます。
以下は大体ですが、全体の重量を100%とした場合の重量割合のイメージになります。
総重量(100%)=OEW(50%)+旅客・貨物(20%)+燃料(30%)
ここで、旅客・貨物の重量のことをペイロードと言い、これが収入に直結する重量ということになります。
ここから分かるとおり、飛行機の重量の8割はお客さんや貨物ではなく、お客さんや貨物を運ぶために一緒に運ばなければならない重量になっているのです。
2割のペイロードのために、8割の重量が飛行機の運航では必要になるというわけです。
ではこれらペイロードや燃料については、どのようにして毎飛行ごとの重量を算出しているのでしょうか?
旅客重量は統計に基づく想定重量を使うのが基本
まずは一番気になるであろう旅客重量ですが、こちらは1人1人こっそりと体重計で・・・なんて事はしていません!
旅客の重量は衣類や手荷物も含めて統計的に算出された想定重量に搭乗者数を掛けて算出しています。
どの値を使うかは航空会社によりまちまちですが、航空局が出している基準を使う場合もあれば、各社の実測調査によって出された統計値を使う場合もあります。
路線によって特徴が出る場合には路線ごとに想定重量を変えていたり、季節によって使う重量を変える場合もあります。(冬の方が衣類の重量が増すため)
ですが大体の数値で言うと、大人1人あたり155 lb(70kg)程度と思っていただいて結構です。
子供の場合はその半分(35kg)ですね。
ただし、1つ例外があります!
一般的な旅客に対して、明らかに体重が重そうでいらっしゃるお客様(どう書いても丁寧な表現にならない・・・)の場合は、実測をさせていただく場合があります。
先ほどの想定に対してあまりに差がありすぎるからですね。
お相撲さんが団体で搭乗する場合などが良い例でしょうか。
よほどの場合を除いて男性も女性も平均して70kgとしているわけですから、それほどセンシティブになることはないですよ、とだけフォローしておきます。
貨物重量(預入荷物含む)は実測が基本
一方で貨物の重量は実測が基本になります。
荷物を預ける際、カウンターに重量が表示されるのを見たことはないでしょうか?
預入荷物も貨物室に行きますから、基本的に実測されています。
貨物として扱う荷物はその大きさや重量もまちまちですし、見た目に反して重かったり軽かったりと変動幅が大きいので、実測をしているというわけです。
ただし、国内線の短距離のみを運航する小型の旅客機などでは、預入荷物も想定重量を使って重量を算出している場合があります。
このような機体では、預入荷物も同じようなサイズのスーツケースばかりであったりと、平均化がしやすい運航実態であるからです。
この場合は預入荷物1つに対して15 lb(6.8kg)を使うことが一般的です。
飛行機の燃料オーダーは重量で行う
変動重量の最後は燃料です。
燃料は飛行距離によって大きく変わるものですが、実は飛行計画の段階から体積ではなく重量で計算されています。
何マイル飛ぶのに何リットルではなく、何ポンド(lb)で算出しているんですね。
なぜ重量で計算しているかと言うと、燃料は外気温によって体積が変わってしまうという性質があるからです。
例えば、暑い日の1リットルと寒い日の1リットルでは、燃料として発生させられるエネルギー量に差が出てしまうのです。
その点、重量で考えれば発生させられるエネルギー量は同じになります。
だから飛行計画の段階から体積ではなく、重量で計算しているんですね。
給油業者にも、補給する燃料は重量の値でオーダーしています。
これは重量・重心位置を計算する際にもそのままの値で計算ができるので、非常に便利です。
コックピットに表示される燃料の量も、体積ではなく重量(lb:ポンド)で表示されているのです。
重心位置をどうやって求める?管理しやすいように座席や貨物室をゾーン分け
さあ、ここまでで飛行機の重量の算出方法については理解ができたかと思います。
では、重心位置はどのように計算しているのでしょうか?
重心位置を計算するためには、その重量がどのように分布しているのかも把握する必要があります。
例えばお客さんの座席位置などは同じ人数であっても日によって全く異なるはずですが、1席ずつ空席か否かを考慮して計算しているのでしょうか?
結論から言うと、それは “NO” です。
飛行機の重心位置を計算をする際は「ゾーン」という考え方を使っていて、そのゾーン内の座席にかかる重量は全て同じ位置に荷重がかかるものと想定して重心位置を割り出しています。
ですから同じゾーン内の座席であれば、ゾーン内の前方の席であれ後方の席であれ、重心位置の計算には影響しないのです。
下の図はB777-300のゾーン分けの例を示しています。
機種の大きさにもよりますが、全体を3~4つのゾーンに区切って計算するのが一般的かと思います。
同じように貨物室(カーゴ)についてもゾーンで区切って、そのゾーンに入るコンテナの重量はまとめて同じ位置に荷重がかかるように想定して計算をしています。
燃料の場合はタンクの底が浅い部分から順番に燃料が溜まっていきますから、搭載した燃料の量が分かれば重心位置は自動的に決まることになります。
終わりに
いかがでしたか?
これで飛行機を飛ばすために必要な重量と重心位置を全て算出することができました。
最近ではコンピューターが発達しているので、このような複雑な計算はコンピューターに数値を入力するだけで瞬時に計算ができるようになっています。
ですが万が一の事態に備えて、重量や重心位置を紙とペンを使って算出する方法も実はあるのです。
所定のグラフに必要な数値を記入して、グラフの線をたどっていくことで重心位置を割り出すのですが、これが結構面倒な作業です。
航空会社のロードコントローラーは社内資格制ですが、このような紙とペンを使った計算もできないといけないのです。
飛行機の重量・重心位置は意外に奥が深い話ですので、今回の記事を読んで興味を持っていただけたら嬉しいなと思います。
以上!