飛行機

航空管制入門!⑧トランスポンダーって何?管制レーダーとの関係を解説!

こんにちは。ころすけです。

トランスポンダーという装置をご存知でしょうか?

トランスポンダーという名前の装置は航空用途以外でも同様の名前のものがあるようですが、航空の世界で使われるトランスポンダーは航空管制上で必要な装置なのです。

航空管制入門!②で、洋上を除く陸域の空域では管制レーダーを用いて飛行機の監視が行われていることを紹介しました。

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実はこのレーダーを用いた管制は、飛行機側にトランスポンダーが搭載されていることが前提で成り立っているのです。

今回はトランスポンダーがどのような装置で、どのような使われ方をしているのか、紹介したいと思います。

航空管制レーダーとは?一次レーダーと二次レーダー

トランスポンダーについて解説する前に、そもそも管制レーダーとはどのようなものなのでしょうか?

レーダーというのは電波を発射して、その電波が対象物に当たって跳ね返ってくるのを受信することで、対象物がどこにあるのか探知する装置です。

反射して返ってくる電波があれば反応し、なければ反射電波が得らずにレーダーが反応しないため、対象物があるかないかを識別できるのです。

レーダーの原理イメージ

この電波はレーダーアンテナから送受信されますが、レーダーの向きが固定されていると固定された方向の探知しかできません。

なので通常レーダーアンテナと言うと、360度全ての方向の探知ができるようにアンテナ自体がくるくると回っています。

空港に行くと、下の画像のような赤い物体がくるくる回っているのを見たことはないでしょうか?

空港で見られるレーダーアンテナの画像

これが航空管制用のレーダーです。

もう少し詳しく説明すると、空港の敷地内で回っているのは空港周辺の飛行機の存在を探知するためのレーダーで、ASR(Airport Surveillance Radar)と呼ばれています。

一方で巡航中の飛行機を監視するレーダーはARSR(Air Route Surveillance Radar)と言って、山や人気のないエリアなど日本各地に設置されています。

ところで、レーダーには一次レーダー二次レーダーがあるのですが、この違いについて理解することがとても重要です。

なぜならこの違いの中に、なぜトランスポンダーが必要になるのかの答えがあるからなのです。

一次レーダーは反射した電波を受信するだけ

一次レーダーのことを英語ではPSR(Primary Surveillance Radar)と言います。

この一次レーダーは最も単純な原理のレーダーで、発射した電波が対象の物体に当たって跳ね返ってくるのを受信しているだけです。

つまり、「そこに対象物があることは分かるけれども、それ以上のことは分からない」というレベルのレーダーなのです。

一次レーダーのイメージ

二次レーダーは質問電波に対して対象物体が発した応答電波を受信する

一方で二次レーダーは英語ではSSR(Secondary Surveillance Radar)と呼ばれます。

二次レーダーは一次レーダーとは違い、レーダーが発射した電波(質問電波)を対象物が受信した場合、対象物がそれに応じて所定の応答を返すようになっています。

二次レーダーのイメージ

一次レーダーがいわばレーダー側が勝手に電波を発射して反射波を受信し、対象物側の意思に関係なく運用されるのに対し、二次レーダーでは対象物側が応答電波を返さなければレーダーとして成り立ちません。

この対象物側でレーダーからの質問電波を受信して、自動的に所定の応答電波を返す装置をトランスポンダー(自動応答装置)と言います。

航空の世界では航空交通管制(ATC:Air Traffic Control)で使用されることから、特にATCトランスポンダーと呼ばれることも一般的です。

トランスポンダーはレーダーからの質問信号に対して自身の情報を返信する装置

実際の航空管制のレーダーでは、一次レーダーと二次レーダーを組み合わせて使用されています。

下の画像で、アンテナの下側部分が一次レーダー用のアンテナになっており、上側部分が二次レーダー用のアンテナになっています。

一次レーダーアンテナと二次レーダーアンテナ

レーダーの監視範囲に飛行機が飛んでいる(何か対象物がある)ことは一次レーダーで観測し、その対象物が何であるのか(便名など)の情報は、二次レーダーからの情報を元にしているのです。

この2つの情報を組み合わせることで、レーダー画面上に機影と便名などを表示させているのです。

飛行機は出発する際、航空管制官から必ずスコークコードと呼ばれる4桁の数字を入手します。

このスコークコードがトランスポンダーの識別コードになっており、これによってSSRが識別する際にどの飛行機からの情報か分かるようになっているのです。

管制官からスコークコードを入手する通信の例は、航空管制入門!⑦の「【出発5分前】クリアランスデリバリーからフライトプランの承認をもらう」で紹介しています。

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このように航空管制の世界では、飛行機がトランスポンダーを搭載していることが前提の運用になっていて、高度1万フィート(約3,000m)以上を飛行する場合や、羽田空港や成田空港などの大規模空港を離着陸する際にはトランスポンダーを搭載する必要があります。
※有視界飛行方式(管制官の指示によらない飛行)を行う場合は、大規模空港の一部を飛行する場合を除いて搭載義務はありません。

余談ですが、一次レーダーで映る機影は単純に物体が反射した電波を受信しているだけです。

仮に飛行機が事故を起こして空中分解した場合、広範囲に飛び散った破片がそれぞれ一次レーダーの電波を返しますから、レーダー画面上で飛散する破片が機影として見えるのだとか・・・

今のレーダー画面は一次レーダーからの信号もコンピューター処理して機影をシンボルで表すようにしているそうなので、このようなことはないかもしれませんが、ちょっと怖い話ですよね。

トランスポンダーのモードとは?

トランスポンダーはレーダーからの質問電波に対して所定の応答を自動で返す装置だと言いましたが、具体的に所定の応答とはどのようなものなのでしょうか?

トランスポンダーにはSSRからの質問電波に対して応答可能な機能ごとに、以下のようなモード名が付いています。

モードA:飛行機が自身の識別コードを返す機能

モードAはトランスポンダーの最も基本的な機能で、レーダーからの質問電波に対して識別コードを応答します。

これによってレーダー画面上では機影と便名を結び付けることが可能になるのです。

モードA機能のイメージ

モードC:飛行機が自身の飛行高度を返す機能

モードCは飛行中の高度をレーダーに返す機能です。

航空管制官が飛行機を管制する際、他の機体との平面的な間隔は一次レーダーからの機影で把握することができます。

ですが飛行機には垂直方向の間隔も存在するため、例えば機影が重なったとしても高度差が十分あれば全く問題がないことが分かります。

このように航空管制にとって飛行機の高度を把握することは非常に重要で、レーダーからの質問に対して高度情報を応答する機能をモードCと言います。

モードC機能のイメージ

モードS:返答を要求された特定の飛行機が自身の情報を返す機能

一次レーダーも二次レーダーも、運用中はレーダーからの質問電波は常に発射されているので、レーダーの監視範囲にある飛行機は全てトランスポンダーのモードに応じた応答を返してきます。

ですが、場合によっては特定の飛行機にだけ質問電波を送って、その飛行機からだけ所定の情報を入手したい場合もあるでしょう。

このような用途に対応した機能のことをモードSと言います。

モードS対応のトランスポンダーではそれぞれにアドレスが割り当てられていて、そのアドレス宛に質問電波を発射することで、対象の飛行機を限定して情報を入手することができるのです。

モードS機能のイメージ

所定の電話の電話番号にかけて情報を入手するイメージに近いでしょうか?

このようにトランスポンダーには様々機能(モード)があるのですが、旅客機に搭載されているトランスポンダーでは、まず間違いなくモードSの機能まで対応しています。

下の画像は羽田空港周辺を監視したレーダー画面の例です。

各機影に映し出されている情報のうち一番上が便名、二段目の左から3桁の数値が高度(×100フィート)です。

実際のレーダー画面の例出典:https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr14_000013.html

トランスポンダーの発展版。ADS-Bとは?

トランスポンダーは航空管制において飛行機の位置を把握するための装置ですが、近年、その発展版としてADS-Bと呼ばれる機能を持つトランスポンダーが普及しつつあります。

ADS-Bは飛行機自らが自機位置の情報を発信する

ADS-BはAutomatice Dependent Surveillance-Broadcastの略で、放送型自動従属監視機能などと和訳されます。

先ほどの解説で、航空管制ではレーダーの反射波を使用して飛行機の位置を把握すると述べました。

しかし、最近の飛行機は機上に搭載されたGPSなどの航法装置によって、飛行機自身が高精度の自機情報を持っています。

これらの情報(自機位置、高度、速度など)を飛行機自らが発信(放送:Broadcast)することで、周囲に知らせるのがADS-Bなのです。

ADS-Bのシステムイメージ

ADS-Bの利用可能性。飛行機自らによる相互間隔確保など

ADS-Bは、その活用により航空管制機能の強化が期待されるシステムですが、具体的な使用方法やルール作りは未だ模索段階と言えます。

ADS-Bの利用可能性の1例として、飛行機同士が自ら互いの位置情報を確認し、間隔を確保する運用への活用が期待されています。

先ほど、ADS-Bは自機情報を周囲に自動発信するシステムと述べましたが、これはより詳細に言うとADS-B OUTと呼ばれる機能になります。

一方、ADS-Bには他機が発信したADS-Bの情報を受信し、コックピット内のNavigation Displayに表示する機能もあるのですが、これはADS-B INと呼ばれます。

飛行機は運航中、常に他の機体と一定の間隔を確保することが求められています。

例えば高度変更する際にも、変更先の高度や途中の高度を飛行中の他機と間隔が確保されていなければなりません。

従来この間隔の確保は、航空管制官が主として管制レーダーを監視し、指示や許可を出すことで行われていました。

ADS-B OUT/INを使用することで、当事者の飛行機同士のみで間隔の確保・判断をすることが可能になり、より効率的な航空管制が期待されるのです。

ADS-Bによる飛行機同士の間隔確保のイメージ

ADS-Bは発展途上の新システム。国内では装備要件なし

このように先進的な航空管制実現のために普及が期待されるADS-Bですが、欧州を始め、海外の一部で装備要件があるものの、国内では必須装備とはなっていません。

海外においても、段階としては試験的な運用に留まっているフェーズと言え、本格的な運用はこれから進展すると見込まれています。

現在のところ、ADS-B OUTを装備した機体はかなり普及してきたようですが、ADS-B INの機能を持った機体は限られています。

このような状況からも、ADS-Bが発展途上の新システムであることが窺えます。

フライトレーダー24はADS-B OUTの活用で実現した!

航空機事故が起こった際など、ニュースでも度々紹介されるため幾らか知名度が高くなったフライトレーダー24ですが、実はここに表示される情報は飛行機からのADS-B情報を使用しています。

前述のとおり、ADS-Bは飛行機自らが発信している情報であり、専用の受信機があれば管制機関でなくともその情報を入手することが可能です。

フライトレーダー24は世界中のユーザーに協力してもらい、各地で受信されるADS-B OUTの情報を集約することで、一般の人も管制画面のように飛行機の位置を閲覧できるサービスを実現しているのです。

当然、ADS-B非装備の機体は映らないのですが、多くの機種・機材でADS-Bの普及が進んでいるため、航空管制のイメージを掴んで楽しむには十分な数の飛行機の航跡を見ることができます。

フライトレーダー24の画面例フライトレーダー24の画面例

終わりに

いかがでしたか?

少し難しい内容だったかもしれませんが、トランスポンダーを理解することは航空管制を理解する上で必要不可欠なんですね。

今後も航空管制に関する雑学や基本に関する解説を記事にしていきたいと思いますので、興味があればぜひ読んでみてください!

 

以上!

POSTED COMMENT

  1. hal より:

    はじめまして
    わかりやすい解説、ありがとうございます。
    航空管制レーダーに旅客機のトランスポンダーが自動応答することは理解できました。
    ということですと、
    軍が持っているレーダー、例えば自衛隊や米軍が管理しているレーダーで
    トランスポンダーからの応答(スコークXXなど)を受信できるという理解でよろしいでしょうか。
    常に領空侵犯を監視している自衛隊は当然のこと、
    米軍も民間機かどうかを識別する必要があって
    民間機からの応答が認識できないようでは意味がないので
    スコークXXも受信できるのでは?、と思った次第です。
    なにかご教示いただけることがありましたらよろしくお願いいたします。

    • ころすけ より:

      halさん

      コメントありがとうございます!
      実際に自衛隊などのレーダーを見たことはないので断言するのは憚られますが、防衛関連施設のレーダーであっても民間の機体は識別できるはずですね。
      逆に民間の空港のレーダーでも、戦闘機のトランスポンダーの情報が映るはずです。
      航空管制では民間機も軍用機も含めて互いの衝突を防止しなければならないですから、当然お互いが同じようにレーダーに映る必要があるということになると思います。

  2. hal より:

    ありがとうございました。
    実はJAL123便を調べておりまして
    限られた情報の中ですが
    隠されている部分を脳みその中でなんとかイメージし
    時系列の前後で矛盾がないかを演繹を繰り返して確認しているところです。(15年)

    間髪入れず7秒後にスコーク77がセットされたことから
    機長らクルーはこれから起きることを予期していたからこそ
    なにも考えず、なにも確認せずに即座にセットできたのではないか・・という見立てです。
    ということですと、
    爆発直前のコックピット内の会話4ch×16秒間がとても重要になります。
    ところがその部分が4chともまるっと無音ということになっていて
    そこに収録されている筈の64秒間が聞けません。
    コックピット内は緊張の極限であり相当な会話など音が収録されている筈ではないか・・
    そんな妄想をしているところです。

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