こんにちは。ころすけです。
飛行機はなぜ高度1万mもの高い空を飛ぶのでしょうか?
理由としては高度が高い方が目的地に到着するまでの燃費が良いことや、地上から見た移動速度が速くなるからというのが挙げられます。
ですが実は飛行機は、高度がある程度高くなると徐々に速度を落として飛行しているのです。
それはなぜなのか?
今回は飛行機の速度の秘密について解説したいと思います。
飛行機の速度は高度が高くなるほど遅くなる
そもそも何で高い高度を飛行するのか
まずは飛行機が高い高度を飛ぶ理由を、もう少し詳しく見ていきましょう。
飛行機が飛ぶ際に重要なことは、前方からぶつかってくる空気の圧力が同じになるような速度で飛行するということです。
下の図に示すように、地上付近を飛行する場合と高高度を飛行する場合を比較してみます。
ポイントとなるのは地上付近と高高度における空気の密度の違いです。
地上付近で地面に対してある速度で飛行していたとしましょう。
この状態で、地面に対する速度が同じのまま高高度で飛行したとするとどうなるでしょうか?
空気の密度は地上付近よりも高高度の方が小さいので、地面に対する速度が同じ場合は高高度の方が空気がぶつかってくる圧力は小さくなります。
もしも空気がぶつかってくる圧力を同じにしようとするのなら、飛行機は地面に対する速度を上げる必要があります。
では、なぜこのようにする必要があるのでしょうか?
それは、飛行機の翼に発生する揚力は前方からぶつかってくる空気の圧力の大きさに関係しているからです。
飛行機が飛ぶには自重を支えるだけの揚力を常に発生させていなければなりませんから、ぶつかってくる空気の圧力の大きさと関連づいた速度で飛行する必要があるのです。
このような理由から、実は飛行機のコックピットに付いている速度計は、前方からぶつかってくる空気の圧力が同じ時に同じ速度を表示するようになっています。
この速度をIAS: Indicated Air Speed(計器指示速度)と呼んでいます。
一方、同じIASであれば高度が高くなるほど地面に対する速度は速くなりますが、この速度は実際に飛行機が空気を切り裂く速度になります。
ですからこの実際の速度のことをTAS: True Air Speed(真対気速度)と呼んでいます。
前方からぶつかってくる圧力というのは、飛行機に働く抵抗の大きさにも関係してきますから、IASが同じであれば受ける抵抗の大きさも同じになります。
つまり、高高度に行けば行くほど地上から見た速度は速くなりますが、働く空気抵抗は地上と変わらないというわけです。
地上から見た速度が速くなるのに空気抵抗が同じわけですから、当然燃費は良くなります。
これが飛行機が高高度を飛行する理由です。
高度が高いと音速に近づいてしまう
しかし一方で、ある高度まで上昇してしまうと今度は別の問題が発生してしまいます。
それは音速です。
下図を見れば分かるとおり、同じIASを維持して高度を上げていくとTASがどんどん増していきます。
そうすると、ある高度で音速を超えてしまうのです。
音速というのは実は気温が低いと遅くなるのですが、高高度では気温が徐々に低下していきますから、音速も徐々に遅くなっていきます。
一方でTASの方は高度が上がるにつれて増していきますから、どこかでTASが音速を超えるというわけです。
音速を超えると何が問題なのかというと、衝撃波の発生です。
物体が音速を超えると、周りに伝わる空気に圧力が急激に変化する部分ができてしまいます。
この圧力の急激な変化部分が波として伝わるのが衝撃波です。
衝撃波が発生すると飛行機に対して非常に大きな抵抗になってしまいますし、最悪の場合は機体の破損に繋がってしまいます。
また、伝わった衝撃波が地上に届くと大きな爆音となって響くので、環境的にも問題になります。
このように高度が上がっていくと、低高度では問題にならなかった音速が新たな問題として発生するのです。
高高度での飛行機の速度は音速基準
それでは高高度ではどのようにするかと言えば、速度を落として飛行する他ないのですが、どれぐらいの速度で飛行すればよいのか基準が必要になります。
そこで使われる速度がMach(マック)であり、音速基準の速度です。
音速に対する速度の比を表した数値をマッハ数(Mach Number)と言います。
例えば速度が音速と同じであればマッハ数は1ですし、音速の50%であればマッハ数は0.5と表されます。
「マッハ」というのはドイツ語読みですが、英語読みすれば「マック」であり、航空の世界では一般的にマックの読みが使われます。
具体的な使われ方を見ていきましょう。
高度が上がっていくとTASが音速に近づいていきますが、あるところまで近づいたら今度はマッハ数が同じになるように機体の速度を制御していくのです。
大型機や小型機など機体の種類によって異なりますが、旅客機では大体Mach0.8近辺を境にマッハ数に従って速度をコントロールするように飛行するのが一般的です。
Mach0.8での飛行速度はM.80のように表記されます。同じようにMach0.84ならM.84です。
なぜ音速の100%ではなく80%近辺のマッハ数に従うのかというと、飛行機全体の速度が音速以下(Mach1.0以下)であっても、機体の形状により部分部分では音速を超える箇所が出てくるためです。
部分的にであっても音速を超える箇所が出てくれば、そこから衝撃波が発生してしまいますから、少し余裕を持ったマッハ数に従う必要があるのです。
このように高高度を飛行する際は音速に対する問題が大きいですから、音速を超えないように配慮した結果、速度を徐々に減速させていく必要があるのです。
終わりと補足
いかがでしたか?
以上で解説は終わりますが、最後に一つ補足をしておきます。
高度が上がって音速基準の速度で飛行すると、それにつれて速度を遅くしていく必要がありますが、そうするとそれ以上の高度まで上昇する意味がないように思えます。
しかし速度(IAS)を落として飛行するということは、ぶつかってくる空気による抵抗が減るので燃費に関してはプラスに働きます。
一方で移動速度(TAS)は音速基準であり、高度上昇に伴って気温が低下するので遅くはなりますが、空気抵抗が減った分のメリットの方が大きいのです。
従って飛行機は通常、音速基準に移行しなければならない高度よりもさらに高い高度を巡航高度としているのです。
飛行機にとって速度は揚力を発生させるために非常に重要ですし、また乗り物として移動時間にも関わってくる重要な要素です。
速度に関連した飛行機雑学は他の記事でも紹介していますので、ぜひご覧になってみてください。