こんにちは。ころすけです。
みなさんは航空管制についてどのぐらいご存知でしょうか?
航空管制を題材にしたドラマもあったと思うので、なんとなくイメージが湧く方も多いと思います。
恐らく、空港内の管制塔に管制官がいて、無線を使って飛行機に対して指示や許可を出すイメージではないでしょうか。
また、管制官がレーダー室のモニターを見ながら飛行機を監視する様子を思い浮かべる人もいるかもしれません。
結論から言えばこれらが航空管制の姿であることは間違いなく、イメージは概ね正しいと思います。
ですが、管制塔にいる管制官とレーダー室にいる管制官にどのような違いがあるのかなど、細かいことまで知っている方は少ないのではと思います。
それ以前になぜ航空の世界では管制官が必要なのか、飛行機は全て管制官の監視下にあるのかなど、ちょっと興味が湧きませんか?
この記事では航空管制の基本について紹介したいと思います。
なぜ航空管制が必要なのか?
航空管制は正確に言うと航空交通管制と言い、業界用語ではATC: Air Traffic Controlと呼ばれています。
世界中の空はFIR(飛行情報区)と呼ばれるエリアで区切られており、各国は割り当てられたFIR内の飛行機に対して航空交通管制業務を提供する必要があります。
日本が担当する空域は福岡FIRと呼ばれ、ほぼ日本の国土に相当する部分と日本と接する太平洋の西側空域の管制を実施しています。
航空交通管制は、無線を用いて飛行機の針路、経路、飛行する高度や滑走路での離着陸に対する指示や許可を出す業務ですが、そもそもなぜ管制が必要なのでしょうか?
航空管制の目的は「航空機※同士の衝突を防止し、航空交通流の秩序を保つため」のように説明されることが多いですが、一番重要なのは飛行機同士の衝突を防止することです。
衝突防止が第一の目的だと理解すれば、航空管制上の様々なルールが「なるほど」と腹落ちすると思うので、これはぜひ意識しておいてください。
※航空機と飛行機は厳密には区別される言葉ですが、このブログでは言葉の親しみやすさを優先して航空機でもほとんどの場合飛行機と表現しています。
飛行機同士の衝突防止のために管制官は具体的に何をする?
航空管制の主たる目的が分かったところで、その目的を果たすために具体的に管制官が何をするのかを考えてみましょう。
先ほども述べたように、管制官は飛行機に対して指示や許可を出すわけですが、これにより飛行機同士の衝突が起こらない状態にしたいわけです。
さあ、どうしましょう?
実はここが非常に重要なポイントで、管制官は飛行機同士に常に一定の間隔が確保されるように管制指示や許可を出すのです。
専門用語で言うと管制間隔(セパレーション)を取ると言うのですが、衝突防止を実現する具体的な方法は、この管制間隔(セパレーション)の設定という考え方によって実現されているのです。
例えば、飛行機が滑走路から離陸する時や着陸する時は、管制官から「Cleared for Takeoff」や「Cleared to Land」といった許可が必要です。
この許可を出す基準に前方や後続の飛行機との距離や接近するまでの時間、すなわち管制間隔の基準が決まっているのです。
飛行機は全て管制の指示や許可に従う必要があるの?
では、全ての飛行機が管制の指示や許可に従う必要があるのか?というと、答えはNOです。
これを理解するために、飛行機の飛び方には計器飛行方式(IFR: Instrument Flight Rule)と有視界飛行方式(VFR: Visual Flight Rule)の2つがあることを知る必要があります。
2つがどのような飛行方式かというと以下の通りです。
計器飛行方式(IFR): 離陸してから上昇、降下、着陸に至るまで、その経路について航空管制官の指示に逐一従う飛行
有視界飛行方式(VFR):計器飛行方式以外の飛行方式
有視界飛行方式の説明が「なんだこれは?」という感じですが、これが航空法上の定義です。
要するに、有視界方式では航空管制官の指示や許可に常に従うわけではないということですが、これではあまり腹落ちすることができないと思います。
ここで、先ほど述べたキーワードである、管制間隔(セパレーション)を考えてみます。
航空管制の指示や許可の目的が飛行機同士のセパレーションを設定することですから、計器飛行方式というのは、管制官の指示や許可によって離陸から着陸まで常に他機との間隔が担保されている飛行方式と言い換えることができます。
では有視界飛行方式ではどうでしょうか?
有視界飛行方式は計器飛行方式の逆なわけですから、要するに離陸から着陸まで他機との間隔については自分で判断して飛ぶ飛行方式と言えますね。
つまり、「自由に針路や高度を変更しても良いけれど、他の機体と接近しそうであれば自分の判断で避けて飛行してね」ということです。
どうでしょうか?管制間隔に着目するとイメージが具体的になったと思いませんか?
ここで1つ注意しておきたいのですが、計器飛行方式は確かに航空管制によって他機との間隔が確保される飛行方式ですが、だからと言ってパイロットが全く周りに注意を払わなくて良いという意味ではありません。
パイロットには見張り義務と言って、飛行中常に周りの状況に注意を払う義務があるので、誤解しないようにしましょう。
エアラインの飛行機は計器飛行方式で飛ぶ。その理由は2つ
管制の意味と有視界飛行方式、計器飛行方式の意味が分かったところでエアラインの飛行について触れてみましょう。
航空業界ではIFRやVFRの略語の方が日常的に使われるので、ここからは略語を使いたいと思います。
実はエアラインの飛行機は、特別な場合を除いてIFRで飛行しています。
VFRの方が管制に縛られず自由度が高そうに思えますが、IFRで飛ぶ理由は何なのでしょうか?
理由は2つあります。
1つは天気が悪い場合の飛行可否です。
VFRではパイロットの目視によって他機との間隔を設定することになるため、気象条件に制限があるのです。
具体的には雲までの距離と見通せる距離(視程)によるのですが、ちょっとでも天気が悪ければVFRでは飛行できないと思っていただければ結構です。
一方IFRでは、レーダーを用いた航空管制により飛行機同士の間隔が確保されますから、天気が悪くても飛行することが可能です。
エアラインは交通機関ですから、天気が良い日だけ飛べば良いわけではありません。
天気の良し悪しに関わらず運航するためには、IFRで飛行することが前提になるのです。
2つ目は混雑空港など、VFRでは飛行できないエリアがあることです。
先ほど、VFRでは管制官の指示によらず自分自身で針路や経路を決めることができると言いましたが、規模の大きな空港ではVFRでの飛行を禁止しているエリアがあります。
下の図は羽田空港を離着陸する飛行機の様子です。
このようにたくさんの飛行機が列をなして離着陸していく場合、いくら天気が良くてもパイロット同士の判断だけで間隔を確保することは不可能に近いことです。
このように大規模な空港では、空港周辺にVFRでの飛行を禁止するエリアがあるのが普通で、管制官の指示によって飛行機が秩序ある列を作るようになっているのです。
また、日本国内では高度29,000ft以上の高度もVFR機の飛行が禁止されています。
このような高高度では飛行機の移動速度は非常に速いため、人間の認知に頼った間隔設定では不十分になってしまうのです。
このようにVFRでは飛行自体が制限されてしまう空域があるので、IFRで飛ぶ必要があるのです。
まとめ
いかがでしたか?
ここまでの話は実際の管制でのやり取りではなく、航空管制の基本となる考え方について理解を深めるためのものです。
しかし航空管制の基礎的な考え方が分かっていると、実際の管制官とパイロットのやり取りに触れた時にその意味の理解度が全く異なると思います。
航空管制の入門として興味を持っていただければ嬉しいです。
最後にまとめをしておきます。
・航空管制の一番の目的は飛行機同士の衝突防止
・衝突防止のために管制官は飛行機同士の間隔(セパレーション)を設定する。
・IFRとVFRの2つの飛行方式があるが、違いは他機との間隔設定の責任をパイロットが持つか否か
・IFRでは飛行機は管制官からの指示に逐一従いながら飛行する
・VFRでは飛行できないケースが出てくるので、エアラインの飛行機はIFRで飛行する
以上!
航空管制入門!③離陸から着陸まで飛行経路の基本を押さえよう!
航空管制入門!④空域、飛行経路と管制官の役割分担を結び付けよう!