こんにちは。ころすけです。
前回の航空管制入門!①では日本が航空管制を担当する空域である福岡FIRと、航空管制の入門編ということで管制の目的について解説しました。(過去記事のリンクは最後にあります。)
今回も航空管制の入門編として、福岡FIRの中がさらにどのように区分けされているのか、ブレイクダウンして見ていきたいと思います。
それでは始めましょう。
福岡FIR内の空域の種類について理解しよう!
今回は福岡FIR内の様々な空域について解説していくわけですが、なぜ空域を理解する必要があるのか始めに確認しておきましょう。
航空管制は航空管制官とパイロットの間でやり取りが交わされるわけですが、一口に管制官と言っても、パイロットは空港を出発してから到着するまで同じ管制官と交信を続けるわけではありません。
空港を出発してから巡航に移るまでや、巡航から目的地に向けて最終着陸態勢に入るまでなど、場面ごとに交信する管制官が切り替わっていくのです。
ある飛行機の監視が次の管制官に移ることをハンドオフと言います。
では、どのタイミングでハンドオフが行われるのかと言うと、概ね種類の違う空域に入るタイミングでその空域を担当する管制官との交信に切り替わるのです。
実際には実情に合わせてスムーズにハンドオフがなされるよう、定められた空域の境界きっちりで切り替わるわけではありませんが、空域の種類と担当する管制官は対応する関係にあります。
また空域の種類によって管制が果たす役割も異なりますから、管制官が飛行機に対して出す指示や許可の内容も変わってくるのです。
なので航空管制を理解するにあたって、空域がどのように設定されているかを理解しておくことは非常に重要なのです。
まずは洋上と陸域に分けよう
空域の種類はぱっと見るとごちゃごちゃしていて分かりづらいですが、まず大きな空域から分けていくと理解がしやすくなります。
洋上管制区は太平洋を越えて日本国外に向かう飛行機が通る空域
下の図の濃い青色部分は洋上管制区と呼ばれ、大部分は福岡FIRのうち太平洋に張り出したエリアです。
図のように厳密には日本海側にあるロシアのハバロフスクFIR付近や中国の上海FIR付近も洋上管制区になっていますが、こちらは陸域に近接していてエリアが狭く、管制は実質的に陸域を担当する管制官が行います。
なので、洋上管制区と言ったら日本の東側の太平洋エリアだと考えて差し支えありません。
このエリアを通過するのは、日本を離発着する便では北米やハワイ便、その他インドネシアやオーストラリア便などの国際線になります。
一方で陸域はほぼ日本の陸地上空のエリアになりますので、国内線が飛行するエリアと考えてもよいでしょう。
ただし、アメリカから中国に向かう海外の国際便なども日本の陸域エリアを飛行します。
洋上と陸域の大きな違いはレーダー監視域内か否か
洋上と陸域で抑えておきたいポイントとして、レーダーの電波が届く空域かどうかがあります。
日本国内には全国に数か所、国内を巡航する飛行機を監視するレーダー(ARSR: Air Route Surveillance Radar)が設置されています。
このレーダーに捕捉されることにより、巡航中の飛行機の位置は管制所のレーダー画面でリアルタイムに把握されるわけです。
一方で洋上においては、海岸線から比較的近いエリアでは洋上監視用のレーダー(ORSR: Oceanic Route Surveillance Radar)により捕捉されますが、基本的に大部分はレーダーの監視が届かないエリアです。
このように洋上ではレーダーでの監視ができない前提となっているので、管制も陸域とは異なる方式を採用する必要があります。
具体的には、飛行機が洋上の所定のポイントに到達すると、到達したことを無線により洋上を担当する管制所に逐一報告(位置通報)するのです。
これにより、管制官は洋上の飛行機が飛んでいる位置を把握することができます。
今回は詳細には触れませんが、かつて位置通報にはHFと呼ばれる周波数帯の無線機を使うことが一般的でした。
しかし最近では人工衛星を介した通信方式を用いたり、音声による無線通話ではなくデータ通信(メール機能のようなもの)を用いて文字で管制官とやり取りする方式が主流になっています。
陸域は空港周辺とそれ以外に分けられる
続いては陸域です。
まず陸域空域は正確には「QNH適用区域」と呼ばれています。
QNHとは飛行機が搭載している気圧高度計の補正方法の一つです。
飛行機の高度計は気圧の大きさを高度に換算して表示していますが、低気圧や高気圧といった言葉があるように、気圧の大きさは日(時間)によって異なります。
気圧が変わる度に、高度計がその地域の海抜高度をきちんと表示するように逐一補正する方式がQNHと呼ばれ、陸域の低高度空域で使用されます。
一方で高度計の気圧補正をしない方式をQNEと言いますが、これは陸域の高高度空域と洋上空域で用いられます。
陸域の低高度では、地上障害物の高さとの位置関係を正確に把握する必要があるためQNHが用いられるのですが、洋上ではその必要がありません。
このように陸域の低高度はQNHが適用されるので、QNH適用区域と呼ぶのです。
陸域は空港周辺空域(空港から半径9km)とそれ以外でまず分ける
それでは陸域空域を細かく見ていきますが、陸域はさらに詳細に区分されています。
しかし考え方は簡単で、まずは空港から半径9km以内のエリアとそれ以外のエリアに分けます。
空港には標点と呼ばれるその空港を代表する緯度経度が1点定められているのですが、この点から半径5NM(5ノーティカルマイル=9km)のエリアを航空交通管制圏または航空交通情報圏と呼んでいます。
航空交通管制圏と航空交通情報圏の違いは管制における空港の種類によります。
空港には管制方式の違いによってタワー空港、レディオ空港、リモート空港の3種類があるのですが、タワー空港の半径5NMであれば航空交通管制圏になります。
同じようにレディオ、リモート空港の半径5NMであれば航空交通情報圏です。
空港周辺空域の特徴は地表面も含んでいること
空域というのは平面的なものだけでなく、高さ方向も含めて考える必要があります。
航空交通管制圏と航空交通情報圏は、高さ方向では共に空港の海抜高度から3,000ft (900m)までの高さで設定されていることが一般的です。
自衛隊が使用する空港では6,000ft (1,800m)まで空域設定されている場合もありますが、基本的に航空交通管制圏と情報圏は半径5NM円+3,000ft の円柱型をしています。
航空交通管制圏や航空交通情報圏の大きなポイントとして、空域が空港の地表面も含んでいる点が挙げられます。
なぜこれが大きなポイントなのでしょうか?
地表面も空域として設定されているということは、空港内を地上走行する飛行機も管制の対象になることを意味しているからです。
つまり、空港で地上走行する際も管制官から指示や許可が必要になりますし、必要に応じて他の飛行機との間隔が設定されるわけです。
空港周辺以外の陸域空域 ≒ 航空交通管制区と思ってよし
空港周辺の空域を分けてさえしまえば後は簡単です。
基本的に航空交通管制圏、航空交通情報圏以外の陸域空域は全て航空交通管制区と呼ばれるエリアになります。
「基本的に」と前置きしたのは、厳密には地表面付近は航空交通管制区ではない空域になっているからです。
空港からの距離にもよりますが、地表面(地上)から600m以下は非管制空域と呼ばれており、航空管制が実施されないエリアになっています。
逆に言えばそれ以外は管制が実施される航空交通管制区に分類されているというわけです。
航空交通管制区で特別なルールがある空域を抑えよう
ここまででかなり福岡FIR内の空域を整理できたと思いますが、あと一息です。
最後に航空交通管制区の中で、さらに特別なルールが適用される空域があることを理解してしまえば、基本的な空域の理解は完了します。
航空交通管制区のうち、空港周辺のエリアではさらに進入管制区と特別管制区と呼ばれる空域が設定されています。
進入管制区は出発機、到着機をレーダーで監視して整理するエリア
大きな空港周辺では航空交通管制区のうち、航空交通管制圏をさらに外側にとりまくように進入管制区と呼ばれる空域が設定されています。
進入管制区は空港を出発して巡航ルートに至るまでの飛行機や、巡航ルートから離れて空港に到着しようと近づいてくる飛行機の流れを整える空域です。
特に到着機に関しては、四方様々な方向からやってくる飛行機を最終的には滑走路の延長線上に一列に並べる必要があります。
このように整理するために、管制官は空港に設置された進入管制区用のターミナルレーダー(ASR: Airport Surveillance Radar)を用いて空港周辺の飛行機の位置を監視し、針路や速度などの細かい指示を出すのです。
空港に行くと建物の外で赤色のアンテナがくるくる回っている光景を見たことはないでしょうか?
これがターミナルレーダーのアンテナです。
到着機に対してだけでなく、出発機に対してもレーダー監視のもと指示が出されるのですが、空域の名称は「進入管制区」なので注意しましょう。
特別管制区は滑走路への最終着陸コースに設定されるエリア
特別管制区は大規模空港において、滑走路への最終着陸コースに該当するエリアに設定されます。
特別管制区のポイントは、エリア内でのVFR機の飛行が原則禁止されている点です。
空港周辺の空域である航空交通管制圏や進入管制区でも、IFR機の飛行が多いとはいえVFR機が飛行することは可能です。
VFR機は自らの判断で他機との間隔を保ちながら飛行すれば良いのです。
ですが滑走路への最終着陸コース上にあたるエリアでは、さすがにVFR機が自由に飛行していると安全上の支障が出てきます。
そこで特別管制区を設定することによって、VFR機が入って来れないように制限をかけているというわけです。
ほとんどの特別管制区は正確には特別管制区Cと言います。
他に特別管制区AとBがあるのですが、特別管制区Aは定義だけで実際に設定されているエリアはありません。
特別管制区Bは那覇空港にのみ設定されているエリアですが、特別管制区CよりもVFR機への制限が厳しく、エリアも広めになっています。
那覇空港は近くに米軍の基地が複数あるため、やや特殊な管制が必要だからです。
なので特別管制区と言ったら、通常は特別管制区Cのことを指していると考えてよいでしょう。
特別管制区が設定されている空港は以下の空港になります。
・新千歳空港 ・三沢空港 ・仙台空港
・成田空港 ・羽田空港 ・中部国際空港
・名古屋小牧空港 ・伊丹空港
・関西国際空港 ・神戸空港 ・高松空港
・福岡空港 ・宮崎空港 ・鹿児島空港
・那覇空港(特別管制区B)
終わりに
いかがでしたか?
空域は複雑ですが、順序良く整理することでかなり分かりやすくなったのではないでしょうか?
細かいことを言えば、空域の種類はこのほかにもたくさんあります。
ですが、エアラインの旅客機が飛行する上で必要な空域の種類であれば、今回出てきたものさえ理解できれば十分だと言えます。
空域の種類を抑えたら、今度はコントロールやタワーと言った空域ごとに異なる管制官の役割について理解ができると思います。
これらについては別の記事で解説することにしましょう。
以上!
航空の世界に独自の国境があるって知ってますか?FIR(飛行情報区)について解説!
航空管制入門!③離陸から着陸まで飛行経路の基本を押さえよう!
航空管制入門!④空域、飛行経路と管制官の役割分担を結び付けよう!