こんにちは。ころすけです。
この記事を書いている2020年7月はまさにコロナウイルス騒動の真っただ中なわけでして、航空業界でも採用活動を中止するなど悲しいニュースが聞かれています。
このように航空業界は世界情勢の変化に非常に弱いことが特徴であり、就職活動中の方の中には、今回の騒動で「航空業界は止めておこう」と思った方も多いのではないでしょうか。
ですがその一方、やはり空を飛ぶ飛行機という乗り物に憧れがあり、来年度の新卒採用が例年どおり行われることを願う人や、いずれ中途採用のチャンスがあれば是非とも再チャレンジしたいという方も多いのではないでしょうか?
今回はそんな方々に向けて、航空業界を目指すのであれば是非とも事前に勉強しておきたい専門知識や、参考となる資料について紹介したいと思います。
どちらかと言うと総合職の技術系を目指す方をターゲットに置いていますが、どのような職種を目指すのであっても、「こんなものがあるんだ!」と知っておくだけでも有益だと思います。
それでは始めましょう。
運航系職種での採用を目指す場合
総合職の運航系職種で代表的なのは、パイロットが使うAirplane Operations ManualやRoute Manual、Operations Manualといったマニュアル類を作成、管理する間接スタッフの仕事です。
これらの仕事内容については以下の記事で詳しく紹介していますので、ご覧になってみてください。
また、いわゆる現場の職種に該当するのが、パイロットや運航管理者になるのですが、これらの職種を目指す場合でも必要な知識領域はほとんど同じです。
今回は運航系の職種で役立つ参考書や資格を4つ紹介します。
1. AIM-J (Aeronautical Information Manual – Japan)
AIM-Jは監督官庁である国土交通省航空局が監修しているオフィシャルな参考書で、運航系専門職のバイブルと言っても良いかと思います。
飛行機を運航する上での管制や空域などの決まりは、航空局が発行するAIP(Aeronautical Information Publication)という文書に網羅されているのですが、AIM-JはこのAIPの解説書と言っても良いでしょう。
AIPの解説に加えて、航空気象や航空医学、航空法規に関する解説なども掲載されています。
このAIM-Jは現役のパイロットも引退するまでお世話になる本であったりします。
パイロットは資格維持のために定期的に技能や知識の審査を受けなければいけないのですが、その審査の度にAIM-Jを読み返して知識の復習、アップデートをしているのです。
AIM-Jはアマチュアパイロットでも必須の参考書になりますから、航空書籍を扱っている書店やネット通販などで簡単に購入することができます。
ただし若干値段が高く、本体価格で5,000円もします。
さらにAIM-Jは年に2回改訂が実施されるので、常に最新のものを維持しようとすると大変です。
実際にはプロのパイロットでもない限り、4、5年以内の改訂版であればさほど困ることはないかと思います。
また、プロのパイロットの方は常にAIM-Jの最新版を持っており、古いものは捨ててしまうことが多いようです。
もしも知り合いにパイロットの方がいるのであれば、古いAIM-Jを譲り受けるのが一番リーズナブルです。
初心者の方にとっては非常に難解な内容かもしれませんが、パラパラと呼んで雰囲気を掴んだり、出てきた言葉の意味を調べたりするだけでも勉強になると思いますよ。
下の図のページではアプローチチャートの読み方が解説されています。↓
2. AIS (Aeronautical Information Service) Japanに登録する
先ほど、運航上の規則やルールはAIPという文書にまとめられていると言いました。
AIPはかつては紙で発行されていましたが、現在では電子配信版をAIS JapanというWebサイト上で閲覧することが可能です。(https://aisjapan.mlit.go.jp/Login.do)
AIS Japanを閲覧するにはアカウントを作成する必要がありますが、登録費用や厳しい審査などはありません。
AIS Japanでは各空港におけるアプローチチャートなどAIPの情報を閲覧することが可能です。
下の図は羽田空港のILSアプローチのチャート例です。↓
また、AIP情報の一時的な変更や軽微な変更などはNOTAM(Notice To Airmen)と呼ばれるテキストメッセージでパイロット向けに配信されるのですが、AIS JapanからNOTAMを閲覧することも可能です。↓
内容は非常に難解だと思いますが、先ほどのAIM-Jが参考書になっていますから、AIM-Jと併せてぜひ閲覧してみてはいかがでしょうか?
3. 航空従事者学科試験(操縦士)にチャレンジしてみる
エアラインなどのプロのパイロットに限らず、アマチュアであっても飛行機(航空機)を操縦するためにはパイロットライセンス(航空従事者資格)が必要です。
パイロットライセンスにも様々な種類がありますが、取得のためにはどのライセンスにも共通して学科試験に合格する必要があります。
学科試験で問われる知識はあくまでパイロットとして最低限の一般的な知識になりますが、特に初心者の方にとっては勉強する内容のきっかけになるかと思います。
学科試験は航空気象、航空工学、航空法規、空中航法、航空通信の5科目があり、これらの過去問は国土交通省航空局のホームページから閲覧することが可能です。(https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_000025.html)
試験問題の表紙例↓
受験費用が5,000円ほどかかりますが、学科試験を実際に受験してみるのも良いかもしれません。
実際には学科試験だけ合格していてもパイロットライセンスは手に入りませんが、学科試験合格の証明は入手することができます(2年間有効)。
正式な資格にはなりませんが、航空業界を志望して履歴書を書く際にアピール材料として記載すれば、もしかしたら面接官に熱意が伝わるかもしれませんね。
4. 無線従事者の資格取得にチャレンジしてみる
航空従事者の資格は学科試験だけでは取得が不可能ですが、無線従事者であれば学科試験(+簡単な実技)だけで取得することができます。
無線従事者資格とはパイロットと管制官、またはパイロットと運航管理基地が通話するための無線機器や、無線電波を使用した航法装置を使用するために必要な資格です。
職種によって必要な無線従事者資格は異なりますが、パイロットであれば航空無線通信士、運航管理者であれば航空無線通信士または航空特殊無線技士と呼ばれる資格が必要になります。
また、運航管理者がカウンターや搭乗口のグラウンドスタッフと通話するための無線機も親機の操作には資格が必要で、これには第二級(または三級)陸上特殊無線技士が必要になります。
どの資格であっても試験内容はそれほど大きく変わるものではありませんが、航空無線通信士や航空特殊無線技士の試験では、フォネティックコードや簡単な無線通信のリスニングテストが実施されます。
フォネティックコードとは、聞き間違いを防止するためにアルファベットや数字に付けた特有の呼称(A:アルファ、B:ブラボーなど)のことで、航空業界では職種を問わず聞かれるものです。
フォネティックコードはこちらの記事の前半で紹介しています。↓
もしも運航管理など現場の仕事を志望するのであればいずれ必要になる資格ですから、先取りして取得しておくと良いかもしれません。
整備系職種での採用を目指す場合
総合職の整備系職種は実際に整備士として働く道もあれば、間接スタッフとして整備士が使うマニュアルや作業指示書などを作成する仕事もあります。
整備系間接スタッフの仕事内容については以下の記事で詳しく紹介していますので、ご覧になってみてください。
現場の整備士であれ間接スタッフであれ、まさに飛行機というメカのプロフェッショナルである必要があるのですが、参考となる教材などを4つ紹介します。
1. 航空機の基本技術 (通称グリーンブック)
グリーンブックは航空整備士を目指す人にとって基本的な作業や知識の拠り所となる教科書です。
飛行機の整備をするには配線やボルトの締結、リベット打ちなど様々な基本作業・知識を身に着けておく必要があります。
作業であれば作業上の注意点やお作法について、知識であれば部品の種類や規格の読み方など、必要な内容がグリーンブックにまとめられているのです。
さらに航空機整備では航空法への理解も非常に重要になってきます。
とりわけ飛行機(航空機)には、「耐空性」と呼ばれる独特の概念があって、飛ばすためには常に耐空性基準を満たしている必要があります。
この耐空性に関連した法体系についてもグリーンブックに解説が載せられているのです。
グリーンブックも値段は少し高めで5,000円ほどしますが、ネット販売や航空専門書籍を扱う書店などで購入可能です。
2. 航空工学講座(通称青本)
グリーンブックが一般的な整備作業の教本であるとすれば、航空工学講座(青本)は飛行機(航空機)という機械に特化した参考書になります。
飛行機は様々な最先端技術が集まってできた機械であるため、専門的に深く学ばなければいけない分野は多岐にわたります。
青本では構造、航空機システム、材料、ジェットエンジン、航法計器、電子機器などにトピックを分け、それぞれに対して1冊ずつの参考書として発行されています。
航空工学講座一覧
第1巻 航空力学
第2巻 飛行機構造
第3巻 航空機システム
第4巻 航空機材料
第5巻 ピストンエンジン
第6巻 プロペラ
第7巻 タービンエンジン
第8巻 航空計器
第9巻 航空電子・電気の基礎
第10巻 航空電子・電気装備
第11巻 ヘリコプタ
1冊 3,000円ほど(巻による)
下の図は飛行機構造の青本の表紙例です。↓
飛行機の仕組みを理解するためには、このようにシステムや分野ごとに科目を分けるようにして学んでいくのが基本なのです。
同じように、飛行機システムを分野別に章分けしたATAチャプターという国際規格があります。
ATAチャプターについては以下の記事で紹介していますが、ATAチャプターも意識しつつ青本を使用すると、より一層体系的な理解ができるかと思います。
飛行機はボーイングやエアバスなど、機体メーカーによって細かな造りは異なっています。
ですが、根本になる基本的な設計はどのメーカーでも共通する点が多く、その基本を学ぶことができるのが青本というわけです。
「飛行機の仕組みに興味がある!」「将来整備士になりたい!」という方は、ぜひどれか1冊手に取って、どのようなことが書かれているのか見てみてはいかがでしょうか?
3. 航空従事者学科試験(整備士)にチャレンジしてみる
飛行機を操縦するのにパイロットライセンスが必要であるのと同じように、飛行機の整備をするのにもライセンスが必要です。
航空会社で飛行機を整備するためには一等航空整備士と呼ばれる資格が必要であり、パイロットのライセンスと同じく航空従事者資格に分類されています。
受験科目は機体、法規、発動機、装備品の4科目に分かれており、国土交通省のホームページから過去問を閲覧することが可能です。(https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_000025.html)
試験問題の表紙例↓
学科試験の合格のみでは資格として有効でないのはパイロット資格と同じですが、こちらも学科試験のみ合格の証明を入手することが可能です。
受験費用が5,000円ほど掛かってしまいますが、航空業界への熱意をアピールする意味で実際に受験して証明を取得しておくと、ひょっとしたらどこかで役に立つかもしれません。
4. ASIMS(航空安全情報管理・提供システム)のサイトを見てみよう
運航に関して規則やルールを電子媒体で閲覧できるWebサイトがAIS Japanであるのならば、整備に関する規則やルールを閲覧できるのはASIMSと言ってよいかもしれません。(https://www.asims.mlit.go.jp/)
飛行機整備に関わる仕事をするのであれば、このASIMSのサイトで閲覧できる情報に少なからず触れることになります。
ASIMSで閲覧できる情報でまず注目したいのが、検査サーキュラーと呼ばれる航空機整備に関わる手続きや国の方針などを定めたガイドラインです。
先ほど飛行機を飛ばすためには耐空性基準と呼ばれる航空業界独特の基準を満たさなければならないと言いましたが、正に日々の整備作業においてこの耐空性を維持していくためにはどのような手順を踏むべきなのか、この検査サーキュラーにまとめられているのです。
このほか、耐空性改善通報(TCD: Type Certificate Directive)が閲覧できることも、ASIMSをお勧めする理由の1つです。
TCDとは、例えば既に実際に運航している機種になんらかの不具合が発見された場合、それが飛行の安全に著しく影響を及ぼすと国が判断した際に、各運航者に対して必ず指定された整備処置を実施するよう通告する文書のことです。
整備処置の具体的な内容自体は製造メーカーが作成するものですが、これを期限内に実施しないと飛行機として運航することができなくなってしまうのです。
このように整備側の目線から見て非常に重要な情報の多くがASIMS経由で閲覧できるのです。
ASIMSのログイン画面。ユーザー名とパスワードは未入力で「OK」を押せばよいです。↓
サーキュラー情報や耐空性改善通報(TCD)情報などが閲覧できます。↓
運航・整備共通の知識。航空法と航空法施行規則
ここまでは運航、整備それぞれの職種に対して役に立つ教材や資格などを紹介してきましたが、運航と整備のいずれにも共通して学んでおきたい事があります。
それは「航空法」と「航空法施行規則」です。
航空法は飛行機を飛ばす上でも整備する上でも最上位に位置する国の規則なので、事前に学んでおかない手はないということです。
ちなみ航空法施行規則とは、航空法の中で定めていない詳細なルールをよりかみ砕いて定めた法律だと思っていただいて構いません。
航空法の条文を読んでいると「国土交通省令で定める○○について~」というような表現がよく出てきます。
この国土交通省令というのが航空法施行規則のことを指しています。
「細かい内容については施行規則の方に定めてあるからそちらを参照してね」という具合です。
航空法も航空法施行規則も、国が管理する「e-Gov」というサイトで閲覧することが可能ですし(https://www.e-gov.go.jp/)、航空に関する関連法令をまとめたハンドブックも発行されています。↓
航空業界はとにかく勉強が必要な世界。だからこそ事前勉強で差がつく。
ここまで見ても分かるように、航空業界は非常に多くの法律や規則の下に事業が許されているわけで、これらの法律や規則をまず理解していなければなりません。
また、飛行機の設計自体は飛行機メーカーが行っているので、使う側の立場で必要なのはメーカーの設計をきちんと理解することです。
つまり、クリエイティブさや独創的な発想よりも、着実に知識を蓄えて順序良く物事を整理していく力が必要になるのです。
その意味では医者や弁護士などの仕事に近い部分があるかもしれません。
医者や弁護士は、業務に携わる前にまず法律や医学の知識を勉強しますよね。それと同じです。
ですから航空業界に携わることを希望するのであれば、地道にコツコツと勉強していく必要があることを覚悟しなければなりません。
これはパイロットや整備士など現場の仕事でもそうですし、間接部門のスタッフも同じです。
その反面、必要な知識を習得するための参考書や解説書が充実していることも航空業界の特徴です。
今回紹介したものの他にも、航空関連の書籍コーナーに行けばたくさんの参考書や解説書が出回っていることが分かるはずです。
言い換えれば、勉強しようと思う人とそうでない人で差が付きやすい業界とも言えるのです。
事前の勉強は中途採用ではなおさら有利!新卒採用でもスタートダッシュに繋がる!
昨今のコロナウイルス騒動で先行きは見通せませんが、航空業界では大手でも総合職の中途採用を度々やっていますし、LCCなどの新興のエアラインでは通年で募集を出しているところもあります。
職種によっては中途採用であっても「未経験可」としている場合もあるようですが、一から教育することを前提にしている新卒採用とは違うので、就業経験はなくとも専門知識があるに越したことはありません。
僕の知り合いに別業界から航空業界に転職してきた人が何人もいますが、実際には事前に航空専門の知識を多少でも身に付けて採用活動に臨んだ人はほとんどいないようです。
その大きな理由の1つに「航空業界の専門知識をどこでどのように学べばよいのか、知っている人はほとんどいないから」というのがあるかと思います。と言うことは・・・
そうです!
今回紹介した内容に少しでも事前に触れて採用面談の時にアピールできれば、ライバルに差を付けられる可能性が高いのです!
一方で新卒採用の場合は素材を重視した採用が基本ですから、事前知識がそこまで大きく採用に影響することはないかもしれませんが、入社後の出だしで他の人よりもスタートダッシュを切れる可能性が高くなります。
新卒社員はただでさえ社会人としての環境に馴染むまで苦労するわけですから、少しでもアドバンテージを感じられれば大きな心の支えになります。
新卒採用であっても中途採用であっても、航空業界を目指すのであれば事前に業界の知識に触れておいて損はないのです。
終わりに
いかがでしたか?
航空業界は勉強が大事だと言いましたが、それゆえに個人で努力して勉強したか否かが入社後も成果になって表れやすい業界だと思います。
たくさん勉強して知識やスキルを蓄えた人は、どんどん視野を広げて色々な業務に携わる機会が増えます。
逆に怠けていた人は、それほど難しくない仕事でも知識不足から必要以上に困難だと感じる場面を経験することが多いようです。
航空業界に興味がある、飛行機が好き、と言う方はぜひ今回紹介したどれか1つでもいいので試してみてはいかがでしょうか?
以上!