こんにちは。ころすけです。
突然ですが、みなさんはこちらの写真を見て、これが何だか分かるでしょうか?
草地にそびえ立つ、何やら怪しげな建物ですね。
実はこれ、上から見ると円盤型の台座のような形をしていて、さながらロケットの打ち上げ場かUFOの離発着場のように見えます。
これは一体何なのでしょうか?
「どうせ航空用途の何かでしょ?」
と言われればそうなんですが、実はこれ、空港の敷地内にあることもあれば、一見飛行機とは何の関係もない場所に設置されていたりもするのです。
今回はこの謎の施設について紹介したいと思います。
UFOの離発着場!? 怪しい円盤型施設は一体何?
まずは下の画像をご覧ください。
これは北海道稚内市のとある国道から見た写真なのですが、道路の脇に奇妙な円盤型の施設が鎮座しています。
上からの画像も併せて見ると、どうもこの施設は稚内空港の滑走路脇にあり、空港の敷地内にあることが見て取れます。
↓こちらはセントレアの画像ですが、セントレアでも滑走路脇に同じような施設がありますね。
と言うことは「これは空港で使用される何か特別な設備なんだな」と予想が付きそうですが、厄介なことに例外が存在します。
それがこちら。↓
拡大すると稚内空港やセントレアと同じような施設が確認できますが、画像が映っている千葉県野田市に空港はありません。
と言うことは、どうやらこの施設は必ずしも空港に設置されているわけではなく、空港に特有の施設というわけでもなさそうです。
では一体この施設は何であり、何のために使われる施設なのでしょうか?
正解はVOR/DMEという無線航法施設
正解を言いましょう。
実はこの施設はVOR/DME(ブイオーアールディーエムイー)と言って、無線航法施設の1つなのです。
無線航法施設とは、飛行機の針路を示す電波を使用した道標のことを言います。
より正確に言うと、この施設はVOR(VHF omni-directional radio range: 超短波全方向式無線標識)とDME(Distance Measuring Equipment)が1つになった無線航法施設なのですが、それぞれの役割は以下のとおりです。
まず、VORは飛行機に方位情報を与えてくれる無線航法施設です。
全方向式の名前からも分かるとおり、VOR局からは360度全ての方向に少しずつ周波数を変えたVHF周波数帯の電波が発信されています。
この電波を受信することで、飛行機は自分がVOR局から何度の方位にいるのか、詳細な情報を知ることができるのです。
一方でDMEは、飛行機に距離情報を与えてくれる無線航法施設です。
DMEを使用するには、まず飛行機側からDMEに対して質問電波が自動的に発信されます。
この質問電波をDMEが受信すると、今度はDME側から飛行機に対して応答電波が発信されます。
このように質問電波を送ってから応答電波を受信するまでの時間を計測することで、飛行機はDMEまでの距離を測ることができるのです。
VOR/DMEはこれらVORとDMEが1つになった無線航法施設で、円盤の上に円形に並んだアンテナ群がVOR用のアンテナ、真ん中に突き出た棒のようなアンテナがDME用のアンテナになっているのです。
このようにVORとDMEを組み合わせて使うことで、飛行機がVOR/DMEからどの方角にどのぐらいの距離にいるのか、すなわちVOR/DMEからの平面的な位置関係を把握することができるのです。
ちなみにですが、VOR/DMEは短縮してボルデメとよく呼ばれるので、覚えておくと良いでしょう。
空港にあるVOR/DMEと航路上にあるVOR/DME
それでは次に、VOR/DMEがどのような場所に設置されているのか考えてみましょう。
空港にあるVOR/DME
VOR/DMEは飛行機に方位と距離を伝えるわけですから、当然その設置場所は飛行機が向かっていく先が望ましいですよね。
飛行機が向かっていく場所と言えば、そうです、目的地である空港です。
実は全ての空港には敷地内にVOR/DME(空港によってはVORTACと呼ばれる施設ですがVOR/DMEと似たようなものです)が設置されているのです。
このように飛行機の運航では、
①空港に設置されているVOR/DMEに向かって飛び、空港の上空もしくは近傍に到達する
②そこから最終降下をしつつ、着陸する滑走路の延長線上に回り込む
とするのが基本なのです。
上の画像は、花巻空港での着陸の一例です。
到着する飛行機はまず、花巻空港の敷地内にあるVOR/DME (HPEというコード) を通過したのち、一旦北側に空港から離れます。
その後、180度旋回する形で花巻空港のRWY20の延長線上に回り込むのです。
ただし実を言うと、最近では飛行機の航法計器やレーダー監視の発達により、実際には空港のVOR/DMEに向かわず、飛行機が直接滑走路の延長線上に導かれる着陸方式の方が圧倒的に主流になっています。
しかし原点に立ち返って「VOR/DMEを設置する意味は?」と考えてみることで、空港ごとにVOR/DMEが設置されている理由がより理解しやすくなると思います。
↑日本で一番大きな空港である羽田空港にもVOR/DMEが設置されています。
航路上にあるVOR/DME
最終目的地への道標として空港ごとにVOR/DMEを設置する以外にも、単純に「空港から空港へ向かう道中にも道標がほしい」と考えるのは至極当然の発想だと思います。
実は先ほど紹介した千葉県野田市のVOR/DME(関宿VOR/DMEと言います)はこのパターンで、こちらは航空路を構成するために設置されたVOR/DMEと言えます。
なので、周りに空港も何もないところにポツンと設置されていたというわけです。
上の図は、SEKIYADO DEPARTUREという名前の、羽田空港から出発する方式の一例になります。
この出発方式ではその名のとおり、航空路を構成する関宿VOR/DME(コードはSYE)に向かうように経路が組まれています。
また、先ほど空港には必ずVOR/DME(もしくはVORTAC)が設置されていると紹介しましたが、実は空港のVOR/DMEは航空路を構成するVOR/DMEとしても用いられます。
下の図で、中央のYTEは山形空港に設置されたVOR/DMEを表しています。
このYTEは当然山形空港への道標となるわけですが、それと同時にY304、V32、Y11といった航空路を構成するVOR/DMEにもなっていることが分かります。
これらの航空路は全て関東地方と東北、北海道を結ぶ主要な航空路になっています。
羽田/成田と新千歳を結ぶ便など、山形空港の上空を通過する便は非常に多いのですが、実はその理由は山形空港のVOR/DMEが主要航空路の一点を担っているからなのです。
このようにVOR/DMEの中には、航空路を構成する目的で設置されているものがいくつかあるのですが、これらのVOR/DMEは近年では縮退する(廃止される)傾向にあります。
というのも、最近ではGPSを代表とする航法装置の発達で、VOR/DMEを用いなくても飛行機が自分自身でポジションを割り出し飛行することが主流になってきているからです。
先ほど紹介した関宿VOR/DMEも、近い将来に廃止されることが決まっているようです。
終わりに
いかがでしたか?
よく、「飛行機は電波の道を通って飛んでいる」と説明されることがあるかと思いますが、その電波の道を作る代表的なものが、今回紹介したVOR/DMEなんですね。
最近では縮退傾向にあるVOR/DMEですが、空港に設置されたものに関しては用済みとなるにはまだまだ早いようです。
もしもどこかの空港を訪れることがありましたら、ちょっと見渡して、その空港に設置されたVOR/DMEを探してみてはいかがでしょうか?
以上!