こんにちは。ころすけです。
航空会社(エアライン)の仕事と言えば何を思い浮かべるでしょうか?
パイロット、客室乗務員(CA)、整備士のほか、運航管理者(ディスパッチャー)という仕事を知っている人もいるかもしれません。
おそらく航空会社のイメージと言うと、これらの職種が思い浮かぶ人が多いかと思います。
しかし実はこれら全て、航空会社におけるいわゆる現場の仕事に分類されるのです。
現場ですから、一日一日の運航便に対して直接従事する仕事であり、旅客や飛行機を目の前にして働く仕事になります。
一方で航空会社では他に、通常はオフィスに勤務して、主としてパソコンを使ったデスクワークに従事している人たちもいます。
この中には、人事や総務といったどの会社にも存在する一般的な職種も当然存在しますが、航空機運航に関して極めて専門的な知識や技量を必要とする職種があるのです。
こういった職種を現業部門に対してスタッフ部門と言ったりします。
今回はそんなオフィスで働く航空系専門職種のうち、運航に関わる仕事が具体的にどのようなことをしているのか紹介したいと思います。
航空機運航における専門性は「運航系」と「整備系」に分かれる
航空会社にとっての至上命題は「旅客を乗せて航空機を飛ばすこと」です。
ですから航空会社における専門性とは、航空機を飛ばすための法律や航空機の航法に関すること、もしくは航空機という高度な機械に対する知識、技量ということになります。
この専門性というのは、詳細に分ければそれぞれが担っている業務によって様々です。
しかし、大きな括りとして「運航系」か「整備系」かに分けて考えることができ、このように考えることで携わる職種へのイメージがし易くなります。
では運航系と整備系ではどのように専門領域が異なるのでしょうか?
詳しく見ていきましょう。
運航系は「飛んでいる航空機、乗り物としての航空機に対する専門性」
運航系の専門領域は「飛んでいる航空機」に対する領域になります。
「航空機をどのように飛ばすか」と言い換えても良いかもしれません。
具体例を挙げると、例えば以下のような課題に対して向き合うための専門性が必要とされます。
・航空機をどのように操縦すべきか
・航空機をどのようなルートで飛ばすべきか
・航空機をどのような速度や高度で飛ばすべきか
・安全で効率の良い運航をするために、パイロットや客室乗務員はどのような操作、動きをすべきか
・上記の課題に対して現場の運航スタッフにどのような情報をどのように提供するか
課題になっている項目を見てみると、着目している内容が主として「実際に旅客を乗せて運航する段階」に焦点が置かれていることが分かります。
つまり、乗り物としての航空機を如何にして飛ばすかということを突き詰めていく領域になるのです。
整備系は「運航時間外の航空機、機械としての航空機に対する専門性」
一方で整備系の専門性はと言うと、「機械としての航空機」に対する専門性となります。
同じように向き合う課題の具体例を挙げてみます。
・航空機の機能を維持するためにどのような整備作業が必要か
・航空機の不具合をどのようになくすか
・航空機の整備に掛ける時間を短縮するためにはどのようにすべきか
・上記の課題を解決するための整備体制をどのように構築するか
・現場の整備スタッフに対してどのような情報をどのように提供するか
どうでしょうか?
先ほどの運航系の課題とは異なり、着目する内容が「航空機が飛んでいない時の機能維持」に焦点が置かれていることが分かると思います。
すなわち、整備系の専門性とは機械としての飛行機に向き合い、航空機が持つ機能を最大限発揮できる状態を如何に維持するか、ということを突き詰めていく領域なのです。
運航系の専門職種にはどんなものがある?
それではここからは、運航系の職種にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
先ほども述べたとおり、どれも「乗り物としての航空機をどのように飛ばすか」に関連した職種になっていますが、その中でさらに専門性が細分化されています。
運航技術職(プロシージャー、航空機システム)
航空機にはパイロットが操縦するための操縦マニュアルがあり、一般的にどの航空会社でもこのマニュアルはAOM(Airplane Operation Manual)と呼ばれています。
このAOMを作成し、パイロットの操縦方法に対する技術的な検討を行う職種が運航技術と呼ばれる仕事です。
AOMはいくつかの章に分かれており、プロシージャーや航空機性能、航空機システムなどに分かれていますが、プロシージャー+航空機システムの担当、航空機性能の担当で役割分担する航空会社が多いようです。
プロシージャーとは操作手順のことを指し、パイロットがどのタイミングでどのスイッチを操作すべきかや、どのようなことに注意を払うべきかなどについて時系列で示されています。
パイロットは基本的にこの手順に沿って、日々の航空機の操縦を行うわけです。
また、通常時の操作に加えて、緊急時の操作についても予めプロシージャーが定められています。
例えば、離陸滑走中に1つのエンジンが止まってしまった場合の対処手順や、飛行中に機内の空調システムに不具合が生じた際のトラブルシュート手順などが決まっているのです。
これらのプロシージャーは、基本的にはボーイングなどのメーカーが作成するものですが、メーカーの手順をただそのままパイロットに提示するわけではありません。
メーカーの手順がどのような意図で作られ、実際にパイロットが操縦する際に不都合がないか、中身を解釈して精査するのが運航技術の仕事なのです。
必要であればAOMとは別に「解説マニュアル」を社内で作成して、パイロットが内容を理解できるようにサポートします。
場合によってはメーカーに対して「こういう手順にしてほしい」とか「ここの手順はおかしいのではないか」と要望や指摘をするのも仕事の1つです。
航空機システムもAOMの一項目ですが、これは機体システムの説明書部分に当たります。
例えば、どのようなスイッチやレバーがあって、それらを操作すると何がどのように作動するのか、航空機の取り扱い説明が書かれています。
こちらも内容の大元はメーカーが作成するものですが、プロシージャーと同様に内容の解釈、精査が必要になり、場合によってはパイロット向けに解説マニュアルを作成します。
このように、パイロットではないけれどパイロットと同等以上に航空機の操縦やシステムの知識が求められる仕事なのです。
・メーカーが作成した航空機操縦、システムのマニュアルを解釈、精査する仕事
・必要に応じて要点を噛み砕いた解説書を作成してパイロットの理解を補助する
・パイロットと同等以上の航空機操縦、システムに対する知識、理解が必要
運航技術職(航空機性能)
AOMの航空機性能も性能技術職の担当範囲になります。
一口に航空機性能と言いますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?
具体的には以下のような数値やデータを扱うのが航空機性能の分野になります。
・滑走路、気象条件に応じた離陸速度データ
・気象条件や路面状態に応じた離陸、着陸に必要な滑走路長データ
・気象条件や使用するエンジンの推力に応じた上昇性能データ
・巡航時や上昇、降下時の速度とそれに応じた消費燃料データ
・気象条件や速度に応じた飛行機の航続距離データ
・旅客や貨物を含めた飛行機の重量や重心位置の計算に関するデータ
AOMにはこれらの性能データがそれぞれ掲載されており、そのデータを算出、検証するのが性能担当の仕事になります。
パイロットや運航管理者は、それらのデータに基づき日々の運航の飛行高度や運航可否を判断したりするのです。
計算自体はメーカーから提供される性能計算ソフトを用いますが、どのような条件を設定してどのようなデータを算出するかは航空会社によりポリシーが異なってきます。
算出された性能データを元に、どのような運航をすれば燃料コストや運航効率を改善させることができるのか検討し、提案していくことが航空機性能担当が果たすべき大きな役割となるのです。
プロシージャーや航空機システム担当と同様、航空機性能の面でパイロットに「解説マニュアル」を提供することも仕事の1つです。
航空機性能担当もまた、パイロットと同等以上の航空機に対する知識が必要であるほか、航空工学などの学問にも精通している必要があります。
・航空機運航に関する各種性能データを算出し、検証する仕事
・性能データを元により効率的な運航を検討し、提案していくことが必要
・性能面における解説書を作成してパイロットの理解を補助する
・パイロットと同等以上の知識のほか、航空工学に対する知識も必要
運航基準職
航空会社ではAOMと呼ばれる航空機の操縦マニュアルが存在すると述べましたが、AOMのほかにOM(Operations Manual)というマニュアルも存在します。
このマニュアルは広く航空会社の運航方針を定めるものであり、具体的には以下のような内容が記載されています。
・日々の飛行計画の作成に関する全般的な方針
・日々の運航便の監視や運航管理の方針、体制
・離着陸可能な気象条件に関する基準
・パイロットや地上で運航に関わるスタッフの職務や権限の範囲
・パイロットの勤務管理に対する基準
・緊急事態が発生した場合の対策や対応体制
このように、航空会社としての運航に関する全般的な基準を定めたものがOMであり、そのOMの内容を検討し、作成するのが運航基準職の大きな仕事です。
1つ具体的な例として、パイロットの乗務前の飲酒に関する問題が大きく取り上げられたことがありました。
その際、パイロットの乗務前における飲酒の基準を定めたり、管理体制について定めたりするのがこのOMになるのです。
OMに記載すべき内容は、国土交通省航空局のガイドラインや基準などに示されているのですが、それを自社の運航基準として適切な形で落とし込むことが必要になるのです。
また航空会社の運航は、基本的に国土交通省航空局の監督の下行われています。
航空局からは定期的な監査があったり、安全に関わる出来事や不祥事があった際には状況説明に出向かなければならない場合があります。
そのような時に、航空局に対する航空会社側の窓口となるのが、この運航基準職であることが一般的です。
運航基準の仕事では、航空運航に関する幅広い知識が求められるほか、航空法や国が定める各種基準について深い知識を有している必要があるのです。
・運航全般の基準や規則を示したOMの内容を検討し作成する仕事
・監督官庁である国土交通省航空局の対応窓口となる
・航空法や国が定める基準に精通し、運航に関する広い知識が必要となる
航路関係職
航空機運航に関する航路情報をまとめたものとしてRM(Route Manual)というものが存在し、パイロットは携帯することが義務付けられています。
このRMの内容を検討し、作成するのが航路関係の職務になります。
RMには例えば以下のような内容が記載されています。
・巡航における経路情報や運航ルール
・各空港からの出発方式や着陸方式(空港を離陸して巡行に移るまでや、巡航から着陸に至るまでの経路や運航ルール)
・各空港ごとの地上支援体制に関する情報
・航空管制に関する運用方法
・各国における航空管制や航空交通ルールに関する情報
これらの情報を収集し、一冊のRMにまとめてパイロットに提供することが主な仕事になります。
また、新規に路線を開設する際に飛行経路を選定するのも航路担当の仕事になります。
特に国際線を運航している場合、国によって運航ルールが異なったり、必要な情報が入手しづらいことがあったりします。
そのような場合には、現地の空港などに事前に視察に行ったりすることも必要になります。
航路の仕事は飛行計画を作成する仕事と共通点が多いこともあり、運航管理者(ディスパッチャー)や運航管理者補助の職務を経験した後に配属されるケースが多いようです。
・RMと呼ばれる飛行経路情報のマニュアルを作成、パイロットに提供する仕事
・新規路線の開設時に飛行経路を選定する仕事
・現地の空港における運航ルールなどの情報を収集しまとめる
客室関係職
パイロットに操縦マニュアルがあるのと同様に、客室乗務員にも乗務中の動きや手順を示したマニュアルが存在します。
このマニュアルのことをCAM(Cabin Attendant Manual)と言います。
客室乗務員の動きと言っても、飲み物や食事のサービスに関する動きについてではありません。
実は客室乗務員には役割が2つあるのです。
・保安要員(旅客に対して飛行の安全を確保する業務)
・サービス要員(旅客に対する飲み物や食事の提供など)
このうち、保安要員として客室乗務員がすべき行動を定めたものがCAMになるのです。
CAMの内容の例としては、例えば離着陸前のドアの開け閉めやロックの確認手順であったり、緊急脱出時に取るべき行動やアナウンスの方法などが挙げられます。
パイロットに対するAOMと同じように、客室乗務員に対するCAMの内容を検討し、作成するのが客室関係職の主な仕事です。
客室関係の仕事は、実際の客室現場を熟知している必要があるため、客室乗務員としての経験を積んだ人が配属される場合がほとんどです。
・客室乗務員の行動手順を定めたCAMを検討、作成する仕事
・CAMは保安要員としての行動手順が定められている
・実際に客室乗務員としての経験を持つ社員が担う場合がほとんど
どの職種であっても専門知識の勉強が不可欠!
ここまでで、オフィスで働く運航系の航空専門職について紹介しましたが、いずれの職種においても共通して言えることがあります。
それは「各職種に必要な専門知識を継続して勉強し続けること」です。
航空業界には国が定めた法律やルールがあり、航空機の飛ばし方やシステムに対しても、技術的に確立されたセオリーが存在します。
また、航空会社の至上命題は「旅客を乗せて航空機を飛ばすこと」ですが、その大前提として安全が何よりも担保されていなければなりません。
先ほど紹介した職種は、全て何らかのマニュアルを作成することが大きな仕事になっていますが、そのマニュアルの内容は例外を除いて監督官庁である国土交通省航空局の認可を逐一受けなければならない規則になっています。
安全を担保した上で航空機を飛ばすためには、法律やルール、航空機の操縦方法やシステムに精通していなければならず、適切な知識的背景がなければ航空局から認可をもらうことはできないのです。
さらに航空機の飛ばし方は、技術の向上に伴い日々新しい手法が導入されてきています。
これら新しい技術や世界の動向に追随していくためにも、日々知識を更新していくことが欠かせないのです。
運航系の専門職になるためには?
ところで、このようなオフィスで働く運航系の専門職に就くにはどのような入口があるのでしょうか?
新卒と中途採用に分けて見てみましょう。
新卒は大卒の総合職採用が基本
新卒では基本的に大卒のいわゆる総合職で採用された人材が配置されるケースがほとんどです。
航空会社の総合職では、一般に総合職事務系と総合職技術系があるのが普通です。
それぞれで採用された場合に、将来的に配属される可能性がある職種との対応関係はおおよそ以下のとおりです。
<総合職事務系>
・運航基準職
・航路関係職
※いずれも運航管理者として現場経験を積んでから配属されることが多い
<総合職技術系>
・運航技術職(プロシージャー、システム)
・運航技術職(航空機性能)
※整備系の現場に数年配置された後に異動するケースや入社後すぐに配属されるケースなど様々
会社の組織体制によって異なることもありますが、一般的には事務系採用か技術系採用かで配属の可能性がある職種は絞られると思ってよいでしょう。
なお、客室関係の仕事に関しては先ほども述べたとおり、客室乗務員として採用され、現場での乗務を経験した人の中から配置される場合がほとんどです。
未経験の中途採用も若干あり。ただし門戸は狭い。
最近はLCCの登場など航空会社の数が増えていることに加え、大手の航空会社も規模拡大のために中途採用を募集しているケースが目立ちます。
しかし、中途採用を募集している場合であっても、未経験で運航関係の専門職として採用されるケースはさほど多くないというのが実態です。
なぜなら航空機を飛ばすための専門知識というのは、やはり航空関係での仕事を経験した人でなければ習得が難しく、他業界での経験を活かすこと非常に難しいからです。
ただ、職歴以外で以下のような資格や経験を有する場合、業界未経験であっても採用される可能性はあります。
・航空機のパイロットライセンスを持っている
・大学時代に航空工学を専攻していた
しかし、いずれにせよかなり特殊な知識や経験が要求される分野のため、未経験からの転職で可能性を模索している場合はかなり狭き門であることを覚悟する必要があります。
大手航空会社と中堅、小規模航空会社の違い
仕事内容について言えば、大手の航空会社と中堅航空会社、地方限定の小規模航空会社で大きく異なることはありません。
しかし大きな特徴として、大手の航空会社では事業規模が大きいために担当職種が固定される傾向がありますが、中堅・小規模航空会社では職種を兼務する場合が多い傾向があります。
例えば、中堅・小規模航空会社では以下のように職務が統合される場合があります。
・運航技術職(プロシージャー、航空機システム) + 運航技術職(航空機性能)
・運航基準職 + 航路関係職
中堅・小規模航空会社では運航路線数が少なかったり、運航機材が1機種だけであったりするので、必然的に一人が担う業務の範囲が広くなるからです。
こんな人が向いている
最後にオフィスで働く運航系の専門職に向いている人物像について紹介しますが、以下のとおりです。
・乗り物としての航空機が好きな人
・規則や基準、航空工学などの机に向かった勉強が苦にならない人
・発想やアイディアよりも、筋道を立てて物事を整理する考え方が得意な人
この中で一番必要だと思うのは、1番目の「航空機が好きな人」だと個人的には思います。
先ほどから述べているとおり、航空関係の専門職は職種に応じた分野の勉強を継続して行っていく必要があります。
しかし一方で、航空業界で身につけた専門知識や経験は他の業種と共通するものが少なく、正に航空機運航のための知識となる場合が多いのが実情です。
それでもなお、仕事に対して知識や経験のアップデートを怠らないように努力するためには、やはり航空機が好きであるに越したことはありません。
また、航空機の運航は法律や基準を順守しながら実施する必要があるので、突拍子もないアイディアや奇抜なアイディアよりも、裏にある背景や理屈などを踏まえて論理的に答えを導く力が重要視されます。
そんな少し特殊な部分がある航空業界ですが、少しでも興味があるという方はぜひチャレンジしてみることをお勧めしますし、この記事が少しでも役に立てばうれしく思います。
以上!