こんにちは。ころすけです。
突然ですが、NOTAM(ノータム)という用語をご存知でしょうか?
NOTAMはパイロットや運航管理者など、航空運航に携わる人たちが毎日目にする運航情報なのですが、航空関係外の方も閲覧できる面白い情報なのです。
今回はNOTAMの内容とその読み方について解説するほか、実際にエアラインの運航で注目するNOTAM、一般の方が見ても面白いNOTAMも例を交えて紹介したいと思います。
NOTAM(Notice to Airmen)とは
NOTAMはNotice to Airmenの略で、直訳すると「航空関係者向けの情報」となります。
航空法では、航空管制機関は操縦者に対して「航空機の運航のため必要な情報を提供しなければならない。」と定めていて、操縦者に対しては「これらの情報を業務に利用するよう努めなければならない。」と定めています。(航空法99条 情報の提供)
では、どのような情報か?と言うと、これは航空法の下位法規に当たる航空法施行規則209条の2に定められています。
航空法施行規則209条の2(航空情報)※一部要約
- 空港等・航空保安施設の供用の開始、休止、再開及び廃止、これらの施設の重要な変更、その他施設の運用に関する事項
- 空港等における航空機の運航についての障害に関する事項
- 飛行禁止区域・飛行制限区域に関する事項
- 計器飛行方式におけるTakeoff Minima、Landing Minima(離着陸を実施してよい最低気象条件や進入限界高度などの制限値)に関する事項
- 航空交通管制に関する事項
- ロケツト、花火等の打上げ、航空機の集団飛行その他航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある事項
- 気象に関する情報、その他航空機の運航に必要な事項
※具体的な内容は後半で紹介します
航空情報のうち、基本的に変更がないものや予め変更予定日が決まっているもの(例えば〇月〇日から新しい滑走路が運用開始されますや、管制ルールが変わりますなど)はAIP(航空路誌)とその改訂版であるAIP Amendment(航空路誌改訂版)という文書で周知されています。
これらの文書は基本的に28日のサイクルで改訂されるのですが、実際の運航では突発的で緊急を要する変更や、短い期間限定での変更など、航空路誌だけでは対応しきれない情報が出てきます。
このような航空情報を周知するのがNOTAMなのです。
余談ですが、NOTAMは米国連邦航空局(FAA)では近年、Notice to ”Airmissions”と名称が変更されているようです。
NOTAMはどこで閲覧できる?
航空情報センターが提供するAIS JAPANが公式情報
NOTAMやAIPは、国土交通省航空局の関連機関である航空情報センター(AISセンター)が管理・発信を行っていて、AIS JAPANというサイトで電子的に閲覧することが可能です。
AIS JAPANは無料でアカウント作成が可能
AIS JAPANを閲覧するにはアカウントの作成が必要ですが、簡単な登録だけで誰でも無料で閲覧することができます。
下の画像はAIS JAPANのログイン画面ですが、
① Create a new accountを選択
② 所望のE-mailアドレスを入力してSubmit
③ E-mailに送られたリンクにアクセス
④ ID/Passwordを入力してSubmit
以上でアカウント作成が完了します。
NOTAMの検索方法
NOTAMはNOTAMタブから必要な情報を入力して検索します。
入力欄がたくさんありますが、最低限Locationだけ入力すれば十分です。
LocationにはICAOコードと呼ばれる、4レターの空港や管制機関を表すコードを入力します。
主要な4レターコードの例
<空港>
・RJTT(羽田空港)
・RJAA(成田空港)
・RJCC(新千歳空港)
・RJSS(仙台空港)
・RJGG(中部国際空港)
・RJOO(伊丹空港)
・RJBB(関西国際空港)
・RJFF(福岡空港)
・ROAH(那覇空港)
<管制機関>
・RJJJ(航空交通管理センター)※国内空域全般の管理機関
・RJTG(東京コントロール)
・RJCG(札幌コントロール)
・RJDG(福岡コントロール)
・RJBG(神戸コントロール)
<都市>
・RJTD(東京都)
NOTAMの読み方を徹底解説!
NOTAM解読の基本
NOTAM解読の基本ですが、少々厳密なことを言うと、AIS JAPANで検索結果を表示させた場合の表示はNOTAM原文を若干読みやすく書き下してあります。
ただし、いずれにしても本文となる内容はE)から始まる部分ですので、注目する箇所は同じです。
注意したいのは開始・終了時刻で、この時刻は世界標準時(UTC)で記載されています。
日本の現地時刻は世界標準時+9時間ですから、時間まで知る場合は注意が必要です。
上の例では2/1 00:30~07:30に有効な情報ですが、日本時間では2/1 09:30~16:30ということになります。
そしていよいよE項が本文となるのですが、記載内容は簡単な英語であるものの、略語が多く使用されています。
例えば上の例ではRWY=Runway(滑走路)、MAINT=Maintenance(修理・補修)、U/S=Unserviceable(運用停止)、THRU=throughといった具合です。
これらについては実際の例で見た方が早いので、続いて実際のNOTAMの解読例を見ていきましょう。
NOTAMの解読例(エアライン運航で注目度が高いもの)
誘導路の通行止め、スポットの運用停止、滑走路の閉鎖等
FROM 23/01/25 15:00 TO 23/02/22 15:00
E)REF AIP SUP 010/23 ITEM TWY:B
TWY N2,N3(BTN N4 AND SPOT 931),N4-CLSD
RMK/THE EXACT TIME OF NEXT PERIOD WILL BE NOTIFIED BY FURTHER NOTAM
FROM 23/01/25 15:00 TO 23/02/22 15:00
E)REF AIP SUP 010/23 ITEM APRON:C
SPOT V1,V2-CLSD
RMK/THE EXACT TIME OF NEXT PERIOD WILL BE NOTIFIED BY FURTHER NOTAM
1つ目の例は誘導路N2、N3(誘導路N4とSPOT931の間)、N4が通行止めであることを、2つ目の例はSPOT V1とV2が使用不可であることを示しています。
REF AIP SUP~の部分は、AIP SUP(航空路誌補足版)に関連情報があることを示しています。
この例ではAIP SUP 010/23に事前予告がなされていて、詳細な日時が2023/1/25 24:00~2023/2/22 24:00と決定したため、NOTAMにて情報提供がなされました。
TWY=Taxi Way(誘導路)、CLSD=Closed、REF=Referece、RMK=Remarks
滑走路灯火、誘導路灯火など航空灯火の運用停止等
FROM 23/01/25 15:00 TO 23/02/22 15:00
E)REF AIP SUP 010/23 ITEM RWY:28
RCLL FOR RWY 16L/34R-PARTLY U/S
RMK/THE EXACT TIME OF NEXT PERIOD WILL BE NOTIFIED BY FURTHER NOTAM
空港では夜間でも運用が可能なように、滑走路・誘導路の中心線や横端を示す灯火(ライト)が敷設されていますが、これらのライトが点灯していない場合もNOTAMにて通報されます。
上の例ではRunway 16L/34RのRCLL=Runway Centerline Light(滑走路中心線灯)が部分的に点灯していないことを示しています。
RCLL=Runway Centerline Light(滑走路中心線灯)、RWY=Runway(滑走路)、U/S=Unserviceable(運用停止)
他の灯火の略語例
RTHL=Runway Threshold Light(滑走路末端灯)、RTZL=Runway Touchdown Zone Light(接地帯灯)
航空保安無線施設や空港設備の運用停止等
FROM 23/02/01 14:00 TO 23/02/27 21:30
D)01 02 04-06 08 09 11-13 15 16 18-20 22 23 25-27 1400/2130
E)ILS-LOC,GP,DME FOR RWY 16R-U/S DUE TO CONST
この例では、無線電波を使用する施設の1つであるILSが保守工事のため運用できないことを示しています。
ILS(計器着陸装置)はLOC(Localizer)、GP(Glide Path/Slope)、DME(Distance Measuring Equipment)で構成される装置です。
ILSが使用できないと飛行機の運航に大きな影響が懸念されますが、この例ではD項に該当時間の詳細が示されています。
01や25-27は該当期間中(2/1~2/27)で対象となる日付を指定していて、その中の14:00~21:30(日本時間23:00~翌日6:30)が対象という意味です。
この例は羽田空港のものですが、この時間Runway 16Rは使用されないので問題ないというわけです。
このように夜間中の保守工事のNOTAMはよく見られます。
CONST=Construction(工事)
滑走路の溝(グルービング)の部分的な消失
FROM 23/01/30 11:17 TO 23/02/02 21:00
E)REF AIP SUP 010/23 ITEM RWY:38
GROOVING FOR RWY 04/22 PARTLY,GRADUALLY ERASED OR INSTALLED
滑走路には水はけをよくするための溝(Grooving)が施されていますが、この例ではGroovingが一部消失していることを示しています。
飛行機は飛行計画の段階で、その日の気象条件や重量などを元に、離陸中断した際の滑走距離や着陸に必要な滑走距離を算出する必要があります。
航空会社によって基準が異なりますが、Groovingの有無は飛行機のブレーキ性能に影響があり、これらの滑走距離の評価に影響があるほか、離着陸可能な横風の制限値(風速)の判断も変わるので、非常に重要な情報と言えます。
離着陸に影響を与える一時的な障害物
FROM 23/01/05 16:13 TO 23/03/22 15:00EST
E)OBST(TREES) EXIST ABV APCH SFC FOR RWY 01
1.PSN : BOUNDED BY FLW POINT
382405.30N1402215.25E 382405.37N1402218.05E
382400.19N1402218.27E 382400.12N1402215.46E
(142.0M TO 310.1M BFR RWY 01 THR AND 95.0M TO 186.0M RIGHT EXTENDED RCL)
2.NUMBER: NUMEROUSNESS
3.RMK : (1)WX MNM, INSTRUMENT APCH PROC, DEP PROC NO CHANGE (2)THIS NOTAM WILL BE INCORPORATED IN RJSC OBSTACLE DATA ON 20230323
F)SFC G)364FT AMSL
各空港には制限表面と呼ばれる立体的な制限区域があって、これを超える高さの建物等がないように制限をかけています。
ですが、時々これを超える物件(工事現場のクレーンなどが多い)や立木が発生することがあるので、これもNOTAMで通報されるのです。
上の例では複数の立木が進入表面(制限表面の1つ)を超えて存在していることを、その座標と高さと共に報じています。
「382405.30N1402215.25E」などは緯度経度を表していて、この例では北緯38度24分5.3秒、東経140度22分15.25秒の座標を表しています。
このような障害物(Obstacle)があると、進入(着陸)時に滑走路が見えない状態で降下できる限界高度に影響が出たり、離陸時に要求される最低上昇勾配が大きくなる可能性があるので注意が必要なのです。
OBST=Obstacle(障害物)、ABV=Above、FLW=Following、APCH=Approach(進入)、DEP=Departure(出発)、SFC=Surface(表面)、PSN=Position、BFR=Before、THR=Threshold(滑走路末端)、WX MNM=Weather Minima(最低気象条件)、Proc=Procedure(運用手順)、AMSL=Above Mean Seal Level(平均海面からの高さ)
滑走路の積雪情報(SNOWTAM)
FROM 23/02/01 08:43 TO 23/02/01 16:24
E)SNOWTAM
02010824 17 3/3/3 100/100/100 12/10/10 DRY SNOW/DRY SNOW/DRY SNOW
RWY 17 28/28/27 SURFACE FRICTION TESTER.
続いてはSNOWTAMと呼ばれる特殊なNOTAMです。
SNOWTAMは降雪で滑走路に雪が積もった際に、その雪質や積雪の深さなどを報じるNOTAMです。
上の例では滑走路上にDRY SNOW(パウダースノー)が3mm以下の厚さで積もっていることを示しています。
滑走路の積雪状態も飛行機のブレーキ力評価に影響するため、離着陸距離の計算や横風の制限値に影響を与えます。
SNOWTAMについては以下の記事で詳細を解説しています。
洋上航空路の指定
FROM 23/02/01 07:00 TO 23/02/01 21:00
E)EASTBOUND PACOTS TRACKS BETWEEN JAPAN AND NORTH AMERICA,
TRACK 1.
FLEX ROUTE :
KALNA 41N160E 43N170E 45N180E 47N170W 48N160W 49N150W 49N140W PRETY
JAPAN ROUTE :
ADNAP OTR5 KALNA
NAR ROUTE :
ACFT LDG KSEA–PRETY TOU MARNR KSEA
ACFT LDG KPDX–PRETY TOU KEIKO KPDX
ACFT LDG CYVR–PRETY YAZ CYVR
RMK : ACFT LDG OTHER DEST–PRETY UPR TO DEST
飛行機の飛行経路はWaypointと呼ばれるチェックポイントがあり、これらを結んだルートが予め設定されています。
ですが、太平洋を横断するルートについては、日毎に最適なルート(PACOTSと呼ばれる)を都度設定する方式が取られていて、国内空域を包括的に管理する航空交通管理センターからNOTAMで周知がされます。
上の例では、北米のシアトル(KSEA)、ポートランド(KPDX)、バンクーバー(CYVR)行きの便向けに通過すべきWaypointが名称(KALNAなど)や座標で示されています。
余談:太平洋上ルートは、最近では航空会社が柔軟に経路設定する方式もあります。
NOTAMの解読例(意外な情報・面白情報など)
ここからは少々変わった、面白いNOTAM情報の例について紹介します。
ロケット・花火の打ち上げ
FROM 23/01/26 05:10 TO 23/03/31 15:00
E)REF AIP SUP 199/22 (CHANGE TO READ)
NO LONGER IN FORCE
LAUNCH OF ROCKET H-2A-F46 WAS COMPLETED
FROM 23/02/01 09:00 TO 23/02/28 12:00
D)0900/1200
E)FIREWORKS:
PLACE : 353751N1395305E
(APRX QTE/098DEG 2.2NM FM RJTI ARP)
(TOKYO DISNEY LAND/URAYASU-SHI IN CHIBA)
F)GND G)821FT AGL
1つ目はロケットの打ち上げに関するNOTAMで、H2Aロケットの打ち上げが完了して注意する必要がなくなったことを報じています。
例は打ち上げ完了の報告ですが、打ち上げ前から事前に注意喚起のNOTAMが出されます。
2つ目は花火の打ち上げに関するNOTAMで、夏の花火シーズンはその件数も増えます。
例は東京ディズニーランドの花火の打ち上げに関するもので、テーマパークのイベント絡みの花火はよく目にする情報です。
曲技飛行・無人航空機の飛行
FROM 22/11/09 05:00 TO 23/02/08 08:39
E)AEROBATICS:
1.FLT AREA:
(1)CIVIL TRAINING AND TESTING AREA CS3 (REF AIP PAGE ENR5.3-18)
ALT:MAX 3000FT AMSL
(2)BOUNDED BY FLW POINTS
343340N1340639E 343152N1340943E 343556N1340921E
(OFFSHORE OF OKAYAMA-SHI)
ALT:MAX 5000FT AMSL
こちらは特別な飛行を予め周知するNOTAMで、例はAerobatics=曲技飛行の予定空域などが記載されています。
日本の曲技飛行では、航空自衛隊のブルーインパルスが有名ですが、演技飛行がある場合にはNOTAMでそれと分かる情報が出るため、マニアの方はご存知の方もいるかもしれません。
似たようなNOTAMで、AEROBATICSの代わりにUNMANNED ACFT(無人航空機)と書かれたNOTAMもよく見られます。
これはドローンのような無人の航空機のことで、所定の条件で飛行させる場合には航空局に申請が必要になり、NOTAMとして他の関係者に情報が周知されるのです。
パラシュートジャンプ、気球の打ち上げ
FROM 23/01/29 23:00 TO 23/02/02 13:00
D)2300/1300
E)PJE:
1.LDG SITE : WI A RADIUS OF 1.1NM OF 351523N1385319E
R-114(HIGASHIFUJI MANEUVERING AREA)
(GOTENBA-SHI,SUSONO-SHI IN SHIZUOKA)
2.USING ACFT: C130 X 15, C1 X 1
3.RMK: SOURCE/JSDF-G(RJAT)
F)SFC G)12000FT AMSL
続いても、航空に関する活動を周知するNOTAMですが、PJE=Parachute Jumping Exerciseで、いわゆるパラジャンの活動予定が報じられています。
例のNOTAMは静岡・御殿場のパラグライダー体験ができるエリアに該当しています。
PJEではなく、BALLOON(気球)の打ち上げに関するNOTAMも頻出の情報です。
航空障害灯の不作動
FROM 23/01/23 23:00 TO 23/03/31 08:00
E)OBST LGT ON POWER LINE TOWER-U/S
PSN : 354018.0N1401155.0E (YOTSUKAIDO-SHI IN CHIBA)
F)SFC G)424FT AMSL
続いてはObstacle Light(航空障害灯)が不作動という内容のNOTAMです。
航空障害灯はビルや鉄塔などで赤色に光っていたり、白色で閃光しているライトのことで、誰もが見覚えのあるものかと思います。
例は電線の鉄塔の航空障害灯が不作動であることを伝えています。
また類似のもので、Obstacle Day Marking(昼間障害標識)が消えている、という主旨のNOTAMもあります。
昼間障害標識は鉄塔や煙突でよく見られる、橙と白の模様のことです。
実はこれらも航空関連の設備で、不具合があった際にはNOTAMで報じられるのです。
終わりに
いかがでしたか?
NOTAMはエアラインの運航でも日々確認が必要な情報なので、大抵各会社とも運航管理部門で新しい情報をモニターする体制になっています。
略語が多く取っつきにくいですが、慣れてくると意外に典型的な例がほとんどであることが分かります。
一般の生活でNOTAMが必要になることは滅多にないと思いますが、航空業界の豆知識として興味があれば、ぜひAIS JAPANのサイトから閲覧してみてはいかがでしょうか。
以上!