飛行機

飛行機の仕組み~フラップ・スラットの操作・動き~

こんにちは。ころすけです。

前回の記事でフラップ・スラットの役割について解説しました。

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飛行機にフラップ・スラットが装備されている大きな理由は、離着陸時の飛行速度を遅くするためです。

今回は実際の操縦の実用的な視点で、以下について解説したいと思います。

① フラップ・スラットをコックピットでどのように操作するのか
② フラップ・スラットを操作するタイミングや手順
③ コックピットの操作と実際のフラップ・スラットの動き

では始めましょう。

フラップ・スラットの操作と動きの基本

フラップレバーはセンターコンソールの右側

フラップ・スラットはコックピットのパイロットが操作するわけですが、その操作レバーは両パイロットの間にあるセンターコンソールの右側にあります。

下の画像のように、センターコンソールのちょうど中心にあるレバーが推力を調整するスロットルレバーで、その右側にあるのがフラップレバーです。

コックピットセンターコンソールの画像出典:https://www.flickr.com/photos/rtyrpics/39841120404
フラップレバーの画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=7iP-kU6Xfwk

この配置はエアバスでもボーイングでもその他の機種であっても、同じ配置になっています。

パイロットはこのレバーを前後に動かすことで、フラップ・スラットを展開/格納するのです。

フラップとスラットは連動して動く

フラップ・スラットの展開度合いは数段階で調節が可能で、パイロットは状況に合わせて適切な展開度合いのフラップ・スラットを選択します。

この段階は機種によって異なるのですが(後ほど解説します)、4~6段階程度で徐々に大きく展開するようになっています。

ここで注意が必要なのですが、コックピットのパイロットはフラップとスラットを別々に操作するわけではありません。

フラップとスラットはフラップレバーの操作に従って、双方が連動した動きをするのです。

具体的には、フラップレバーの段階(ポジション)によって、前のポジションからフラップとスラットが両方動く場合もあれば、フラップとスラットの片方しか動かない場合もあります。

下の画像は、B787でフラップレバーをUpから1、5と順に操作した場合の動きです。

フラップの動きの例(B787)

狭義の意味ではフラップとスラットは別々の装置を指しますが(フラップは主に翼後縁、スラットは翼前縁の装置)、広義の意味でフラップと言う場合、フラップやスラットなどを含めた高揚力装置全体を指します。

なので、「パイロットがフラップを操作する」と言う場合、特にフラップとスラットを区別しているわけではなく、フラップレバーポジションによってどのように連動して(どちらが)動くのかは機種ごとの仕様によるというわけです。

先の例で、例えばB737ではフラップレバーをUpから1にした場合、スラットとフラップの両方が動く仕様になっています。

離陸の時は浅いフラップ、着陸の時は深いフラップ

フラップは離着陸時に使用しますが、フラップポジションの内、離陸には浅いフラップ、着陸には深いフラップが使用されます。

フラップは大きな数字(展開角度が大きい=深いフラップ)を使用するほど、飛行速度を遅くすることができるのですが、これから加速していく離陸では浅く、これから減速(停止)する着陸では深く使用する方が合理的というわけです。

どのフラップポジションが離陸用か着陸用かは、それぞれTakeoff Flap / Landing Flapという呼び方でメーカーが割り当てています。

ざっくりと言うと、Takeoff Flapは浅い方の3つ程度、Landing Flapは一番深い2つが割り当てられるイメージです。

例として、B787-8のフラップポジションは1、5、15、20、25、30と6段階あります。

このうち、Takeoff Flapは5、15、20の3つ、Landing Flapは25と30の2つです。

基本は浅いフラップを使用。機体重量や気象条件に合わせて事前に決定

使用するフラップは、当然いざ離着陸しようとする段階の前に事前に決めておく必要があります。

離陸であればブロックアウト前、着陸であれば飛行開始前に予め想定をしておいて、巡航からの降下を開始する前に最終確認をして決定するイメージです。

どのようにして使用するフラップを決めるかと言えば、離着陸する滑走路の長さに対して離着陸距離が長くなってしまう場合に深めのフラップを選択します。

離着陸距離が長くなる=深いフラップを使用する要因には、以下のような要素があります。

深いフラップが必要となる要素

・使用する滑走路が短い
・機体の重量が重い(満席に近い、予備燃料をたくさん積んでいる など)
・追い風が強い
・滑走路が滑りやすい(雪で覆われている場合など)
・滑走路の標高が高い

フラップは深いほど空力的な抵抗が大きくなってしまうので、基本的に浅いものを使用するのがセオリーですが、状況に応じて深いフラップを選択するのです。

フラップはいつ操作する?離陸・着陸時の操作

離陸時の操作はタキシングの開始前

離陸の際にフラップを展開するタイミングは、ずばりタキシング(地上滑走)の直前で、Before Taxi ProcedureまたはAfter Start Procedureと呼ばれるパイロットの操作手順の中に含まれています。

飛行機は多くの場合、トーイングカーでプッシュバックされますが、プッシュバック中にエンジンをスタートさせ、続いて地上滑走を開始する前にフラップを展開するのです。

ただし、雪が降っている場合では例外があります。

雪が降っている場合、タキシング中にはね上げた雪がフラップに付着したり、翼に撒いた除雪剤が流れ落ちてしまうのを防ぐために、フラップの展開を離陸直前まで遅らせることがあるのです。

離陸後は加速に合わせて格納する

フラップを使用して最小限の速度で離陸した飛行機は、今度は定常上昇速度に向けて加速していきます。

フラップは低速飛行を可能にする装置ですが、速度が速いと構造的に負荷が掛かりすぎてしまうため、使用できる上限の速度が決められています。

この上限の速度(VFEやFlap Placard Speedと言います)はフラップポジションごとに決まっているので、加速に合わせて使用可能な速度域のフラップになるように、順番に格納(Retract)していくのです。

順番にフラップを格納する手順は、専門的にはFlap Retraction Scheduleと呼ばれます。

Flap Retraction Scheduleのイメージ赤矢印の範囲がそのFlap Positionで飛行可能な速度範囲
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着陸時は減速しながら展開する

着陸の際は離陸と逆で、徐々に減速しながらフラップを展開(Extend)していきますが、これはFlap Extension Scheduleと呼ばれます。

どこからフラップを使用するかと言うと、最も典型的には、まずフラップアップ(No Extend)の状態で10,000ft(約3,000m)までに250kt以下まで減速します。

大抵の機種で200kt付近からフラップが必要となるので、フラップを展開し始めるのは10,000ft以下になってからというわけです。

10,000ft以下でフラップを展開し始めるイメージ

より詳細にどこからフラップを展開するかとなると、これは気象条件や航空管制上の都合など時々の条件に左右され、パイロットの判断によります。

降下しながらの減速には風の強さなど気象条件に影響されますし、管制上の制約で一定の速度を維持しなければならない場合などもあるからです。

飛行機の窓側に座っていると、何回かに分けて徐々にフラップが展開されていく様子を見たことがあるかもしれません。

次の機種別の比較で後述しますが、ボーイングやエアバスの機種の場合、基本操作ではパイロットは着陸までに4回フラップレバーを操作します。

機種により異なる?フラップ角の呼称と角度

機種別のFlap Position比較・まとめ

ここからは機種ごとの違いについて見ていきます。

フラップ・スラットが果たす役目はどの機種も共通ですが、フラップポジションの段階や呼称はメーカーや機種によって実は異なるのです。

まず大きな違いとして、ボーイング機種はフラップの角度に紐づいた呼称を使うのに対し、エアバス機種は単に数字順の呼称を使う点が挙げられます。

例えば、B787ではFlap 5やFlap 25といったフラップポジションがありますが、これはFlap 5度やFlap 25度のように、展開した時に翼の反りの角度が変化することを表現しています。(実際に何かを基準に正確に5度や25度になっているわけではないようです。)

一方、A320などのエアバス機では、フラップが深くなる順にFlap 1、Flap 2と1ずつ数字が上がっていき、最大角のフラップはFlap Fullなどと表現されます。(ERJなども同様の呼称)

これは豆知識ですが、エアバスではFlap 1などの他にCONF 1(Configuration 1)などと言う呼称も使われています。

さらに、同じボーイング機種であっても、B737はFlap 30とFlap 40がLanding Flapであるのに対し、B767/B777/B787ではFlap 25とFlap 30がLanding Flapになるなど、同一メーカーでも違いがあるのです。

この違いについて、まとめたものが以下の表になります。

Flap Positionの機種比較まとめ

B787では、-8はB767やB777と同じ仕様になっていますが、B787-9/-10ではTakeoff FlapとしてFlap 10、Flap 17、Flap 18が追加されています。

B787-9/-10では、滑走路長や気象条件に合わせてより細かく離陸時のフラップを調整できるようになっているのです。

一方エアバス機では、Flap 3が離陸でも着陸でも使用できるフラップポジションになっています。

エアバスの標準の着陸フラップはFlap Fullを使用するので、Flap 3での着陸はほとんどないようですが、興味深いですね。

着陸時の4回の操作でどのように動く?

先ほど、着陸時のFlap Extension Scheduleでは、フラップレバーを4回操作すると述べました。

これも機種によって、順番にどのフラップポジションを選択するのかが異なります。

さらに、フラップポジションごとにフラップとスラットのどちらが動くのかも微妙に異なりますが、まとめたものが以下の表です。

表中のSはフラップをセットした時にスラット(前縁)が動くことを、Fはフラップ(後縁)が動くことを表しています。

Flap Extension Scheduleの比較
B737 B767
B777
B787 エアバス
1回目 Flap 1(S・F) Flap 1(S) Flap 1(S) Flap 1(S)
2回目 Flap 5(F) Flap 5(F) Flap 5(F) Flap 2(S・F)
3回目※ Flap 15(F) Flap 20(F) Flap 20(F) Flap 3(F)
4回目 Flap 30 or 40
(S・F)
Flap 25 or 30
(S・F)
Flap 25(S)or
Flap 30(S・F)
Flap Full
(S・F)

※3回目はギアダウンとほぼ同時

見てのとおり、1回目のフラップレバー操作ではスラットのみ動く機種が多いですが、B737ではフラップも動くため、トータルでフラップが動く回数が他の機種よりも多いことが分かります(B737:4回、他:3回)。

またB787では、着陸にFlap 25を基本的に使用しますが、この場合はフラップが動く回数は2回しかありません。

さらにエアバス機では、ボーイング機よりもスラットが動く回数が1回多く、3回となっています。

これは離陸時の話になりますが、エアバス機ではTakeoff FlapでFlap 1を使用した場合はFlap 1+Fというモードになり、スラットだけでなくフラップも浅く展開されます。

窓側に搭乗していると、フラップやスラットの動きがよく見えますが、動く回数やそのタイミングについてもぜひ注目してみてください。

終わりに

いかがでしたか?

少々複雑な内容もあったかもしれませんが、フラップ・スラットの操作・動きは非常に奥が深いのです。

一方でフラップやスラットは、搭乗中の客室から一番よく見える飛行機システムです。

フラップやスラットの動きから、飛行機が飛行のどの段階にいてパイロットがどのような操作をしているのか想像できると、きっと見ているだけでも楽しくなってくるはずです。

飛行機に搭乗する際はぜひ、フラップ・スラットの動きに注目してみてはいかがでしょうか。

 

以上!

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