こんにちは。ころすけです。
突然ですが、飛行機の巡航高度がどのくらいかご存知でしょうか?
飛行機に搭乗していると、機長からのアナウンスで「当機は現在、高度3万8千フィート、メートルに換算して約1万2千メートルを飛行中で…」などと教えてもらえる場合があります。
ざっくりと言うと、ジェット旅客機の巡航高度は1万メートル近辺となるのですが、もう少し細かくどのように巡航高度を決めているのか、知りたくはないでしょうか。
この記事では、飛行機の巡航高度は何によって決まるのか、航空会社はどのように巡航高度を決めているのか、について詳しく解説したいと思います。
飛行機の巡航高度の基本。燃費の良い高度が優先
最適な高度はOptimum Altitudeと呼ばれる
まず大前提として、巡航高度の選定において旅客機の運航で最も重要視されるのは、ズバリ燃費です。
航空会社にとって費用の半分ほどは燃料費と言われるように、飛行機の運航では燃料をいかに節約できるかが重要です。
飛行機の燃費は飛行する高度によって大きく変わるので、まずはこれを最適化する高度を第一に考えるのです。
飛行機の燃費は、Fuel Mileage(フューエルマイレージ)やSpecific Range(スペシフィックレンジ)という言葉で表現されます。
これは単位燃料(lb:ポンド)あたりで飛行可能な距離(NM:ノーティカルマイル)を表したもので、まさに自動車などで使用される燃費の概念と同じです。
そしてFuel MileageやSpecific Rangeが最大になる(最も燃費が良い)高度は、Optimum Altitude(オプティマムアルティチュード)と呼ばれます。
エアラインにはボーイングやエアバスなどの機体メーカーから、これらの性能を算出するデータやプログラムが提供されていて、各社はこのデータを元に巡航高度を決定するのです。
Optimum Altitude = 燃費(Fuel Mileage/Specific Range)が最良の高度
標準的な巡航高度は36,000~41,000ft
巡航高度の基本=Optimum Altitudeですが、これはどのようにして決まるのでしょうか。
飛行機の翼に発生する揚力は、前方からぶつかってくる空気の圧力に関係していて、これが一定の範囲内になるよう飛行する必要があります。
空気密度が低い低高度ですと、前方からの空気の圧力がすぐに大きくなってしまう一方、高高度では空気密度が低いので、飛行速度を上げることができます。
なので、一般的に飛行機は空気密度のない高高度を飛行した方が燃費が良いとされています。
ですが、あまりに高度を上げ過ぎてしまうと、今度は推力を発生させるエンジンの性能に影響が出てしまいます。
飛行機のジェットエンジンは、吸引した空気を圧縮・燃焼・排出することで推力を得ていますが、空気密度が小さいとその効率が悪くなってしまう(燃費が低下する)のです。
このように高度を上げるメリット・デメリットを総合的に考慮すると、最も燃費のよい高度が自然と決まるというわけです。
機種にもよりますが、Optimum Altitudeは大体36,000ft~41,000ft(12,000m~13,500m)ぐらいになるので、この高度を巡航高度とするのです。
さらにOptimum Altitudeは、その時の飛行機の機体重量によっても変わります。
一般に機体重量が重いほどOptimum Altitudeは低く、重量が軽いほどOptimum Altitudeは高くなります。
後半で紹介しますが、この性質は長距離の国際線の巡航高度に影響してくるので、押さえておきたいポイントの1つです。
短い路線では30,000ft以下の場合もある
巡航高度の基本はOptimum Altitudeと言いましたが、飛行区間が短い場合は例外が発生します。
Optimum Altitudeは巡航区間だけを見た場合に最適な高度ですが、その高度に達するまでには上昇が必要ですし、目的地に近づいたら地上付近まで降下が必要です。
自動車が坂道を上るのと同じように、上昇するためにはそもそも大きな推力が必要で、燃料も多く使用します。
また、飛行区間が短いのに高い高度を選択すると、上昇後に巡航区間がほとんど取れずに降下しなければならなくなりますが、これは客室でのサービスにも影響を与えます。
高度が変化する上昇・降下区間は気流の状況が変化しやすいですし、機体の姿勢も水平より傾き気味になるので、ゆとりをもってドリンクサービスなどができなくなる懸念があります。
このように、いくら高高度の燃費が良くても、そこまで上昇するデメリットがあることを考慮して、区間の短い路線では巡航高度を低く設定するのが一般的です。
目安として飛行時間が1時間を割るようなフライトですと、巡航高度を抑えて30,000ft近辺とすることが多いように思います。
予め行き先ごとに最適な標準高度を決めている
厳密に言えば、Optimum Altitudeは気温や上空の気流の状態、その日の飛行重量によって変わります。
ですが、航空会社の何十、何百のフライトそれぞれについて、毎日巡航高度をゼロから決めるのは合理的ではありませんし、ある程度平均的な飛行環境というものも想定できます。
なので、基本的に定期便の運航では、路線ごとに標準的な巡航高度を予め定めているのが一般的です。
この標準的な巡航高度をベースに、その日の飛行環境に合わせて細かな調整をしていくイメージです。
では、巡航高度を判断する要素には他にどのようなものがあるのでしょうか?
巡航高度を変更する要因
強い揺れ(タービュランス)が予想される場合
標準巡航高度からその日の巡航高度を変更する大きな要因の1つは、上空の揺れ(タービュランス)です。
飛行機の構造はある程度のタービュランスまでは耐えられるようにできていますが、そうは言っても限界がありますし、何よりも客室の快適性に影響があります。
揺れがある場合はドリンクサービスなどを制限する必要がありますし、揺れが原因で乗客が負傷する事例も度々見られますから、タービュランスをいかに避けるかは非常に優先度の高い関心事なのです。
タービュランスを予想する方法は様々ですが、飛行計画の段階では天気図などの気象情報を活用します。
下の画像は気象庁が発表している毎時大気解析という気象情報ですが、上空をある経路(ここでは羽田、中部、岡山、福岡を結んだ線)で切った時の断面の気象状態を表しています。
黄土色で示された部分は鉛直ウインドシア(風向・風速の変化が激しいエリア)がある部分を表していて、大抵の場合、飛行中の揺れに繋がります。
このような箇所がある高度に全体的に広がっている場合、その高度は避けるといった使い方ができるのです。
上空のタービュランスが懸念される場合、普段は40,000ft近辺を巡航する便であっても、揺れを避けるために30,000ft未満を選択するというケースも珍しくありません。
上空の風が強い場合
上空の風の強さも高度選定の判断要素になる場合があります。
特に冬場になると、上空のジェット気流が日本列島に覆いかぶさるので、西から東に強い時で200ktもの風が吹くことがあります。
飛行機の移動速度は巡航では450kt程度ですので、ジェット気流に向かって飛行する場合(450-200=250kt)と追い風の場合(450+200=650kt)では、移動速度に大きく影響することが分かります。
向かい風に向かって飛行する場合、見かけ上の飛行距離が長くなってしまうので、時間も掛かりますし、必要な燃料も多くなります。
下図は悪天予想図と呼ばれる天気図ですが、上空のジェット気流の位置と風速などを大まかに知ることができます。
このような上空の気流の強さも、高度を変えることで影響が緩和される場合がありますから、その場合は風も考慮して最適な巡航高度を判断するというわけです。
巡航高度は出発直前に変更することもある
旅客機の運航では飛行計画(フライトプラン)を管制機関に通報する必要がありますが、飛行計画には巡航高度の計画も含まれます。
旅客機の飛行計画は、まず第一段階としてパイロットが出社(Show Up)し、運航管理者とのディスパッチブリーフィングを行った段階で管制機関に通報されます。
国内線の場合、パイロットは一日に複数の便を担当するのですが、まずはこの段階で全ての便の飛行計画を承認します。(例えば、その日の乗務が羽田-福岡の1便と福岡-羽田の折り返し便の場合、2便分の飛行計画を承認する)
実際には後半の便(この場合は折り返しの福岡-羽田)の出発時には気流の状態が変わっていることもありますし、同じ区間を飛行した他の便からの情報も使えます。
なので、当初予定の高度で飛行するか高度を変更するのかは、最終的に出発直前に決定するのです。
飛行機は目的地に到着すると、各航空会社の専用無線(カンパニー無線)を使用して現地の運航管理スタッフとコンタクトします。
運航管理スタッフは他の便からの情報や最新の気象情報をパイロットに伝え、パイロットはその情報を元に次の便の巡航高度を最終判断します。
変更がある場合、運航管理スタッフは提出済みフライトプランの修正を管制機関に通報して、計画高度を変更するのです。
巡航高度は同じ方面なら2,000ft刻み
飛行機の巡航高度には法的な要件もあります(航空法82条:巡航高度)。
実は飛行機の巡航高度は、「東に向かうのか、西に向かうのか」で選択できる高度が異なるのです。
エアラインの旅客機の運航方式(計器飛行方式)では、東向き(磁方位0度~179度)に飛行する場合は1,000ftの奇数倍に、西向き(磁方位180度~359度)に飛行する場合は1,000ftの偶数倍の高度から選択することになっています。
なので元々の計画高度に対し、高度が1つ違う場合は±2,000ftの高度差ということになりますし、反対方面にすれ違う飛行機の最低高度差は1,000ftということになります。
長距離国際線では段階的に高度を上げる
前半の解説で、Optimum Altitudeは機体重量の影響を受けると述べました。
この性質を利用して、長距離の国際線では少し変わった巡航飛行が行われています。
長距離国際線は燃料をたくさん積む必要があるため、離陸直後はその機種で許される最大重量近くになることも珍しくありません。
ですが、飛行時間が経過して燃料が消費されると、徐々に機体重量が軽くなっていきます。
Optimum Altitudeは機体重量が軽いほど高くなっていきますから、機体重量が重い前半は巡航高度を低めに、機体が軽くなるにつれて徐々に高度を高くしていくと、全体の燃費を高めることができます。
このような方式はStep (Up) Climb(ステップ (アップ) クライム)方式と呼ばれ、ヨーロッパや北米に向かうような長距離国際線で行われています。
下の画像は、ある日のパリ-羽田便の飛行記録ですが、31,000ftから徐々に高度を上げて、最終的には39,000ftを巡航していることが分かります。
終わりに
いかがでしたか?
飛行機の巡航高度の選定は必要な燃料量に大きく影響しますし、揺れの少ない高度を選択することは乗客の快適性にも繋がります。
そのため、少々複雑ではありますが、理解するほどに非常に興味深いトピックなのです。
最近ではFlight Radar24などのサイトで、一般の方でも実際の飛行高度を観察することができるようになりました。
興味があればぜひ、お目当ての飛行機がどの高度で飛行しているのか、調べてみてはいかがでしょうか?
以上!