こんにちは。ころすけです。
「飛行機は天候に弱い」とよく言われますが、その中でも特に冬になると、雪による遅延・欠航が増えるイメージがあるのではないでしょうか。
今回はそんな雪と飛行機運航の関係のうち、滑走路に積もる雪に焦点を当てて解説をしたいと思います。
冬の滑走路は頻繁に雪で覆われる
日本の旅客機運航で雪の影響が出るのは概ね12月から2月に集中していますが、積雪自体は北海道や東北などの北日本では11月から4月ごろまで見られます。
飛行機が離着陸する滑走路は基本的にアスファルトの舗装なので、当然ながらまとまった降雪があると全面または一部が雪に覆われます。
車で雪道を走る時に事故の危険が高まるのと同様に、飛行機の運航でも、雪の積もった滑走路への離着陸はややもすると大きな事故に繋がってしまいます。
なので飛行機の運航では、滑走路に雪が積もるとその情報が運航者(エアラインなど)に伝わる仕組みになっており、運航者はその情報を元に自社の運航への影響を判断するのです。
雪の種類は1つじゃない?雪は5種類に分類される
では具体的にどのような情報が周知されるのでしょうか。
実は航空の世界では、雪の種類を大きく5種類に分けて考えます。
一口に積雪と言っても、雪の状態は日によって異なりますし、地域によっても傾向が異なるからです。
なのでまずは5種類の積雪を抑える必要があるのですが、以下のとおりです。
雪氷等の種類 | 状態 | 水分量 |
DRY SNOW | 雪玉を作ろうとすると崩れてしまう雪 | 小 |
WET SNOW | 硬い雪玉を作ることができるが、水は絞り出せない程度の水分量の雪 | 中 |
SLUSH | 水分量が多く、手でつかむと水が滴り落ちる、または踏みつけると飛沫が飛ぶ雪 | 大 |
COMPACTED SNOW | 圧接された雪で、強く踏みつけても表面が圧縮しない、または車両で走行しても轍が生じない雪 | - |
ICE | 凍った水、または冷たく乾いた状態で氷に変化した圧接 | - |
5つの中でも上の3つは、踏むと轍や足跡ができるタイプの雪質で、水分の含有度合い(しゃびしゃび具合)で分かれています。
DRY SNOW(ドライスノー)はいわゆるパウダースノーで水分が少なく、青森など北日本の豪雪地帯ではDRY SNOWが積もることが多いようです。
SLUSH(スラッシュ)は水分が多めのしゃりしゃりの雪で、西日本の日本海側で温かい海上から水分を含んだ雪が降る場合になりやすく、米子や鳥取空港などで比較的多いイメージです。
さらにWET SNOW(ウェットスノー)は、DRY SNOWとSLUSHの中間程度の水分量といった具合です。
一方で下の2つは、踏んでも形が変わらない塊がこびりついたような雪質に分類されます。
COMPACTED SNOW(コンパクテッドスノー)は除雪機材を使用しても残ってしまった雪が、機材に押し固められてできたりします。
ICE(アイス)は文字通り氷が張っている状態で、一度溶けた雪などが夜間に凍り付く時によく見られ、気温が低い稚内空港や盆地で冷え込みやすい山形空港などの朝方に多いイメージです。
このように雪の性質(厳密にはICEも含むので雪氷等と表現します)によって名称を区別するのです。
滑走路は積雪状態によって滑りやすさが変化する
ではなぜこのように区別する必要があるのか?と言うと、この区別によって滑りやすさの度合いを想定することができるからです。
後述しますが、飛行機の運航で滑走路の雪氷が影響する理由は、雪氷によって路面が滑りやすくなり、ブレーキの効きが悪くなったり方向維持が難しくなるからです。
実際の運用では、先の雪質の違いに着目して下表のように滑りやすさを評価します。
滑走路状態 | RWYCC | 滑りやすさ |
DRY(雪氷がなく乾いた状態) | 6 |
滑りにくい ↓
|
WET(雪氷ではないが濡れた状態) 3mm以下の深さのDRY SNOW、WET SNOW、SLUSH |
5 | |
COMPACTED SNOW(気温が-15℃以下の時) | 4 | |
3mmを超える深さのDRY SNOW、WET SNOW DRY SNOW ON TOP OF COMPACTED SNOW WET SNOW ON TOP OF COMPACTED SNOW COMPACTED SNOW(気温が-15℃より高い時) |
3 | |
3mmを超える深さのSLUSH | 2 | |
ICE | 1 | |
WET ICE(濡れたICE) WATER ON TOP OF COMPACTED SNOW DRY SNOW ON TOP OF ICE WET SNOW ON TOP OF ICE |
0 | 極めて 滑りやすい |
上の表で、RWYCCとはRunway Condition Codeという指標の略で、数値が小さいほど滑りやすいことを表しています。
使い方ですが、例えば同じDRY SNOWであっても、3mm以下であれば比較的に滑りにくいのですが、3mmを超えると中程度の滑りやすさと判定されます。
さらに濡れたICEや、ICEの上にDRY SNOWが積もった状態(DRY SNOW ON TOP OF ICE)では極めて滑りやすいと判定されます。
特にRWYCC 0に分類される状態では、機種や運航会社のポリシーによりますが、基本的に離着陸は禁止されてしまいます。
滑走路の積雪情報はSNOWTAMで周知される
このような滑走路の積雪に関する情報は、SNOWTAM(スノータム)と呼ばれる文書で各空港から公開されます。
SNOWTAMはNOTAM(Notice to Airmen)の一種で、NOTAMとは例えば滑走路や誘導路の一時的な閉鎖、運航に関する注意事項など、突発的な情報を運航者に周知する媒体です。
下図は実際の通報の例ですが、RJCH(函館空港)、RJSA(青森空港)ではDRY SNOWが、RJSK(秋田空港)ではWET SNOWが積もっていることを示しています。
3つ雪質の名称が並んでいるのは、1つの滑走路を3分割してそれぞれ情報を表示しているからです。
その他、5/5/5はRWYCCが3区分とも5であることを、50/50/50は全体の50%に積雪があることを、さらに03/03/03は積雪深が3mm以下であることを表しているという具合です。
滑走路の積雪は欠航に繋がる?飛行機の運航への影響
さて、このようにSNOWTAMで周知される滑走路の積雪情報ですが、飛行機の運航にはどのように影響するのでしょうか?
より端的に言えば、積雪の状態が悪いと離着陸不可=欠航となるのですが、どのような理屈で欠航せざるを得ないのかを解説します。
①横風に対する離着陸制限が大きくなる
1つ目は、離着陸時に許容される横風の制限が大きくなる点です。
飛行機の操縦マニュアルには限界事項(Limitation)という項目があって、その制限を超えて運用をしてはならないという決まりがあります。
Limitationには例えば、最大離陸重量は何ポンド以下でなければならないとか、最大飛行高度は何フィート以下でなければならないなど様々なものがあるのですが、その中に離着陸時の横風制限があるのです。
具体的には、例えば、乾いた滑走路(DRY Runway)では35kt程度まで許容されるのですが、雪氷滑走路では20~10kt(約10~5m/s)程度に制限されてしまうのです。
※具体的な制限値は機種や各社の運航ポリシーによって異なるが、滑りやすい路面ほど制限が大きい。
離着陸の際、飛行機は滑走路の中心を維持して滑走する必要があります。
横風が吹いていると機体は滑走路を横方向に流されますから、中心を維持するように舵を切らなければなりません。
自動車で雪道を曲がる場面をイメージすると分かりやすいですが、滑りやすい路面で大きな操作や急激な操作を行うと、スリップして危険であるのと同じ理屈です。
風は常に真正面から吹くとは限らないですし、冬場は風が強まることも多いので、度々欠航の要因となるのです。
②離着陸の滑走距離が伸びる
2つ目は、離着陸に必要な滑走路長が長くなる点です。
飛行機は離陸の際、滑走中の特定の地点でエンジンが不作動になって離陸中断しても滑走路内で停止できるように、予め必要な滑走路長を計算する必要があります。
また着陸の際も、接地後にブレーキをかけて停止(減速)する必要がありますが、当然滑走路内で収まる必要があります。
直感的にも分かりやすいですが、滑りやすい路面ではブレーキの効きが悪くなるため、必要な滑走路長は当然長くなります。
その結果、乾いた滑走路であれば滑走路内に収まる計算だったけれど、雪氷滑走路では滑走路をはみ出す計算になってしまった、という事態が発生しうるのです。
このようなケースは、特に滑走路の長さが2000m程度のジェット旅客機が就航する空港で起こりやすいと言えます。
日本では北国に滑走路が短い空港も多く、これもまた欠航の要因となりうるのです。
滑走路が2000m程度である北国の空港例 | |
稚内空港(北海道) | 2200m |
紋別空港(北海道) | 2000m |
中標津空港(北海道) | 2000m |
大館能代空港(秋田) | 2000m |
庄内空港(山形) | 2000m |
山形空港 | 2000m |
富山空港 | 2000m |
能登空港(石川) | 2000m |
③RWYCCが0の場合は基本的に離着陸禁止
3つ目は、そもそも特定の滑走路状態自体をLimitationにて運航禁止としている場合です。
先ほども述べたとおり、雪氷滑走路のLimitationについては各社のポリシーによるところです。
しかし、WET ICEやDRY SNOW ON TOP OF ICEなど、RWYCCが0になる滑走路状態については、どの機体メーカーも離着陸を推奨していません。
従って、これらの滑走路状態が報じられた場合は、その時点で運航不可となるのです。
冬の空港では滑走路の除雪作業が重要!
以上のように、滑走路に積雪があると運航に多大な影響が出るわけですが、そうならないように空港では状況に応じて除雪作業が行われています。
除雪作業を行って滑走路面がきれいになれば、SNOWTAMも改訂されて離着陸が実施できるようになるわけです。
各空港には除雪設備が備えられています
下の画像は、新千歳空港で除雪車両が作業を行っている様子です。
除雪車両には雪を滑走路脇にかき分ける車、かき分けた雪を滑走路外に掃き出す車などがあって、隊列を組んで作業にあたるのです。
滑走路1本の除雪作業には、概ね30分から1時間弱の時間が掛かるそうです。
地方空港など離着陸便が日に数便の空港では、運航便の到着時刻に合わせて除雪作業を行うなど、空港管理者側でも配慮がなされています。
一方、新千歳空港など絶え間なく離着陸便がある空港では、基本的に離着陸便を待たせて除雪作業を行わなければなりません。
除雪作業の間、着陸便は上空待機(ホールディング)するのですが、除雪作業開始のタイミングによっては燃料が足りずに目的地を変更する場合もありますし、逆にちょうど良く着陸できる場合もあります。
到着時刻が1時間ほどしか違わないのに、到着できた便とそうでない便の明暗が分かれるのには、こうした事情があったりするのです。
青森空港の除雪部隊「ホワイトインパルス」
最後に、関係者の間では有名な青森空港のホワイトインパルスを紹介しましょう。
青森空港は日本でも有数の(世界でも有数らしい)豪雪空港ですが、そこで活躍するホワイトインパルスは非常に手際のよい滑走路除雪のプロフェッショナル集団として知られています。
正に飛行機の運航を支える縁の下の力持ちというわけですが、青森県のホームページでも紹介されているようです。
興味がある方は、ぜひその活躍ぶりを覗いてみてはいかがでしょうか?
終わりに
いかがでしたか?
雪による欠航は利用する側としても関心事になりますから、その背景を知っておいて損はないと思います。
搭乗する便が運良く(?)雪氷滑走路や除雪作業の影響を受けた際はぜひ、今回の豆知識を参考にしていただければと思います。
以上!
飛行機に積もった雪の除雪作業や、雪の日の欠航理由について以下の記事で紹介しています。↓