こんにちは。ころすけです。
飛行機の緊急降下!というと、とんでもなく危険な状態で、飛行機の操縦が不可能な状態を思い浮かべる人も多いでしょう。
実際には飛行機の操縦が不可能になるというケースは本当にごくごくわずかな場合だけで、通常、緊急降下というのはパイロットによって意図的に行われるものなのです。
では、一体なぜ機体を緊急降下させる場合があるのでしょう?
考えてみると、意外に明確な理由を知らなかったりするのではないでしょうか?
今回は飛行機の緊急降下(Emergency Descent)について解説したいと思います。
緊急降下(Emergency Descent)はマニュアルに定められた意図的な操作です
冒頭でも触れた通り、緊急降下はパイロットによって意図的に行われることが普通です。
緊急降下のことをEmergency Descent(エマージェンシーディセント)と言うのですが、実はEmergency Descentはパイロットのマニュアルに手順が予め決められているのです。
つまり、予期せぬ何らかの事情で降下が必要になったことは「緊急事態」に該当するのですが、緊急降下の操作自体はパイロットにとって訓練で学んだ操作どおりなのです。
では、マニュアルに定められたEmergency Descentとは一体どのような手順なのでしょうか?
機種によって若干異なるかと思いますが、一般的にEmergency Descentの手順(Procedure:プロシージャ―)は大体以下のようになっています。
Emergency Descent Procedure
・Set Altitude 10,000ft or Lowest Altitude of the Area(降下高度の設定を10,000ftかそのエリアで降下可能な最低高度にセットする)
・Thrust Lever Idle(エンジンのスラストレバーをアイドルにする)
・Speed Brake Full Open(スポイラーを全開にする)
・Set Maximum Speed(飛行速度を最大値にセットする)
・Transponder 7700(トランスポンダーのコードを7700にセットする)
Emergency Descentは最低10,000ft(約3000m)の高度まで緊急降下するProcedureです。
もしも山などがあって10,000ftまで降下ができない場合は、そのエリアで許されている最低高度まで降下します。
Thrust Lever Idle、Speed Brake Full Open、Max Speedはいずれも降下率を最大にするための操作です。
推力が小さければ高度を維持できなくなりますし、抵抗が大きいと揚力で機体を支えられなくなるので、これもまた高度が減少する方向に作用します。
加えて機首を下げて速度を上げれば、当然降下する角度は急になるというわけです。
この時の速度はVMOやMMOと呼ばれる、機体の構造上許されている最大の速度を選択します。
トランスポンダーは管制機関に自身の識別信号を自動送信する装置ですが、この識別コードを7700とすることで、自分がEmergencyの事態にあることを知らせるのです。
どのような場合にEmergency Descentをするのか?
Emergency DenscentのProcedureが分かったところで、では一体どのような場合に飛行機はEmergency Descentを行わないといけないのでしょうか?
一番の理由は急減圧に対処するため!
Emergency Descentを実行しなければならない最も典型的な事態は、何らかの理由で客室の与圧が抜けてしまうような場合です。
与圧が抜けることは英語でDecompressionですが、「デコンプ」という言葉が良く使われます。
デコンプする理由は様々ですが、ぱっと挙げるだけでも以下のような原因が考えられます。
・機体のどこかに穴が開いた。
・エンジンからの圧縮空気や空調のラインが遮断されて、機内に圧縮された空気が入ってこなくなった。
・機内の与圧をコントロールするコンピューターが不具合を起こし、与圧を制御するバルブが正常に働かなくなった。
代表的なものを挙げると上の3つぐらいでしょうか。
いずれにしても機内の与圧が抜けて気圧が下がってしまうと、酸素が薄くなって人間はわずかな時間で意識を失ってしまいます。
コックピットには客室の与圧が高度何フィートの気圧に相当するかを示す計器があるのですが、この値が閾値を超えると警報が鳴るのです。
このような場合、もたもたしていると最悪の場合パイロットが意識を失ってしまいますから、すぐにコックピットのパイロット用の酸素マスクを装着し、まずはとにかく与圧が不要な高度まで降下するのです。
この与圧がなくとも呼吸ができる高度が10,000ftというわけです。
煙が充満した時など、意図的に与圧を抜く場合もあり
Emergency Descentが必要になるケースには、機内で煙が発生して充満してしまった場合もあります。
煙の発生源がはっきりしていれば、煙が充満する前に消火したり、ゆっくりと煙を機外へ放出すればよいのですが、発生源が分からない場合などはやや深刻です。
煙が発生する原因には機体の電気系統がショートする場合などが考えられますが、コックピット内で急速に煙が充満してしまうと、パイロットの操縦を大きく妨げることになってしまいます。
このような場合、充満した煙を短時間で機外へ放出するために圧縮空気からの空調を全て止め、与圧をコントロールするバルブを開いて機内の空気を強制的に排出するのです。
機種にもよりますが、場合によってはコックピットの窓を開けて充満する煙を外に排出することも試みます。
お判りのように、これは先ほどのデコンプの状態に繋がる操作なわけですから、当然与圧が必要のない高度まで緊急降下を同時にしないといけないというわけです。
煙の充満発生 → 空調を止めて空気を機外へ放出 → 与圧の低下 → Emergency Descent
終わりに
いかがでしたか?
飛行機が緊急事態に陥った際、もしもその原因が不明である場合は、もしかすると非常に危険な状態なのかもしれません。
ですが緊急降下=Emergency Descent自体は、さらなる危険な事態に陥るのを防止するよう意図的に行っているものですから、必要以上に恐れることではないのです。
搭乗中は何事もないのが一番なのはもちろんですが、もしかすると自分が搭乗している便がEmergency Descentを行わざるをえない場面に遭遇することがあるかもしれません。
非常時に重要なことはパニックにならず冷静を保つことですから、今回の記事に興味を持っていただいたり、非常時の参考としていただけたりすると嬉しいですね。
以上!
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