こんにちは。ころすけです。
冬になると、雪のために飛行機が欠航になることが度々あります。
出発地が大雪の場合、会社による程度こそあれほとんどの便が影響を受けますから、空港がキャンセル便の搭乗客でごった返すなんて場面も見られます。
そもそもの疑問として、なぜ飛行機は雪で欠航してしまうのでしょうか?
雪の日の運航が危険そうだとイメージは湧いても、明確な基準については知られていないように思います。
本記事では、雪の日の就航・欠航を判断するのに、具体的にどのような基準があるのか解説したいと思います。
雪の日に欠航する理由は1つじゃない
一口に雪による欠航と言っても、その理由は1つではありません。
ただし共通して言えることは、運航可否の判断基準にはマニュアルに定められた閾値があって、航空会社はそれを第一の根拠に欠航の判断をしているということです。
飛行機の運航では、航空法が定めるマニュアル(規程)を作成して順守する必要があります。
具体的には、航空会社の全体的な運航方針を定めたOM(Operations Manual)と、機種ごとに作成される操縦方法や機体性能を定めたAOM(Airplane Operations Manual)が二大マニュアルと言えます。
なので、マニュアル上の制約に具体的にどのようなものがあるのかを知ることが、飛行機が欠航する理由の理解に繋がるのです。
横風に対する離着陸制限が厳しくなるから
1つ目は離着陸時に吹く風の制限、とりわけ滑走路を真横から吹く風に対する制限が挙げられます。
先ほど紹介したAOMには限界事項(Limitation)と呼ばれる章があって、ここには飛行機の運航で超えてはならない種々の閾値=Limitationが定められています。
その中に離着陸時の横風成分に関する制限があるのです。
横風”成分”なので、斜めから吹く場合には飛行機の進行方向に平行な成分と垂直な成分に分解して、垂直方向の風の強さを対象にします。
この制限は、滑走路に雪が積もると許される値が厳しく(小さく)なるのです。
例えば、滑走路に雪などがなく乾いた状態(DRY Runway)では、大体どの機種も35kt(約18m/s)ぐらいの横風まで離着陸が許されます。
ですが、滑走路に雪が積もった状態(Slippery Runway)では、20~10kt(約10~5m/s)ほどに制限される場合があるのです。
横風に煽られると、離着陸の滑走中に進行方向を真っすぐに直す必要がありますが、滑りやすい滑走路では修正操作が難しくなるからです。
厳密にこれらの値は、機種や運航する会社のポリシーによって若干異なりますが、滑走路の滑りやすさの度合いに応じて制限を厳しくする点は共通しています。
下の画像はSNOWTAMと呼ばれる、各空港の滑走路の積雪状態を公に周知する電文文書です。
SNOWTAM中のDRY SNOWやWET SNOWは滑走路に積もった積雪の状況を表していて、雪質が違うことを示しています。
機体メーカーや航空会社は、このような滑走路の雪質の違いによって滑りやすさの度合いを判定する指標を作成していて、これによって横風制限値がいくつになるのかを判断しているのです。
DRY SNOWやWET SNOWの他にどのような雪質があるのかや、SNOWTAMの詳細については以下の記事で紹介しています。↓
離着陸に必要な滑走路長が長くなるから
先ほどは風に対するLimitationでしたが、次は滑走路の長さに対するLimitationです。
飛行機の運航では、離陸と着陸について以下の条件で必要な滑走路の長さを算出して評価しなければならないと決められています。
<離陸>
離陸滑走中の特定の地点でエンジンが1基不作動になった際、離陸を中断して完全に停止するまでに必要な距離。
<着陸>
滑走路の末端を50ftで通過したと想定して接地した後、ブレーキをかけて機体が停止するまでに必要な距離。
このような必要滑走路長は、機種ごとのブレーキ性能や離着陸速度の影響を受けますが、同じ機種であっても滑走路の積雪状態の影響も受けます。
感覚的にも分かるとおり、雪が積もって滑りやすい滑走路ではブレーキの効きも悪く、最悪の場合は滑走路をオーバーランしてしまうこともあり得ます。
そうならないよう、飛行機の運航では事前にSNOWTAMなどの積雪情報から滑りやすさを想定し、滑走路の長さが十分であるかどうかを確認することが義務付けられているのです。
実際には3000mほどの滑走路の長さがあれば、よほどでない限りこの制限に掛かることはなさそうですが、2000m程度の滑走路の場合は制限ギリギリか超えてしまうことが懸念されます。
このような空港に就航する機材は、B737やA320などの小型のジェット機が多いですが、雪の日の運用ではそれでも制限を超える場合があるのです。
積雪の多い北海道や東北でも2000mしか滑走路がない空港は意外と多く、このような空港では欠航に至る可能性も高いと言えます。
滑走路が2000m程度である北国の空港例 | |
稚内空港(北海道) | 2200m |
紋別空港(北海道) | 2000m |
中標津空港(北海道) | 2000m |
大館能代空港(秋田) | 2000m |
庄内空港(山形) | 2000m |
山形空港 | 2000m |
富山空港 | 2000m |
能登空港(石川) | 2000m |
雪氷滑走路でのオーバーラン事例は、海外も含めて報告がありますが、国内でも例えば過去に庄内空港でB737がオーバーランする事例がありました。
この時の原因も、滑走路に積もった雪で路面が想定以上に滑りやすくなっていたためとされています。
このような事態にならないよう、雪で滑走路状態が良好でない時には、敢えて欠航の判断をすることもあるのです。
離着陸が禁止される積雪状態があるから
先の2つは、滑走路の積雪状態から風や滑走路長の限界値を出して判断するものでしたが、積雪状態によってはその時点で離着陸が禁止されるものがあります。
運航会社のポリシーによって判断が異なる可能性がありますが、以下の名称で表現される滑走路状態が観測された場合には、基本的に離着陸が推奨されていません。
離着陸が禁止される滑走路状態 |
表面が凍り付いて濡れている(WET ICE) |
押し固められた雪の上に3mmを超える水膜(WATER ON TOP OF COMPACTED SNOW) |
表面の氷の上に乾いた積雪(DRY SNOW ON TOP OF ICE) |
表面の氷の上に湿った積雪(WET SNOW ON TOP OF ICE) |
これらの滑走路状態もSNOWTAMで報じられるのですが、極めて滑りやすい状態と国際的にも定義されているため、離着陸を禁止すべきと考えられているのです。
また、SNOWTAMで通報される情報には積雪の深さも含まれますが、この値にも離着陸可能な上限値があります。
こちらも各運航会社や機種によって閾値が異なりますが、DRY SNOWであれば○○mmまで、WET SNOWであれば○○mmまでという具合です。
各空港には除雪設備があって、滑走路の雪は除雪してしまえば運航への影響を取り除くことができますが、除雪が追い付かないほどの降雪があると欠航せざるを得ないのです。
翼に撒く防雪氷液が有効でない降雪現象があるから
雪の多い空港で飛行機の搭乗を待っていると、飛行機に何やら液体を吹きかけているのを見ることがあります。
これはいわゆる融雪剤で、防除雪氷液と呼ばれています。
液には2種類あって、1つは機体に積もった雪を解かすためのDe-Icing Fluid(デアイシングフルード)、もう1つは機体に雪が積もらないようにするAnti-Icing Fluid(アンチアイシングフルード)です。
通常は、De-Icing Fluidで積もった雪を落とした後に、Anti-Icing Fluidで離陸まで雪が積もらないようにコーティングします。
翼に雪が積もってしまうと、離陸時に必要な揚力が得られなくなって、最悪の場合墜落に至る可能性があるからです。
このAnti-Icing Fluidですが、撒いた後に効果が持続する時間には制限(Holdover Time)があって、その時に観測されている降水・降雪現象で時間が決まります。
例えば軽度の雪(Light Snow)であれば2時間だけれど、着氷性の霧雨(Freezing Drizzle)だったら1時間30分という具合です。※例の時間は架空の値です。
この降水・降雪現象はMETARと呼ばれる航空用の気象通報を使うのが基本なのですが、持続時間が定められていない=離陸禁止となるものがあるのです。
例として挙げると、中強度以上の着氷性の雨(Freezing Rain)、雹(Hail)などが離陸禁止となります。
実際にこれが原因で欠航となるケースは非常に稀に思われますが、要因の1つになり得るのです。
会社によって降雪時の特別運用を採用していない場合があるから
続いても非常に稀なケースですが、航空会社によってマニュアルに運航要領を定めているか否かで欠航が発生する場合があります。
先ほど、離陸時に翼に雪が積もらないように防除雪氷液を撒く話をしました。
この運用で特殊なケースがあって、降雪現象が高強度の雪(Heavy Snow)の場合には液の持続時間が決められておらず、特別な手順を踏む必要があります。
その手順とは、「離陸開始の5分以内に、翼に撒いた防除雪氷液が有効であることを目視で確認すること」です。
確認方法は運航会社によって異なりますが、一般的にはパイロットがコックピットから客室に出て、翼付近の窓から翼上の状態を確認するのです。
下の画像のように、飛行機の翼の付け根を見ると黒のストライプや黄色のマーキングが施されていることがあります。
国内の会社では、目視で確認した時にこのマーキングがはっきり見えるか否かで、防除雪氷液の効果が有効であると判断しているのです。
この運航要領はオプショナルなものであるため、北日本の空港に就航が多い会社ではまず手順が設定されています。
ですが、例えば東京以南の路線のみ運航するような会社の場合は、雪の頻度がそもそも低いために手順を設定していない場合があるのです。
実際に数年前、とある空港で記録的な雪が降った際に、手順を設定していなかったために離陸ができなかった(大幅遅延)という事例もあったそうです。
着陸時に滑走路を視認するのが困難になるから
雪が降ると大抵の場合視界が悪くなりますが、これもまた飛行機が欠航する原因になります。
飛行機の運航の基本ルールとして、一部の例外を除いて着陸時には、最終的にパイロットの目で滑走路が見えていなければ着陸を試みてはならないことになっています。
具体的には、滑走路に向かって降下して良い限界の高度(進入限界高度)が決められていて、そこまでに滑走路を視認できない場合はゴーアラウンドするのです。
※この場合のゴーアラウンドはミストアプローチと呼ばれます。
例えば計器着陸方式の1つであるILSのCategory1と呼ばれる方式では、滑走路から200ft(約60m)の高さまでに滑走路と分かる物標が見える必要があります。
いずれにしても、雪は雨の時と比較して雲が垂れ込めたり視界が悪くなりやすいですから、事前に予想されている場合には欠航とすることがあるのです。
運航の遅れを見越して事前に欠航を計画するから
最後はこれまでと少々視点を変えて、運航会社が戦略的に欠航させるケースを考えます。
飛行機1機の運航は、普通単発の区間だけを考えるだけでなく、数珠つなぎのパターンで計画されています。
例えば、架空のパターンですが以下のような具合です。
①羽田-新千歳→②新千歳-羽田→③羽田-函館→④函館-羽田→⑤羽田-福岡→⑥福岡-羽田
基本的に一日中どこかの路線を飛び回るようにパターンが組まれます。
当然、ある空港に着陸してから次に離陸するまでの時間もダイヤに組み込まれていて、短い会社ですと30分程度しかない場合もあります。
雪が降ると滑走路の除雪作業で離着陸を待たされる場合がありますし、機体の除雪作業などでも時間が掛かるため、必然的に時間の遅れが積み重なりがちです。
このような時に遅い時間に高需要の路線がある場合、思い切ってパターン途中の便を欠航する場合があります。
例えば上のパターンで、函館に大雪が予想されているとします。
この時に函館往復便の予約が少なく、最後の福岡往復便が満席近い予約であった場合、事前に敢えて函館便を欠航とするのです。(※欠航理由としては機材繰りのためなどと知らされるかもしれません)
この辺りの戦略は、予約数や乗客の振り替え可否などを考慮して総合的に判断しますから、一概には言えませんし会社ごとに判断も異なります。
けれども、特に雪の日にありがちな欠航理由として知っておいて損はないと思います。
欠航の場合に変更・払い戻しはできるのか?
天候事由の変更・払い戻しは手数料無料で可能
雪で搭乗便がキャンセルとなった場合、チケットの変更・払い戻しが可能かどうかが気になるところです。
結論から言うと、天候事由の場合、どこの会社でも振替便への変更・チケットの払い戻しが可能です。
ただし、会社によっては同一区間の別便のみ振替可能であるなど、各社ごとに対応が異なるので、詳細については各社のホームページや担当窓口にて確認する必要があります。
さらに、変更・払い戻しに伴って飛行機以外での移動や別途宿泊が発生する場合、これらについては自己負担となるのが基本なので注意が必要です。(欠航ではなく、目的地変更に伴い当初目的地までの移動が発生する場合を除く)
搭乗予定日に雪が予想される場合は、代替プランを考えておきましょう
特に搭乗区間が滞在地からの帰路になる場合、変更の場合も払い戻しの場合も、何らか別の移動手段や追加の宿泊先が必要なケースが見込まれます。
飛行機にとって雪による欠航は少なくない頻度で発生するので、いざという時に困らないよう、事前に代替プラン(移動手段や宿泊先)を想定しておくことが重要です。
場合にもよりますが、欠航に腹を立てて航空会社カウンターに詰め寄っても無駄ですし、空港事態ごった返した状況になるのが想定できるので、さっさと変更か払い戻しかを決めて代替プランに移る方が賢い選択と言えます。
最近ではインターネットから移動手段や宿泊先の検索、予約が容易にできるので、これらをうまく使って旅程を計画することをお勧めします。
雪の日の運航に関わる豆知識
雪の日は普段より多く燃料を積む場合が多い
飛行機の運航では、法律によって最低限積まなければならない燃料量が決められています。
例えば、出発地から目的地に向かうちょうどの燃料(Burn Off Fuel)や、代替空港に向かうことを想定した燃料(Alternate Fuel)、目的地上空で待機する場合の所定量の燃料(Holding Fuel)などがあります。
これとは別に、航空会社が独自に判断して追加の燃料を積むことがあるのですが、これをExtra Fuelと言います。
Extra Fuelを積む理由は様々ですが、冬場の運航では所定時間以上の上空待機を想定したり、悪気流を避けるために遠回りすることを見越したりして、一般的に搭載燃料が多くなりがちです。
燃料が多いと途中で燃料切れを起こす懸念は低くなりますが、デメリットもあります。
1つは全体の重量が重くなる点で、離着陸時に重量が重いと必要な滑走路長が長くなります。
軽い機体よりも重い機体の方が同じ力でもブレーキの利きが悪くなるからですが、これは先に紹介したように、雪の滑走路で運航できない事態に繋がる可能性もあります。
2つ目は燃料を積んだ分、お客さんや貨物を搭載する余裕が少なくなる点です。
飛行機には最大の離陸重量や着陸重量の上限があるので、上限に達している時には燃料分のお客さんや貨物を搭載できないことになります。
予約済みのお客さんを突然その日に人数制限するのは現実的ではないですから、事前に予測した上でそもそもの就航機材や路線を選定する必要があるのです。
このように冬場の運航では、就航できるか否かの問題に加えて、どの程度燃料を余分に積むかも大きな関心事になるのです。
滅多に積雪がない空港で雪が降ると?
先に解説したように、滑走路の雪は運航を阻害する大きな要因になるので、基本的に各空港には除雪車両や除雪体制が整えられています。
ですが、これらの作業は人間がやることとあって、頻繁に雪に見舞われる空港とそうでない空港とではどうしても手際に差が出てしまうものです。
新千歳空港や青森空港など、冬場は毎日のように雪が降るような空港では、非常に手際がよく、除雪に掛かる時間も最低限で済ませられます。
ところが、例えば羽田や成田などの空港では、滑走路に雪が積もるほどの降雪は年に1回あるかないかです。
このような空港でたまたま大雪に見舞われたりすると、北国の空港からすると日常的な雪量でも大混乱となることが往々にしてあります。
雪で飛行機が欠航してしまう原因の1つに、空港機能が普段から雪への対応に慣れているか否かも、現実問題として関わってくるのです。
終わりに
いかがでしたか?
冬場は特に年末年始の帰省シーズンがありますので、飛行機に乗る機会がある人が多いかもしれません。
残念ながら知識を付けたところで、雪による欠航を回避することはできませんが、背景を知っていると知らないとでは事態に直面した時の受け止め方も異なると思います。
興味がある方は是非、冬場の飛行機運航の理解を深めてみてはいかがでしょうか?
以上!