飛行機

飛行機の仕組み~Bleed Air(ブリードエア)とは?~

こんにちは。ころすけです。

みなさんはBleed Air(ブリードエア)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

ちょっと聞きなれない言葉かもしれませんね。

しかし、飛行機が圧縮空気を使って何らかのシステムを動かしているということは、知っている方も多いかもしれません。

実はこの圧縮空気のことをBleed Airというのです。

ではこのBleed Air、一体どういう仕組みで発生させているのでしょうか?

そして一体、何のためにBleed Airが必要になるのでしょうか?

この記事では、Bleed Airの仕組みとその用途について解説したいと思います。

Bleed Air(ブリードエア)はエンジンから抽出した圧縮空気

Bleed Airとは抽出した空気という意味です。

つまり、Bleed Airは何かから抽出した空気ということになります。

後ほど詳しく書きますが、一般的な旅客機は翼や胴体に取り付けられたジェットエンジンから推進力を得ています。

このジェットエンジンが作動する行程を簡単に並べると

①空気の吸引→②空気の圧縮→③圧縮空気と燃料の燃焼→④燃焼した空気の排出(推力)

という4つの行程を辿るのですが、②の圧縮行程で得た空気を一部抽出したものがBleed Airです。

圧縮して圧力を持った空気なので、Bleed Airは”圧縮空気”という意味のPneumatic Air(ニューマチックエア)とも呼ばれます。

ではなぜわざわざ圧縮空気を抜く必要があるのか?ということですが、飛行機はエンジン以外にも様々なシステムを作動させる必要があります。

これらの中には、何らかの動力や空気が必要になるものがあるのですが、エンジンの作動行程で発生した圧縮空気を利用すると都合がよいのです。

Bleed Airをどのようなシステムに使用しているかは、記事の後半で解説します。

Bleed Airを抽出する仕組み

Bleed Airを抽出する方法は大きく2つあります。

1つは、先ほど説明したようにジェットエンジンから抽出する方法と、もう1つはAPU(補助動力装置)から抽出する方法です。

あくまでジェットエンジンからのBleed Airを使用するのがシステムの基本なのですが、地上で駐機中の場合はエンジンが停止していますから、その時に必要になるBleed AirはAPUから賄うのです。

左右のジェットエンジンから抽出する場合(基本構造)

下の図はジェットエンジンの構造を簡単に表した図です。

ジェットエンジンの構造

先ほど①吸気、②圧縮、③燃焼、④排出の4行程があると言いましたが、ジェットエンジンの特徴は、前方から後方に空気を流す過程で4つの行程が行われる点にあります。

つまり、上図の2番目のセクションが圧縮機で、Bleed Airはここから燃焼室に入る前の空気を抜き取るのです

さらにエンジンの圧縮機からBleed Airを抽出する過程を、もう少し細かく見てみましょう。

多くの飛行機のジェットエンジンでは、軸流圧縮機と呼ばれるタイプの圧縮機を使用しています。

これは、空気に力を与える回転式の羽(動翼)と空気の流れを整える固定式の羽(静翼)のペアを何段も積み重ねた構造で、後方に空気を送るほど圧縮が進む仕組みになっています。

軸流圧縮機軸流圧縮機(出典:NASA https://www.grc.nasa.gov/www/k-12/airplane/caxial.html)

なので圧縮空気をブリードする際は、圧縮機の後方部分に抽出弁を設けることで、圧縮した空気を抽出することができるのです。

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左右のジェットエンジンから抽出する場合(システムの制御)

ここではさらに一歩踏み込んだ仕組みを見てみましょう。

Bleed Airは作動中のエンジンから抽出するわけですが、1つ問題があります。

それは、エンジンの作動状態が飛行中に変化する点です。

ジェットエンジンは飛行状況によって推力を大きくしたり小さくしたりしますが、そうすると同じ場所から抽出した圧縮空気でも、圧力や温度が大きくなったり小さくなったりします。

Bleed Airをその先のシステムで使用することを考えると、抽出した空気の圧力や温度は一定である方が制御しやすくなります。

そこで、圧縮機から抽出されたBleed Airには、その先で圧力や温度を制御する仕組みがあるのです。

まずは圧縮機から抽出する位置についてです。

下の図のように、実は圧縮機からの抽出弁は真ん中付近と後方の二か所についているのが一般的です。

Bleed Valveの位置

エンジンの回転数が低い時は、後方の圧力が高い側の弁を開いて空気を抽出します。

ですが、エンジンの回転数が十分に高くなると、中央あたりの圧縮空気でも十分なので、今度は中央の弁から空気を抽出するようになります。

中央の弁は圧力が高まってくると自動的に開く逆流防止弁(チェックバルブ)になっています。

一方で後方側の弁は電気的な制御によって開閉がコントロールされていて、高回転の時は閉じるように制御されます

このようにして抽出された圧縮空気ですが、まだ圧力に幅が出るので、後流の弁でさらに圧力が調整されます。

この弁は一般的にPressure Regulating Shut Off Valve(PRSOV)などと呼ばれます。

PRSOVは電気制御でバルブの開度を細かく調整して、流れるBleed Airの量を調節することで圧力をコントロールするのです。

大体どの飛行機でも、PRSOVから出たBleed Airは50psi弱(4気圧ほど)の圧力に制御されるようになっています。

さらにBleed Airは温度も制御する必要があります。

抽出した空気は基本的に温度が高すぎるため、システムに送る前にPrecooler(プリクーラー)という熱交換器で冷却します。

この冷却空気はファンエア(エンジンの作動行程には入らずに推進力として後方に押し出した空気)が使われます。

こちらもPRSOVのように、ファンエアの流れる量をバルブで調節することで冷却の度合いをコントロールしています。

冷却されたBleed Airは、出口の段階で大体200℃ぐらいに制御されるのが一般的なようです。

PRSOVとPrecooler

APUから抽出する場合

2つ目はAPU(Auxiliary Power Unit:補助動力装置)から抽出する方法です。

APUは小型のジェットエンジンの一種ですが、推力を生み出すためではなく、圧縮空気や電力を生み出す目的で作動します。

下の図は典型的なAPUの作動をイメージした図です。

APUの作動イメージ

吸気口から吸い込まれた空気は、ジェットエンジンと同じように圧縮、燃焼を経て排出されますが、排出した空気の力は全てタービンを回転させるのに使用されます。

このタービンは、吸気口を挟んで反対側(左側)のもう1つの圧縮機に繋がっていて、APUが作動するとこの圧縮機も作動します。

この左側の圧縮機が作り出す空気が、APUからのBleed Airとなるのです。

ちなみに、APUで使われている圧縮機は遠心圧縮機と言って、回転する羽(インペラ)が空気を円の外側に押しやるように力を加えることで圧力を高めています。

APUは推進用のジェットエンジンと違って、常に定格の回転数や出力で作動する設計です。

なので、先ほどのように抽出した先でBleed Airの圧力や温度を調節する仕組みはなく、そのまま生成した圧縮空気が使われます。

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Bleed Airをどのように使う?

動作の仕組みが分かったところで「結局Bleed Airが何で必要なの?」という疑問が残ります。

ここではBleed Airがどこで使用されるのかを紹介します。

機内の空調+与圧

機内の空調と与圧は、Bleed Airの最大の使用用途と言っても過言ではありません。

空調はいわゆるエアコン機能のことで、コックピット、客室を含めた機内の温度が設定温度になるように制御されています。

この空調の元となる空気はBleed Airから来ていて、PACKと呼ばれるエアコン装置が先ほどの約200℃のBleed Airを設定温度まで冷却して、機内に送り込んでいます。

Bleed Airを機内の空調・与圧に使う概略図

機内に空気を送り込む理由は室温のためだけではありません。

飛行機が巡航する高度1万メートル付近は、気圧が低すぎて人が生きられる環境ではないですから、機内の気圧を高めておく必要があります。

Bleed Airを元に供給される圧縮空気は、機内の気圧を居住環境に保つためにも必要なのです。

エンジンスタートのスターター

ジェットエンジンの始動にもBleed Airが使用されます。

自動車のエンジンもそうなのですが、燃料を圧縮した空気と一緒に燃やすタイプのエンジンでは、まず圧縮機を外の力で動かすことで助走を付けます。

自動車の場合はバッテリーの力で電気モーターを回しますが、ジェットエンジンの圧縮機は大きくて重いため、電気モーターの力では一般的に不十分です。

なのでジェットエンジンでは、圧縮空気(Bleed Air)の大きな力を使ってエンジンの圧縮機を最初に回すのです。

ジェットエンジンの始動ではジェットエンジンからのBleed Airは使用できませんから、始動するにはAPUからのBleed Airを使用します。

※APUはバッテリーや外部電源からの電気モーターで始動することが可能です。

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翼やエンジンの防氷機能

続いてはBleed Airの圧力ではなく、高温を活用するシステムです。

飛行機は基本的に極低温の環境を飛行しますが、特に雲など水分の多いエリアを飛行すると、機体に氷が蓄積してしまうことがあります。

特にジェットエンジンや翼に氷が付くと、エンジン停止や翼に発生する揚力の乱れに繋がります。

なので、一般的にエンジンの吸気口翼の前縁(リーディングエッジ)には、何らかの形で着氷を防ぐ仕組み(Wing Anti-Ice System、Engine Anti-Ice System)があります。

Wing Anti-IceとEngine Anti-Ice

多くの旅客機では、これらの箇所にBleed Airを流すダクトがあって、その熱で着氷を防ぐようにしているのです。

給水ラインの加圧

これはちょっと意外?かもしれませんが、機内のトイレやギャレーで使用する水にもBleed Airが絡んでいます。

家庭の水道もそうですが、蛇口をひねるだけで水がじゃばじゃばと出るのは、給水管の水に圧力が掛かっているからです。

飛行機の場合も同じなのですが、Bleed Airの圧縮空気で給水タンクを加圧することで、水の流れを供給しているのです。

Bleed Airはコックピットの操作パネルで元栓を締めることが可能ですが、地上の整備作業などで元栓を締めているとトイレの水が流れない、なんてことがあったりします。

【その他】機種によってはこんなところでも

上記のBleed Airの使用用途は、多くのジェット旅客機で共通しているようですが、機種によってはそれ以外でもBleed Airを使用しているシステムがあります。

【油圧装置のポンプ】
機種によっては油圧装置の作動液を加圧するバックアップとして、Bleed Airの圧縮空気を使用しているものがあります。

【スラストリバーサーの駆動装置】
スラストリバーサーは、ジェットエンジンを覆うカウルの後部が後方にスライドする動きがありますが、この力に圧縮空気を使用している機種もあります。

B787はBleed Airを使わない設計!

ここまでで、Bleed Airがいかにたくさんのシステムで使用されているかを紹介しましたが、なんとB787ではBleed Airを基本的に使用していません。

B787では圧縮空気を使用しない代わりに、大出力の電力を使用したポンプやモーターで、システムを動かしています。

例えば、空調+与圧用の空気はCAC(Cabin Air Compressor)という電気で動く専用の圧縮機が外部からの空気を圧縮して機内に供給しています。

ジェットエンジンの始動も、大出力のモーターを使用してエンジンの圧縮機を回す仕様です。

さらに防氷装置も翼前縁の加熱は電気の力で行っているのです。
(※エンジン吸気口の加熱だけはBleed Airを使用している)

B787は、その構造の大部分が炭素繊維複合材でできていることで話題になりましたが、Bleed Airを使用しないという点でも画期的であったのです。

終わりに

いかがでしたか?

Bleed Air(圧縮空気)は電力、油圧と並んで、飛行機のシステムを動かす3大動力源の1つです。

特にエンジンスタートの時などは、床下から「シュー!」という音が聞こえてきて、圧縮空気の流れを感じることがあります。

興味がありましたら是非、飛行中のBleed Airの動きを想像しながら、飛行機に搭乗してみてはいかがでしょうか?

以上!

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