こんにちは。ころすけです。
飛行機に搭乗した際、離陸の前や着陸の直前に、”ウィーン”という機械音がして、翼の一部がせり出してくる様子を見たことがある方は多いのではないでしょうか?
これはフラップやスラットと呼ばれる装置なのですが、名前やその役割についてご存知の方も多いかもしれません。
ですが、フラップやスラットがどのような理屈でその役割を果たすのか、はたまたその仕組みはと聞かれたらいかがでしょうか?
今回はフラップ・スラットの役割について、専門的に解説します。
フラップ・スラット(高揚力装置)とは?
フラップ・スラットは離着陸時の飛行速度を遅くするために必要
フラップ(Flap)やスラット(Slat)は日本語では一般に高揚力装置と呼ばれるもので、その名の通り翼が発生させる揚力を増大させる装置です。
しかし、これだけだと何のために揚力を大きくする必要があるのかそもそも分かりません。
フラップやスラットが必要となる理由はズバリ、離着陸時の飛行速度を遅くするためです。
巡航中、ジェット旅客機の飛行速度はざっくり言うと、主計器の速度計で大体250kt~300kt(460~555km/h)ぐらい、純粋な移動速度で言うと無風状態で450kt~500kt(830~930km/h)ぐらいで飛行しています。
一方で、離着陸の時はとなると、大体150kt(280km/h)前後まで速度を落として離着陸を行います。
ここで、巡航中の速度について”主計器の表示”と”純粋な移動速度”を区別して表現したのには少々細かい理由があるので補足しますが、飛行機の速度計は前方からぶつかってくる空気の圧力を速度に換算して表示しています。
なので、巡航中など高度が高く空気密度が薄くなると、実際の飛行速度と計器の速度表示にはずれが出てしまうのですが、ここでは大まかに巡航中と離着陸時の飛行速度は随分と異なると理解いただければ十分です。
重要なのはここからで、実は飛行速度は翼の形状と密接に関係していて、フラップやスラットは翼の形状を変化させることで飛行速度を遅くしているのです。
次は、翼の形状がなぜ飛行速度に影響するのかを、航空力学を交えて順に見てみましょう。
飛行速度を遅くするためには機首を上げるのが基本
まずは飛行機が増速、減速する基本的な理屈について解説します。
下図のように、飛行機は離着陸時を含め、空中にいる時は自重を支えるために、常に自重と等しい大きさの揚力を翼に発生させて飛行しています。
この揚力ですが、その大きさは以下の式で算出されます。
(揚力の式)
揚力=1/2 × CL × 翼面積 × 速度(二乗) × 空気密度 ※CL=揚力係数
ここでCL=揚力係数というのが出てくるのですが、これは翼の形状や翼が気流に当たる角度の大きさによって決まる値です。
しかし、この式をそのまま見ても、定性的な理解(要するにどういうこと?)を得るのは少々小難しい印象を受けます。
なので、揚力の発生について、上の式を以下のイメージに噛み砕いてみましょう↓
図の緑で示した部分が最初の式でCL(揚力係数)に該当していて、翼の形状や取付角などで変化します。
今、飛行機がある速度から増速または減速した状態で飛行しようとすると、揚力は常にその時の自重と等しいので、速度の変化分を翼の形状や気流の当たる角度の変化で補う必要があります。
しかし、翼の形状は普通不変であるので、式を釣り合わせるためには気流が当たる角度を調整する以外ないことが分かります。
実は飛行機は、このように翼に当たる気流の角度(迎角と言います)を変えることで、飛行速度をコントロールしているのです。
翼は胴体に固定されていますから、実際には飛行機の機首(ピッチ)を上げ下げすることで気流に当たる角度を変えています。
具体的には、機首下げ(ピッチダウン)すると増速、機首上げ(ピッチアップ)すると減速します。
機首上げして、迎角を大きくした方が揚力が大きくなるのです。
なので、離着陸の際に飛行速度を落としたい場合は、機首を大きく上げればよさそうですが、ここで問題が発生します。
機首を上げ過ぎると失速する⇒翼の形状を変えるしかない!
飛行機の翼は通常、翼の上側と下側にきれいに空気が流れることで揚力を発生させています。
しかし、より大きな揚力を得ようと(減速しようと)角度をつけすぎると、翼に空気がきれいに流れなくなって揚力が失われてしまいます。
これを失速と言います。
巡航飛行と同じ条件で減速していくと、機種や条件にもよりますが、大体200ktを少し超えるぐらいで失速してしまうのです。
なので離着陸のために飛行速度をさらに落とすには、翼の形状を変化させて、より低速に適した形に変えてやる必要があるのです。
そのための装置がフラップやスラットで、高揚力装置とは低速でも十分な揚力を生み出せるように翼の形を変化させる装置というわけです。
翼の形状をどう変化させると揚力が増す?ポイントは3つ
では、具体的にどのように揚力を大きくしているのかと言うと、ポイントは3つです。
① 翼の面積を大きくする(揚力は翼面積に比例する)
② キャンバー(反り)を大きくする(同じ迎角でも揚力が大きくなる)
③ 機首上げしても失速しない工夫をする(迎角の限界値が大きくなる)
キャンバーとは翼断面の反り具合のことで、断面形状が「への字」に反っているほどキャンバーが大きく、同じ迎角でも大きな揚力を得ることができます。
上で挙げた3つのうち、フラップは特に②に関して、スラットは③に関して効果を狙った装置なので、整理しておくとよいかと思います。
次は具体的に、フラップやスラットにはどのようなものがあって、どのように翼の形状を変化させているのか見ていきたいと思います。
フラップの種類。旅客機では2種類のフラップの組み合わせ
後縁フラップは4種類
一般にフラップと言うと翼の後縁の装置を指しますが、ここではより正確に後縁フラップ(Trailing Edge Flap)と表現します。
フラップは英語で「パタパタ動くもの、ヒラヒラ垂れ下がるもの」という意味で、実は翼の前側(前縁)に付くものもあるのですが、これはスラットのところで解説します。
後縁フラップには一般的に以下の4種類があります。
Plain FlapやSplit Flapは構造が単純で、翼後縁を折り曲げることでキャンバーを大きくしています。
Slotted Flapはフラップがせり出す際に、敢えて隙間(スロット)を作ることで下面の気流が上面に流れるようにしています。
失速は簡単に言えば上面の気流が停滞してしまっている状態なので、作為的に空気の流れを作ることで失速に対して強くなるのです。
Fowler Flapはせり出す際に、初めに後方にスライドすることで、キャンバーを大きくするのと同時に翼面積も広げることで揚力を大きくします。
旅客機はスロテッドフラップ+ファウラーフラップ
上記のフラップの内、ボーイングやエアバスなどの旅客機では、基本的にスロテッドフラップとファウラーフラップが使用されていて、2つが一体化したスロテッドファウラーフラップが多く採用されています。
B777やB737など、ボーイングの機材ではスロット(隙間)を2か所にしたダブルスロテッドファウラーフラップが多く見られます。
一般的にフラップは翼の内側と外側に分けて装備されていますが、下の画像では機種ごとのスロット数の違いを比較しています。
ジャンボジェットことB747-400では、スロットが3か所のトリプルスロテッドフラップが採用されていて、展開した時の大きなフラップが特徴でした。(B747-8ではSingleとDoubleに改良)
エアバスはA320やA380はシングルスロットのフラップを採用している一方、A321ではダブルスロットのフラップなのが興味深いですね。
ボーイングはB787ではシングルスロットのみの仕様になっています。
フラップはスロット数や枚数を大きくして展開面積を増やすと、抵抗が増加するデメリットもあります。
A321はベースのA320から派生した設計上の都合でダブルスロットとなっている?と想像できますが、全体的には空力性能の改善の結果、フラップも大きな動きを伴わないタイプが主流になってきていると考えられますね。
スラットは前縁の高揚力装置の1つ
スラットは隙間から空気を流して失速を防ぐ
続いてはスラット(Leading Edge Slat)ですが、実はスラットは翼前縁の高揚力装置(Leading Edge High Lift Device)の一形態に過ぎません。
ですが、ほとんどの旅客機で採用されているので、翼前縁の高揚力装置=スラットでも差し支えないかもしれません。
スラットの主な目的は、翼の前縁に敢えて隙間(スロット)を作ることで下面から上面に流れる空気の流れを作り、迎角を大きくしても失速しないようにすることです。
失速は翼の上面で気流の流れが滞ってしまうために発生するので、勢いのある空気を流すことで改善するのです。
さらにスラットは展開する時にやや斜め下方向にスライドするので、翼前縁が全体的に丸みを帯びた形状になります。
翼前縁が厚く丸みを帯びた形状も、大きな迎角で気流を流れやすくする効果がありますし、キャンバー(反り)が大きくなって揚力が大きくなる効果も見込めるというわけです。
前縁の装置はスラットだけではない!クルーガーフラップ・ドループノーズ
スラットは翼前縁の高揚力装置の1つと言いましたが、実は多くの機種で、部分的にスラット以外の高揚力装置が採用されています。
それが次に紹介するクルーガーフラップとドループノーズです。
クルーガーフラップ(Krueger Flap)は前縁に付くフラップで、前縁フラップ(Leading Edge Flap)とも呼ばれます。
クルーガーフラップは翼前縁の下面側に折りたたまれるようにして格納されたフラップが、前方に回転するように展開される仕組みです。
一方でドループノーズ(Droop Nose)は、翼前縁が指を折るようにその場で折れ曲がる構造になっています。
クルーガーフラップもドループノーズも、隙間は作りませんが、翼前縁の丸みを大きくして高迎角時の気流を整えたり、反りを大きくしたりする効果があります。
旅客機はスラット+部分的にクルーガーフラップ・ドループノーズ
旅客機では、基本的に前縁の高揚力装置にはスラットが装備されていて、システム名もスラットと呼称されます。
ですが、実は多くの機種では部分的にクルーガーフラップやドループノーズが使われています。
まず、エアバスのA320やA330では、エンジンを挟んで内側も外側も、前側にスライドして隙間を作るスラットが装備されています。
一方、ボーイングのB787、B777、B767も、同様に内側と外側にSlatがメインで装備されているのは変わりません。
ですが、エンジンの付け根(パイロン)のすぐ内側にクルーガーフラップも装備されていて、パイロンと翼の間にできる空力的に有害な隙間を埋めるようになっています。
次は同じくボーイングの機種ですが、B737は外側はスラットですが、内側の高揚力装置はクルーガーフラップになっています。
さらにエアバスの新しい機種であるA380やA350では、外側はスラット、内側はドループノーズです。
最後は既に生産が終了してしまったB747ですが、こちらはスラットが装備されておらず、内側も外側もクルーガーフラップが使われています。※システム名としても前縁フラップ、後縁フラップという呼称がされています。
終わりに
いかがでしたか?
フラップやスラットは窓側の席から動きがよく見えるので、注目してみると色々と発見があり面白いと思います。
搭乗機の装置がフラップなのかスラットなのか、スロットはいくつなのか、注目してみてはいかがでしょうか?
以上!