こんにちは。ころすけです。
パイロットとは何をする仕事でしょうか?
「えっ?飛行機を操縦する仕事でしょ?」と思われるかもしれません。
その通り、パイロットの主な仕事は飛行機を操縦することです。
ですが、飛行機を操縦するにあたってパイロットがやらなければならないことは、実際に操縦桿を握って飛行機を動かすことだけではないのです。
飛行機を運航するには、事前に様々な準備を整えておかなければなりません。
その中の1つに、パイロットが飛行前に確認しなければならない事項というものがあるのです。
解説します。
パイロットが飛行機の出発前に確認しなければならない法的事項とは
エアラインのような旅客機であっても、自家用飛行機のように1人で操縦する場合であっても、飛行機の運航には責任者を1人立てる必要があります。
それが機長です。
機長は運航の責任者としての任務を遂行するために、航空法にてその権限が付与されています。
それが航空法73条の「機長の権限」です。
一方で航空法73条には、機長に権限を与えると同時に、運航の準備段階で確認しなければならない事項(出発前の確認)についても定めています。
以下が航空法の条文です。
航空法73条(機長の権限)
航空法73条の2(出発前の確認)
機長は、国土交通省令で定めるところにより、航空機が航行に支障がないことその他運航に必要な準備が整っていることを確認した後でなければ、航空機を出発させてはならない。
このように、機長は航空機(飛行機)を運航するにあたって、国土交通省令に定める準備の確認をしなければならないのです。
※航空機というのは、飛行機のほかにヘリコプターなども含む言葉です。
ここで、国土交通省令とは?となるかと思いますが、ここで言う国土交通省令とは、航空法の下位に位置する航空法施行規則を指します。
法律では大まかな規則を上位の法律に、細則部分を下位の法律に定めることがほとんどですが、出発前の確認については具体的に以下のように書かれています。
航空法施行規則(国土交通省令)164条の14
航空法73条の2の規定により機長が確認しなければならない事項は、次に掲げるものとする。
1. 当該航空機およびこれに装備すべきものの整備状況
2. 離陸重量・着陸重量・重心位置および重量分布
3. 法99条の規定により国土交通大臣が提供する情報
4. 当該航行に必要な気象情報
5. 燃料および滑油の搭載量およびその品質
6. 積載物の安全性
ここで挙げた6つの項目こそが、航空法上で定められている「機長が出発前に確認しなければならない事項」になるのです。
これはエアラインのパイロットのみならず、自家用機を操縦するパイロットであっても同じです。
エアラインの場合は2名のパイロットのうち1名が機長ですから、厳密に言えば確認の義務は、そのフライトで機長を担当するパイロットのみに発生することになります。
ですがそれは確認行為の責任の所在が機長にあるというだけで、これから航空機(飛行機)を運航しようとするパイロットは、みな必ず確認すべき事項なのです。
出発前の確認事項を具体的に見ていこう
それでは、ここからは先の6つの確認事項を、具体的にどのように確認していくのか見ていきましょう。
実際の現場は、エアラインの運航をする場合と自家用機で飛行する場合とで環境が異なるかと思いますが、ここではエアラインの運航を想定して解説します。
1. 当該航空機およびこれに装備すべきものの整備状況
まず最初の確認事項ですが、これは運航開始前までに飛行機や飛行機のシステムに対し、所定の整備作業が確実に行われていることの確認です。
具体的に何をもって確認するかと言うと、飛行機に搭載された搭載用航空日誌(ログブック)を確認します。
搭載用航空日誌は、機体1機につき1冊搭載することが義務付けられているもので、その機体を運航した過去の記録が全て記載されています。
記録内容には飛行日時や飛行区間などの情報のほか、運航中に発生した不具合の記録や実施した整備作業内容の記録もあって、これは整備士によって記入されます。
パイロットはこの記入内容を見ることで、直近でどのような不具合が発生したかや、どのような整備作業を行ったのかを確認するのです。
また、不具合によってはすぐに整備処置を実施せずに、条件付きで不具合を抱えたまま運航してよい場合があります。
この基準はMEL/CDLと呼ばれるのですが、MEL/CDLによる修理持越しを適用する場合も、その運航を実施する機長の承認と航空日誌へのサインが必要です。
さらに整備状況の確認の1つとして、航空法では機体の外部点検と、飛行開始前の操縦系統の動作確認も求めています。
駐機中の飛行機の周りを、パイロットが一周しながら点検している様子を見たことはないでしょうか?
外部点検は法的な要件ですので、航空会社やパイロットによらず、必ず行われるのです。
また、飛行機が駐機場から離れて地上走行を開始する前もしくは直後に翼の様子を見ていると、翼に付いているエルロンやスポイラーと呼ばれるパネルが一時的に立ち上がることが分かります。
これは飛行開始前の操縦系統の確認として、パイロットが実際に操縦桿を動かして、動作に問題がないことを確認している際の動きなのです。
2. 離陸重量・着陸重量・重心位置および重量分布
2つ目の確認事項は、飛行機の重量・重心位置に関する事項です。
飛行機にとって重量がいくらであるかは非常に大切なのですが、その大きな理由は、重量の大きさによって必要な滑走路の長さが決まるからです。
例えば離陸滑走途中にエンジン不具合が発生した場合、飛行機は離陸中断か継続のどちらかを選択しなければなりません。
ですが離陸重量が重すぎる場合、離陸中断して停止する場合は滑走路内で止まり切れない可能性がありますし、離陸継続する場合は必要な上昇勾配が取れずに墜落してしまう可能性があります。
このような事態にならないよう、パイロットは当日の飛行重量が、予め計算された性能上許される重量以下であるか確認する必要があるのです。
また、重量とは別に飛行機の重心位置も非常に重要で、こちらは飛行中の安定性に大きく影響を与えます。
飛行機には設計上許される重心位置の範囲が決まっていて、もしもその範囲を逸脱してしまうと最悪の場合、操縦不能になって墜落してしまう可能性すらあるのです。
重心位置も当日の旅客数や燃料搭載量、貨物搭載量などからコンピューターにより計算されるのですが、機長は算出された値が所定の制限範囲内にあることを確認するのです。
3. 法99条の規定により国土交通大臣が提供する情報
3つ目の法99条による情報とは、別名、航空情報と呼ばれます。
航空情報の具体例としては、例えば滑走路の一時閉鎖や誘導路の通行禁止など空港運用に関する注意点であったり、航空管制上の運用に関する注意点などがあります。
これらは通常、NOTAM(Notice to Airmen)と呼ばれる文書で、国の航空当局から情報提供がなされます。
下図の例は羽田空港で出されたNOTAM例で、誘導路の一部が一時的に使用不可となる時間があることを通報しています。
4. 当該航行に必要な気象情報
4つ目は気象情報です。
パイロットは一般の天気予報でよく見られる地上天気図以外にも、上空の気象状態を報じた高層天気図や、乱気流の状況を予想した悪天天気図なども用いて天候の見通しを確認します。
また、各空港の実況天気や予報天気を報じるMETARやTAFと呼ばれる電文式情報など、航空気象に特化した気象情報も確認します。
気象状況の確認は、揺れの少ないエリアを予想して乗客の快適性に繋げるなどサービス面のほか、離着陸ができないような悪天の予想など安全面でも重要な確認事項なのです。
5. 燃料および滑油の搭載量およびその品質
5番目は主に搭載する燃料量の確認です。
飛行機は一度離陸してしまえば、目的地に到着するまで燃料を給油することができないので、搭載燃料が十分であるか事前に確認することが非常に重要です。
実はこれは4番目の気象状況の確認とも関係することで、例えば選択した飛行高度の向かい風が強い場合、地面に対する速度が遅くなる分必要な燃料量は多くなります。
また空港周辺の天候が悪く、着陸間際に上空待機が予想されるような場合には、上空待機分の燃料が足りるか判断する必要があります。
燃料搭載量の確認は、気象状況の確認と併せて、パイロットが最も確認に時間と注意を費やす項目と言えるのです。
6. 積載物の安全性
最後は少し想像しづらいかもしれませんが、飛行機に搭載する積載物の安全性の確認です。
航空法には、安全のため航空機で輸送してはならない物件や輸送制限が掛かる物件が指定されています。
これには火薬類や腐食性物質、放射性物質などが含まれ、またドライアイスなど搭載量に制限が設けられているものもあります。
実際に貨物の荷受けと搭載を行うのは地上の専門スタッフですが、地上スタッフからの搭載物報告を機長が確認し、安全性に問題がないことを確認する必要があるのです。
パイロットはどのタイミングで確認を行うのか?
以上、6項目にわたる確認項目ですが、これらをパイロットはどのタイミングで確認しているのでしょうか?
ほとんどの項目はディスパッチブリーフィングにて確認する
確認事項のほとんどは、飛行開始前に行うディスパッチブリーフィングと呼ばれる場で実施されることになります。
ディスパッチブリーフィングとは、パイロットが飛行機に向かう前に航空会社のオフィスに出向き、運航管理者も交えて当日の飛行計画を確認し合う場のことです。
ディスパッチブリーフィングの内容は、正にここで挙げた確認事項を網羅するように構成されていて、ブリーフィングを行う中で法的な確認行為を満足するような体制になっているのです。
一部の項目は飛行機に移動してから確認する
一部の確認項目については、ブリーフィングを終えて実際に飛行機に出向いてから行われるものもあります。
例えば、機体の外部点検や操縦系統の作動点検は、実機がなければ確認ができないものです。
また整備状況の確認について、駐機場の飛行機に出向くと、搭乗前に担当する整備士から機体状況について説明を受ける場合もあります。
さらに燃料の搭載については、実際に給油業者の作業が完了すると、多くの会社では完了した旨の報告を機長が受けることになっています。
その際、コックピット計器に示された燃料量を確認して、実際に飛行計画通りの燃料量が給油されていることを確認した上で受領サインをするのです。
同じような理由で、積載物や重量の確認についても、飛行機内で再度確認するタイミングがあります。
最終的な搭乗者数や預けられた全ての貨物の中身は、チェックインを締め切ってからでないと確定しないからです。
旅客カウンターでチェックインを締め切り、最終的な飛行機の重量と搭載物の内容が確定すると、運航管理基地からコックピットに対して重量と搭載物の情報が伝達されます。
パイロットはコックピットで重量・搭載物の情報を受領し、記された最終的な搭乗者数・重量などを最終確認するのです。
終わりに
いかがでしたか?
パイロットは飛行機を操縦する以外にも、そもそも飛行機の出発前にやらなければならないことがたくさんあるのです。
この記事を読んで、少しでもパイロットの仕事内容についてイメージを深めていただけたのであれば、非常にうれしいです。
今後も飛行機に関する豆知識や解説を行っていきますので、興味があればぜひご覧になってみてください。
以上!