飛行機

飛行機の離陸操作!~ギアアップからフラップアップまでの手順~

こんにちは。ころすけです。

前回の記事でギアアップまでの離陸操作を解説しました。

飛行機の離陸操作!~離陸許可からギアアップまでの手順~飛行機が離陸する時、パイロットはどのような操作をどのような手順で行っているのでしょうか?パイロットは単純に推力レバーと操縦桿を操作するだけでなく、様々なことに気を配りながら離陸操作を行うのです。離陸操作とその手順について詳しく解説します。...

しかし、離陸操作はまだまだ完了はしていません。

次は定常上昇に向けて、さらなる操作が待っているのです。

今回はギアアップ後、フラップを格納して定常上昇のフェーズに移るまでを解説します。

ここまで理解すれば、離陸操作の基本は抑えられたと言ってよいかと思います。

それでは始めましょう。

手順の全体像と管制周波数の切り替え

まずは全体のイメージを理解するために下の図をご覧ください。

手順の全体イメージ

そもそも、定常上昇までに行わなければならない操作って何?というところですが、具体的に言うと①上昇推力へモード変更②上昇速度までの加速③フラップの格納の3つです。

このイメージがあるだけで、何が起こっているのが随分理解がしやすくなるかと思いますので、ぜひ頭に入れておいてください。

またこれは飛行機の操作ではないのですが、ギアアップ完了後、交信する相手の管制官が変更されます。

離陸許可を出していた管制官は管制塔にいる「タワー」というコールサイン(呼び出し呼称)の管制官でしたが、空港を離れると今度はレーダー管制室「デパーチャー」という管制官に担当が変わるからです。

ちょうどギアアップの操作を行って、飛行機が空港の敷地を出るや否やというタイミングで、交信する周波数を変更するように指示が来ます。

担当する管制官が切り替わることをハンドオフと言いますが、以下のような交信がなされます。

管制官
管制官
Japan Air 〇〇, Contact Tokyo Departure 126.0.
飛行機
飛行機
Contact Tokyo Departure, Japan Air 〇〇, Good Day!
管制官
管制官
Good Day!

離陸から着陸までの管制官の役割分担や、管制官との無線交信の例は以下の記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧になってみてください。

航空管制入門!④空域、飛行経路と管制官の役割分担を結び付けよう!航空管制なんて全然分からない!そんなことはありません。きちんと順序立てて整理すれば、それほど難しいものではないんです。前の記事で空域の種類と飛行経路について解説しました。今回はそれらをベースにして、いよいよ航空管制の実態を詳しく解説します!...
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手順① 離陸推力から上昇推力への切り替え

飛行機が離陸して間もなくすると、まずエンジンの推力を離陸推力から上昇推力へと切り替えます。

なぜ切り替えが必要かと言うと、離陸時に使用する離陸推力は最大でも5分間しか使用できないとエンジンの制限上決まっているからです。

この切り替えは大体空港から1,000~1,500ft(300~450m)の高度で行われます。

では、実際にどのような操作が行われるかと言うと、これは機種によってまちまちです。

概ね以下の3つのパターンのうちいずれかになっているかと思います。

① 自動的に切り替わる。(ボーイングの多くの機種)

② スラストレバーを上昇推力位置に下げる。(エアバス機)

③ 上昇降下モードを離陸モードから切り替える。

①は予め飛行機のシステムに離陸推力を上昇推力へ落とす高度(Thrust Reduction Hight)を設定しておくもので、その高度に達すると自動的に推力が上昇推力に切り替わります。

②はエアバス機特有の仕様のようですが、これも同じく予め設定しておいた高度に達すると、正面の画面に所定高度に達したことが表示されるようになっています。

ですがエアバス機の場合、推力モードの設定はスラストレバーの位置を手動で切り替えることで行われるので、パイロットが自らレバーポジションを上昇推力位置に変更するのです

③は飛行機の上昇降下モードを切り替えることで、推力設定も連動して変更されるタイプです。

上昇降下モードとは自動操縦システムの一機能で、飛行機の上昇降下の挙動を飛行機が自動で計算してガイダンスを出す機能のことです。

例えば、パイロットがダイヤル入力した上昇率を維持するモード(VS (Vertical Speed) モード)や、予め入力しておいた離陸から着陸までの上昇降下計画に順番に従うモード(VNAVモード)などがあります。

この上昇降下モードが離陸モードから別のモードに切り替わると、自動的に離陸推力も上昇推力に変更されるのです

いずれの場合であっても推力モードが切り替わると、パイロットの正面中央にあるエンジン計器ディスプレイ(ボーイング機であればEICAS、エアバス機であればECAM)の表示も切り替わるので、パイロットは推力モードが変わったことを確認できるのです。

下の例はボーイングのEICAS風にイメージしたイラストですが、離陸推力「TO」の表示が上昇推力になると「CLB」に切り替わります。

エンジン計器の表示例エンジン計器画面(EICAS)のイメージ

手順② 上昇速度への再加速。離陸直後は一旦加速を停止する。

上昇推力への切り替えの次は、上昇速度への加速です。

離陸滑走を開始した後、加速する飛行機はローテーションスピード(VR)で機首上げを行って、ギアアップまでには安全離陸速度(V2)まで最低でも加速しています。

では、この後飛行機はそのままさらに加速を続けるのでしょうか?

答えは「NO」です。

実はV2を超えるスピードまで加速した後、飛行機は一旦加速を止めます。

具体的には、V2+10~15ktのところで加速が止まるように、パイロットが予め入力しているのです。

なぜ加速を止めるのかと言うと、離陸直後の上昇勾配を確保するためです。

飛行機は上昇と同時に加速をすると、上昇勾配が小さくなってしまうのです。

下の図は自動車を例に挙げていますが、もしも同じアクセルの踏み具合で加速しようとする場合、坂の勾配が急だとなかなか加速しないことが体感的に分かるかと思います。

勾配と加速への影響(自動車の例)

逆に言えば加速を抑えれば、ある程度勾配が急な坂でも上ることができるわけですが、飛行機もこれと同じ原理が働くのです。

ですが、かと言ってあまりに遅い速度ですと、飛行機は必要な揚力が得られなくなって失速してしまう可能性があります。

なので失速に対して十分な余裕を確保しつつも、過度に加速しすぎないスピードとして、ほとんどの機種でV2+10~15ktを維持しながら上昇するのです。

ではなぜ離陸直後の上昇勾配を確保する必要があるのでしょうか?

理由としては、①地上の障害物を越えるため②地上への騒音に配慮するため、の2つです。

①の理由は明らかかと思いますが、障害物のほかにも空域の問題などもあって、飛行機の出発方式(SID)のチャートには満たすべき最小上昇勾配が定められている場合があります。

②についてですが、飛行機が通過する時の騒音は、当然飛行機が地面に近い高度を飛行する方が大きくなります。

このように騒音に配慮して、上昇初期ではできるだけ加速を抑え、なるべく早く高い高度まで到達するようにするのです。

②のように騒音に配慮した離陸方式のことをNoise Abatement Departure Procedureと言うのですが、代表的な手法では空港から3,000ft(900m)の高さまでは加速を抑える手法が取られます。

日本ではこの方式を「急上昇方式(Steepest Climb)」と呼んでいますが、これは国際標準のNADP1という離陸方式に準じた方式になっています。

急上昇方式のイメージ

では、離陸後の加速操作はどのようにするのかと言うと、これも機種によってまちまちです。

ボーイングやエアバスの多くの機材では、予め加速を開始する高度(Acceleration Hight)を設定しておくことができます

この高度になると、飛行機が自動的に加速コマンドを出してくれるのです。

このような機能がない場合は、パイロットが手動で加速コマンドを入力します

コックピット前方にある速度コントロールのノブをダイヤルして速度を合わせることで、飛行機はその速度に向けて加速を開始するのです。

手順③ フラップの格納

飛行機が加速を開始すると、今度は展開していたフラップを徐々に格納していく必要があります

フラップは低速で飛行する場合に必要な装置ですが、実は展開しているとその分だけ抵抗が大きくなり、エンジンの燃費であったり上昇効率が悪くなってしまうのです。

なので加速と共にできるだけ速やかに格納したいところですが、先走ってまだ速度が遅いうちに格納してしまうと、必要な揚力が足りなくなってこれもまた失速につながってしまいます。

フラップと飛行可能な速度域のイメージ

なのでフラップを上げるタイミングについては、パイロットの正面にある速度計に表示が現れる仕組みになっています。

フラップ格納タイミングの表示例コックピット計器のイメージ

上図の例では、“5”の表示がある180ktに達すると、PF(操縦を担当するパイロット)はPM(無線交信や計器類の監視を担当するパイロット)にフラップを5度に上げるように指示するのです。

ちなみに、ボーイング機とエアバス機ではフラップの展開度合いを表す言葉が異なります。

離陸後のフラップの格納スケジュール(Flap Retraction Schedule)を両社で比較すると以下のとおりです。

ボーイング機の場合

Flap15 or 20 → Flap5 → Flap1 → Flap Up (Flap5で離陸する場合やFlap1で離陸可能な機種もあり。)

エアバス機の場合

Flap2 or 3 → Flap1 → Flap Up(Flap1で離陸する場合もあり)

ボーイング機ではフラップの角度で15や20といった数字が使われているのに対し、エアバス機はフラップの浅い順に1、2、3と番号をつける方式になっています。

おまけ 10,000ft までは250kt の速度制限内で上昇

フラップを格納し終わると、最終的な定常上昇速度に向けてさらに加速を続けます。

この定常上昇速度は機種やその時の機体重量、航空会社の方針によって若干異なりますが、大体280kt~300ktぐらいになります。

ですが、ここでもその速度まで一気に加速が可能かと言うとそうではなく、一旦250ktで加速を抑えることになります。

その理由は、高度10,000ft(3,000m)以下では250kt以下という速度制限があるからなのです。

厳密に言うと「進入管制区のうち10,000ft以下は250kt以下で飛行しなければならない」というルールなのですが、ほとんどの空港でこの条件に合致します。

なのでフラップ格納後の加速も一旦250ktで止めないといけないのですが、ここでもほとんどの機種では予め速度制限を入力することができ、自動的に速度調整を行ってくれるのです。

終わりに

いかがでしたか?

実際に飛行機に乗っていると、エンジン推力が離陸推力から上昇推力に変わった瞬間は音の変化で気づくことができます。

その後しばらくしてから、展開されていたフラップが徐々に格納されていくわけですが、この時点で上昇速度への加速が始まったと判断できるわけです。

もしも興味がありましたらぜひ、エンジン推力の変化やパイロットの操作に思いを巡らせながら飛行機に搭乗してみてはいかがでしょうか?

 

以上!

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