こんにちは。ころすけです。
突然ですが飛行機の着陸速度がどのぐらいかご存知でしょうか?
それ以前に、飛行機の着陸速度は常に同じなのか?と聞かれたらどうでしょう。
飛行機の着陸速度は機種によって異なることはもちろん、実はその日の状況に合わせて変化するのです。
今回は飛行機の着陸速度について、専門的な内容を交えながら詳しく解説したいと思います。
この記事では、前半で飛行機の着陸速度がどのようにして決まるのかを解説し、後半で各機種ごとの着陸速度の比較を紹介します。
もしも各機種の着陸速度だけを知りたいという方は、後半部分だけご覧いただいても構いません。
それでは始めましょう。
着陸速度はVREF(参照着陸速度)と呼ばれます
飛行機が着陸する時の速度は、専門用語でVREF(ブイレフ:参照着陸速度)と呼ばれます。
REFはReferenceの略で、英文の専門書などではReferece Speedなどと表現されます。
V1やV2、VRという用語を聞いたことはあるでしょうか?
V1やV2は離陸の際に基準となる速度ですが、着陸の際に基準となる速度がVREFなのです。
このようにV○○と呼ばれる速度は通称Vスピードと呼ばれ、飛行機の離陸性能や着陸性能(例えば離着陸に必要な滑走路の長さ)を計算する基準となるのです。
V Speedの例 | |
V1:離陸決心速度 | 離陸滑走中にエンジンが故障した場合、離陸継続と中断の判断が切り替わる速度 |
VR:ローテーション速度 | 離陸滑走中に機首を引き起こし始める速度 |
V2:安全離陸速度 | 離陸して高度35ftに達した時点で到達すべき速度 |
VREF:参照着陸速度 | 着陸する際の基準となる速度 |
VREFは滑走路末端を50ftの高さで通過する基準の速度
飛行機は通常、滑走路の末端を50ft(約15m)の高さで通過するように着陸を試みます。
この50ftを通過する際にターゲットとなるのがVREFなのです。
飛行機は着陸する際、当日の飛行重量や気象条件において、着陸に必要な滑走路長がどのぐらいになるかを計算しなければなりません。
着陸に必要な滑走路長は、飛行重量が重い場合や追い風を受ける場合は長くなるため、その日その時の状況によって確認が必要なのです。
その際、滑走路末端50ftの高さをVREFで通過するものとして、滑走路長を計算するように決められているのです。
飛行機は着陸に向けて滑走路の延長線上に乗ると、最終降下を開始する前に着陸フラップをセットします。
フラップとは飛行速度を落としても必要な揚力が得られるように、翼後縁に展開する高揚力装置と呼ばれるシステムです。
パイロットはフラップを着陸位置にセットした段階で、飛行速度もVREF(実際には減速しすぎないようにVREF+5kt程度)に合わせるのです。
VREFは飛行重量と使用するフラップで変わります
VREFはいつでも同じかと言うとそうではありません。
B787とA320など、機種ごとでも当然変わってきますが、同じ機種でも状況によって若干変わります。
何によってVREFが変わるかと言うと、飛行重量と使用する着陸フラップです。
実はVREFは「失速速度の1.23倍以上の速度であること」という制限があるのですが、この失速速度が飛行重量によって変わるのです。
飛行機は低速で飛行しようとする場合、機首を上に上げて翼に当たる気流の角度を大きくする必要があります。
ですが、あまりに低速で飛ぼうとして翼に当たる気流の角度が大きくなりすぎてしまうと、流れる気流が乱れて揚力が失われてしまいます。
これが失速です。
失速速度は飛行重量の二乗根に比例して大きくなるのですが、例えば飛行重量が2倍になると、失速速度は√2倍になります。
飛行重量が重ければ失速速度も速くなりますので、それに伴ってVREF=着陸速度も速くなるのです。
さらに失速速度は、使用する着陸フラップによっても変化します。
エアバスやボーイングのような旅客機では、着陸フラップは角度の浅いものと深いものの2種類から選択することが可能です。
着陸フラップの選択例 | |
B737 | Flap30 or Flap40 |
B767、B777、B787 | Flap25 or Flap30 |
エアバス | Flap3 or Flap Full |
ERJ170、ERJ190 | Flap5 or Flap Full |
フラップは深いもの(数字の大きなもの)を使用すると遅い速度で飛行することが可能ですが、これは深いフラップの方が失速速度が遅くなるからです。
失速速度が遅くなるので、VREFも当然、深いフラップの方が遅くなるというわけです。
遅い速度で着陸すれば、それだけ接地後に減速するまでの距離を短くできますから、滑走路が短い場合や雪などで滑りやすい場合に深いフラップが使用されます。
【機種別比較】着陸速度は実際にどれぐらい?
VREFの機種別比較
ここからは、実際に着陸速度=VREFがどの程度かを機種ごとに見てみましょう。
前半で解説したように、VREFは飛行重量と使用するフラップで日によって値が変わりますが、おおよそ下表の速度範囲が標準的と言えます。
VREFの機種別比較 | |
B737-800 | 120~140kt(220~260km/h) |
B767-300 | 120~150kt(220~280km/h) |
B777-300ER | 130~160kt(240~295km/h) |
B787-9 | 130~160kt(240~295km/h) |
A320neo | 120~140kt(220~260km/h) |
A330 | 120~140kt(220~260km/h) |
A380 | 120~140kt(220~260km/h) |
ERJ170 | 120~130kt(220~240km/h) |
※1kt = 1.85km/h
VREFは機材サイズほど大きな違いはありません
上表の比較を見ても分かるとおり、リージョナルジェットのERJ170から超大型機のA380まで、VREFの違いはほとんどないことが分かります。
重量の大きな機体はそれだけ大きな翼やフラップを備えているので、大きな機体だからと言って着陸速度がとんでもなく速いというわけではないのです。
小型の機体であれ大型の機体であれ、使用する滑走路の長さは機種によらず共通ですから、大型の機材でも着陸速度を十分に落とさなければならないという事情もあります。
【+αの豆知識】風が強い時は増速して着陸します
飛行機は通常、向かい風を受けるようにして離着陸を行います。
これは翼に発生する揚力が、翼が空気を切り裂く速度=翼と空気の相対速度に比例するからです。
向かい風を受ける場合は翼と空気の相対速度が大きくなりますから、離着陸距離を短くすることができるのです。
さらに飛行機は着陸の際、向かい風の強さに合わせて着陸時の速度を増しています。
これには上空と地上付近での風の強さの違いが関係しています。
下の図のように、通常、上空の風は地上に近づくに従って弱まっていきます。
地上付近は地面との摩擦や障害物によって、風の力が抑えられるからです。
このように上下方向にできる風速の勾配をWind Gradientと言います。
Wind Gradientを着陸してくる飛行機から見ると、地上に近づくにつれて向かい風が減っていくので、どんどん機体の速度が減っていくことになります。
ここでもしVREFぎりぎりの速度で飛行していたとすると、Wind Gradientによる速度減少により必要な揚力が得られなくなって降下率が増大するか、最悪の場合失速につながってしまうのです。
そうならないように、飛行機は通常、向かい風の強さに応じてWind Gradient分の速度を予め着陸速度に上乗せするようにしています。
風の強さにもよりますが、弱い風の時でVREFに対して+5kt程度、強風の場合は+15kt程上乗せして着陸するのです。
終わりに
いかがでしたか?
着陸する飛行機の姿は、ただ眺めているだけでも見ごたえがあるものですが、着陸速度だけを取っても非常に奥深い秘密があるのです。
空港で飛行機を眺める際にはぜひ、着陸してくる飛行機の速度に注意してご覧になってみてはいかがでしょうか?
以上!
はじめまして、こんにちは。
いつも楽しく拝見させて頂いております。
私も航空関係の仕事をしており、仕事に直結する内容も沢山ありいつも勉強させていただいております。
ご掲載の内容について私の職場内でも共有できればと考えておりますが、転載させていただくことは可能でしょうか。著作権等の関係もあるかと思いまして確認させて頂きました。
勝手なお願いで大変失礼なことと存じますが、返信頂けますと幸甚です。
失礼いたします。
こんにちは!
ご丁寧にご連絡いただきありがとうございます!
出典を明記していただければ転載いただいて構いません。
元々、「飛行機について知りたい方・興味がある方に噛み砕いた解説を」と思って書いている記事ですので大歓迎です。
拙い記事ですが、今後とも当ブログをよろしくお願い致します。
こんばんは!
返信ありがとうございます。
転載につきまして承知いたしました。
『「ブログ:不器用に生きよう!」より転載』を付けて社内系ネットワークにて掲載させて頂きます。
今後ともTwitter含め、陰ながら応援致します。
ありがとうございました。
祈、航空安全 YO