飛行機

パイロットのマニュアルには何が書いてある?基本内容はどの機種でも同じです。

こんにちは。ころすけです。

みなさんは、エアラインのパイロットが使う飛行機の操縦マニュアルをご存知でしょうか?

知っていると言う方も、操縦マニュアルに書かれている内容までご存知の方は少ないのでは?と思います。

今回はパイロットが使うマニュアルの中身についてご紹介します。

パイロットのマニュアル(AOM)はどの航空会社、どの機体でも基本内容は同じ

パイロットが使う飛行機の操縦マニュアルをAOM(Airplane Operations Manual)と言います。

日本語では飛行機運用規程と言うのですが、このマニュアルに飛行機の操縦方法や操縦に必要な情報がまとめられています。

このAOMですが、各エアラインはそれぞれ独自に作成して国土交通省航空局から内容について認可をもらわないといけません。

と言うことはAOMの中身は航空会社によって全然違うの?と思えそうですが、そうではありません。

AOMの元になる内容は、ボーイングやエアバスといった航空機メーカーが作成しているのです。

航空会社がマニュアルを独自に作成していると言っても、基本的な内容は航空機メーカーの大元のマニュアルに従わないといけないのです。

なのでAOMの内容は同じ機材、例えば同じB787の機材を使っているのであれば、航空会社が違ってもほとんど同じ内容になっています。

では、ボーイングとエアバスのように航空機メーカーが違う場合はどうでしょう?

実はこれも内容についてはほとんど同じです。

航空の世界では、ICAO(International Civil Aviation Organization)と呼ばれる国連傘下の国際機関があり、ICAOが世界共通の航空運用に関するルールを定めています。

このICAOが定めている基準の中に、航空機のマニュアルにどのようなことを定めないといけないかが規定されているのです。

なので、ボーイングやエアバスのように機体メーカーが異なっても、何について書かれているのかという内容構成はほとんど変わらないのです。

パイロットのマニュアル(AOM)の構成を見てみよう!

それでは、具体的にAOMの構成を見てみましょう。

AOMは各トピック毎に内容をまとめた章によって構成されているのですが、先に紹介したようにこの章構成はどの航空会社、どの機体でも変わらないのです。

0. 総則(General)

まず始めに書かれているのが総則と呼ばれる内容ですが、これは「飛行機の操縦」にはあまり関係しない章になっています。

この章の内容はマニュアルの目的や法的な位置付け、管理方法、目次など文書の運用事項に関することです。

航空会社ではAOMのようなマニュアルに効力を持たせて、パイロットを始めとした運航に従事する者の行動を規定するわけですから、そのためにはきちんとしたマニュアルの管理方法が定められていないといけないのです。

1. 限界事項(Limitation)

ここからが飛行機の操縦に関係する内容になりますが、まず始めの内容が限界事項です。

航空業界では横文字が使われることが基本なので、Limitation(リミテーション)と呼ばれています。

Limitationとはパイロットが操縦中に意図的に超えてしまうことが禁じられている飛行機の限界のことで、速度や高度、システムの操作などがあります。

また、意図的でなくともある閾値を超えてしまったら整備点検を実施しなければならないものも定められています。

具体的な例を見てみましょう。

・飛行機の構造上許される離陸重量や着陸重量の限界

・飛行機の安定性上許される重心位置の範囲

・飛行機がいかなる場合でも超えてはいけない速度

・フラップ展開時やランディングギア展開時など特定の場面で超えてはいけない速度

・飛行できる限界高度や許容される機体と外気の気圧差

・離着陸してもよい滑走路の状態(積雪深さの上限など)

・離着陸してもよい横方向からの最大風速

・超えてはいけないエンジンの各パラメーター(回転数、オイル温度、オイル圧、排気ガス温度など)

・各システムにおいて禁止されている使用方法(例えばある条件下ではAuto Pilotを使用してはいけないなど)

これらは必ず守らなければならない制限になりますから、パイロットはAOMに書かれている内容を暗記していなければなりません

Limitationは暗記しなければならない!

2. 通常操作(Normal Procedure)

通常操作は機体に不具合やトラブルがない時に、パイロットが従う操作手順のことです。

操作手順のことはProcedure(プロシージャー)と言い、どのタイミングでどのスイッチ操作をするかなどが書かれています。

ですから、飛行機に乗って順調に飛行しているのであれば、このNormal Procedureに沿ってパイロットは飛行機を操縦していることになります。

Normal Procedureは飛行の段階ごとに以下のように分かれています。

・Preflight Procedure(出発前の外部点検や各システムの初期設定手順)

・Before Start Procedure(エンジン始動前の確認や手順)

・Engine Start Procedure(エンジン始動の手順)

・Before Taxi Procedure(地上走行開始前の手順)

・Before Takeoff Procedure(離陸前の確認手順)

・Takeoff Procedure(離陸操作手順)

・After Takeoff Procedure(離陸完了後の操作、確認手順)

・Climb、Cruise Procedure(上昇、巡航中の手順)

・Descent Procedure(巡航高度からの降下開始前から降下後の手順)

・Approach Procedure(最終着陸態勢後の操作手順)

・Landing Procedure(着陸時の操作手順)

・Shutdown Procedure(駐機場にスポットイン後エンジン停止の手順)

これらNormal Procedureは常にこの手順で飛行機を操縦するわけですから、いちいちマニュアルを確認していたのでは操作が遅れてしまいます。

なのでNormal Procedureもパイロットは暗記していて、Procedureどおり流れるように体が動くように訓練されています

Normal Procedureも暗記必須であり、流れるように実施する必要あり!

3. 非常操作(Non Normal Procedure)

非常操作とは機体のシステムにトラブルが発生した場合などの対応手順を定めたものになります。

航空機メーカーによってはEmergency Abnormal Procedureと呼ばれることもありますが、内容は同じです。

Non Normalな状態というのは非常に多岐に渡り、例えば離陸滑走中に片側のエンジンが停止してしまった場合や、飛行中に煙が充満して火災が疑われるような場合など様々です。

従ってこのNon Normal ProcedureだけはAOM本書とは切り離して、コックピットの中ですぐに取り出せる位置に小冊子として搭載されています。

これをQRH(Quick Reference Handbook)と言います。

QRHにはトラブルの状態毎にパイロットがすべきProcedureが示されており、見出しで分かりやすいようになっています。

最近の飛行機では、システムにトラブルが発生すると操縦画面にメッセージが出るようになっており、QRHのProcedureの見出しと一致するようになっています。

例えば、

ENG L FIRE

と言うメッセージが出た場合は、システムが左側のエンジンから出火を検知したことを意味しますが、その場合はQRHの「ENG L FIRE」という見出しのProcedureに従えば良いのです。

このNon Normal Procedureは非常に多岐に渡り、いつどの不具合が起こるかどうか分からないので暗記する必要はなく、読み上げながら実施することになります。

ただし一部のProcedureについては暗記が必要であったり、特に非常事態のものはシミュレーターで何度も訓練するので結果的に覚えてしまう場合もあります。

Non Normal Procedureは不具合発生時にマニュアルを読み上げながら実施する!

4. 航空機性能(Performance)

飛行に必要な性能データもAOMには含まれています。

具体的にどのようなものが性能データかと言うと以下の例のとおりです。

・離着陸速度データ(V1やV2と呼ばれる速度など)

・離陸推力設定に使うエンジンの回転数データ

・離着陸に必要な滑走路長とその時の機体重量データ

・上昇降下中の速度や上昇率、消費燃料のデータ

・巡航中の速度や航続距離、消費燃料のデータ

・上空待機中の速度や消費燃料データ

このようなデータがグラフ形式や表形式で掲載されているのが基本になります。

これらのデータを元にして飛行計画を作成したり、離着陸時に使用する速度を決定したりするのです。

昔はこれらのデータをグラフや表から読み取って性能を判断していたようですが、現在では地上のコンピューターが自動で計算をしてくれたり、パイロットが所有するタブレット端末のソフトで計算できたりとコンピューター化が進んでいるのが特徴です。

性能データのグラフや表が掲載されているが、現在はコンピューター化が進んでいる!

5. 重量および重心位置(Weight and Balance)

飛行計画を立てる際、重量や重心位置の計算は非常に重要です。

なぜなら仮に飛行機が想定以上に重すぎた場合、使用する滑走路内で離陸することができなかったり、消費燃料が多すぎて目的地までたどり着かないなどの事態に陥ってしまうからです。

また、飛行機は機首のバランスを取りながら飛行するのですが、適切な位置に重心位置が調整されていないとバランスが崩れ、コントロールを失って墜落してしまいます。

このように重量、重心位置のコントロールに必要な事項が書かれているのがWeight and Balanceの章なのです。

内容としてはデータに近いものなのでPerformance章と似ていますが、区別されるのが一般的です。

Weight and Balance章では以下のような内容が記載されています。

・旅客や燃料を搭載しない場合の機体重量データ

・旅客一人当たり、手荷物一個当たりの想定重量

・重心位置算出のための計算表

Weight and BalanceはAOMに含まれているものの、これらのデータが使用されるのは運航管理者が飛行計画を作成する段階や、地上係員が貨物や旅客からの手荷物を搭載する段階です。

従って会社によってはAOMとは別に、運航管理者や地上係員用にさらに詳細事項を落とし込んだWeight and Balance Manualを作成する場合もあります。

Weight and Balance章の内容は主に運航管理者や地上係り員が使うデータ!

6. 航空機システム(System Description)

航空機システムの章は飛行機の取り扱い説明書のようなものです。

飛行機は電気系統や油圧系統、操縦系統など様々なシステムから構成されており、たくさんのスイッチやレバー、画面などが備わっています。

これらに対して一つ一つ解説が書かれているのがSystem Descriptionの章です。

例えば○○のスイッチを押すと~が作動するとか、操縦画面の表示にはどのようなものがあって何を意味するなど、詳細に説明が書かれています。

System Descriptionは飛行機の取り扱い説明書!

AOMの元になるメーカーマニュアルを検索してみよう!(自己責任)

いかがでしたか?

この記事を読んでパイロットのマニュアル(AOM)に興味が沸いたという方は、実際にどんなものか見てみたいと思うかもしれません。

このマニュアルですが、Web検索で調べてみると結構サンプルとなるものがヒットするようです。

AOMの元になるのは航空機メーカーのマニュアルだと言いましたが、これが掲載されていたりするのです。

ボーイングやエアバスでは、このメーカーマニュアルはFCOM(Flight Crew Operations Manual)と呼ばれています。

ただし、これらのマニュアルが合法的にアップされているものなのかどうかはよく分からないので、検索する際は自己責任でお願いします。

いくらか購読料を払えば見ることができるサイトもあるようなので、こういったサイトであれば合法的なのかもしれません。

以上!

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