飛行機

視程が悪いと着陸不可!空港と霧の関係について解説

こんにちは。ころすけです。

航空会社の運航情報を見る時に、以下のような注意書きを目にすることはないでしょうか?

「××便は霧による悪天候のため、着陸できない場合は○○空港へ引き返す条件付き運航とします」

ご存知の通り、飛行機の運航は悪天候の影響を受けることが多いのですが、空港周辺の霧が深い場合も欠航や着陸不可の原因となりうるのです。

なぜ霧が深いと飛行機は着陸できないのでしょうか?

そもそも霧はどのようにして発生するのでしょうか?

霧が発生しやすい空港とその原因は?

本記事では、飛行機の運航と霧の関係について詳しく解説します。

なぜ霧が濃いと飛行機は着陸できないのか?

パイロットは着陸する直前に滑走路を視認する必要がある

霧が発生すると何が起きるかと言えば、周辺の視界が悪くなり、遠くを見通すことができなくなることです。

視界のことを航空業界の専門用語では視程と言います。

霧が飛行機運航に影響を与える最大の原因は、霧の発生によって、視程が著しく悪くなる点にあります。

飛行機の運航では大前提として、パイロットが目視により滑走路を確認しなければ、着陸を継続してはいけない決まりになっています。

具体的には、着陸しようと空港に近づきながら高度を下げる過程で、ある特定の高度(進入限界高度)まで降下した時点で滑走路が見えている必要があるのです。

この特定の高度は空港の進入(着陸)方式ごとに空港高から600ftや200ftなど、それぞれ異なるのですが、専門用語でランディングミニマと呼ばれています。

進入限界高度のイメージ

霧が発生すると空港に近づいても滑走路が見えない!

では霧が発生するとどうなるでしょうか?

そもそも霧とは、簡単に言えば地面付近で雲が発生する現象のことを指し、地面付近の視程が悪い状態になります。

と言うことは、飛行機が着陸しようと地面付近まで滑走路に近づいても、パイロットはランディングミニマまでに滑走路を確認することが困難になります。

これが霧によって着陸が不可となる原因なのです。

霧により着陸不可のイメージ

最終降下開始前に視程が悪いと分かれば、その時点で着陸不可!

そんなわけで飛行機の運航では、空港周辺の視程に関する情報は非常に重要なのですが、パイロットはその情報を上空(巡航中)で確認することができます。

航空業界には、特定の空港の実況天気を伝えるMETARと呼ばれる通報があるのですが、METARには空港周辺の視程が何mであるのか、数値で示されているのです。

下はMETARの一例で、細かい説明は省略しますが、0200や1100VP2000Dと言った数値が視程の情報を表しています。

RJAA 051900Z AUTO 22001KT 0200 R16R/1100VP2000D R16L/P2000N FG FEW026 BKN027 BKN190 09/09 Q1019 BECMG 2000 BR RMK A3010

視程が悪い原因が霧によるもの(他にスモッグや黄砂などが考えられる)と分かる場合には、FG(霧)やBR(もや)のように記載され、パイロットや空港の運航管理者に周知されるようになっています。

このように最終降下前に視程の値が分かるので、実際に着陸を試みなくとも、ある程度着陸できる見込みがあるか否かを判断することが可能なのですが、これは大きなポイントです。

先ほどランディングミニマの話をしましたが、実は最終降下に至るその手前の特定の地点で、METAR等で通報される視程値が基準以下の場合、空港への進入※すらしてはならない決まりなのです。
※進入とは簡単に言えば、飛行機が最終降下を開始して滑走路に着陸を試みること。

この基準値もまた、空港の進入方式ごとに決められていて、これもランディングミニマの1つなのです。

実は航空会社の運航情報で、そもそも飛ぶ前に霧による欠航の可能性を伝えている裏では、METAR(実況天気)やその後の予想天候情報による視程の情報が大きな判断基準になっているのです。

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霧が発生するメカニズム。霧は5種類に大別されます

一口に霧と言っても、発生するメカニズムは様々ですが、基本的には水分を多く含んだ水蒸気が地面付近で冷やされると霧が発生します。

水蒸気の発生源や冷やされ方の違いによって、一般に霧は以下の5種類に分類されています。

放射霧
晴れた日の夜間、放射冷却※によって地上付近の気温が下がることによって発生。内陸地や盆地などで起こりやすい。
※地上の熱が熱放射となって宇宙空間に逃げるために起こる温度低下

移流霧
水蒸気を多く含んだ温かい気団が、冷たい海域を通過する際に冷やされ、地上まで運ばれることで発生。

蒸気霧
温かい海域(水分の蒸発量が多いエリア)の上空に冷たい空気が通過する際に、蒸発した水蒸気が冷やされて霧が発生。

滑昇霧
山などの斜面に沿って空気が上昇する際、周囲の気圧が下がって空気が膨張する。膨張の際に起こる温度低下(断熱膨張)によって霧が発生。

前線霧
冷たい気団と暖かい気団がぶつかる際、温かい気団が冷たい気団の上に乗り上げるために上昇気流が発生。雨となって落ちた水滴が冷たい気団で冷やされることにより霧が発生。

霧の発生イメージ

霧が発生しやすい空港はどこ?理由も考察します

霧が飛行機の運航に与える影響と霧の発生メカニズムが分かったところで、国内の空港で霧が発生しやすい空港の紹介と、その原因について考えてみたいと思います。

成田空港(放射霧)

まず最初は成田空港です。

成田空港は日本の国際線における主要空港で、運航不可となると社会への影響が大きいことから、霧による運航障害はニュースでも度々報道されることがあります。

成田空港で発生する霧の主要因は、放射冷却による放射霧であると考えられます。

周辺に印旛沼という沼があるように、元々湿地のような地域でやや内陸にあるため、放射霧が発生しやすいのだと想像されます。

また、海岸線から比較的近い地域でもあり、条件によっては移流霧の影響もあると言われているようです。

成田空港の位置

釧路空港(移流霧)

釧路と言えば霧の摩周湖が思い浮かぶように、釧路市郊外にある釧路空港も霧が発生しやすい空港として有名です。

釧路の場合は移流霧で説明ができそうです。

空港の南側をオホーツク海由来の冷たい海に面しており、そこに南側から太平洋の温かい空気が流れてくる際に、冷やされて霧が発生する様子が想像できます。

釧路の名所と言えば釧路湿原もあるように、そもそも湿りがちな土壌であることも、やはり霧が発生しやすい条件として影響が大きいと考えられます。

釧路空港の位置

青森空港/広島空港/熊本空港(滑昇霧)

続いて、青森空港、広島空港、熊本空港をまとめていますが、これらの空港に共通する点は、周辺と比較して一段高い位置に空港がある点です。

すなわち、地形に沿った上昇流によって滑昇霧が発生しやすい地形と言えます。

青森空港を北側から青森空港を北側から
広島空港を北西側から広島空港を北西側から
熊本空港を西側から熊本空港を西側から

熊本空港の場合、東側に標高の高い阿蘇山がそびえている点と、東寄りの風が吹くケースが多い関係から、通常はRWY07(西から東)に離着陸する運用が基本です。

しかし、稀に西寄りの風が吹く場合、有明海から水分を含んだ空気が、空港手前で霧となって視程を低下させるため、運航への障害となります。

その場合でもやはり阿蘇山との関係から、基本的にRWY07運用が優先されますから、やや背風(追い風)気味に低視程の中を着陸しなければならない状況となり、着陸を難しくすることが想像されます。

熊本空港の位置

青森空港も同じような状況で、青森市南側の山地に空港があり、北側から南側に飛行するRWY24で離着陸するのが基本です。

青森空港でも、陸奥湾に面した北寄りの風が吹くと熊本空港同様に霧が発生しがちですが、RWY24があくまで優先されるのです。

青森空港の位置

霧が発生しやすい空港にはILSカテゴリーⅢが設定されている

先ほど挙げた霧が発生しやすい空港では、霧が発生しても就航率を維持できるように、何らかの対策が必要と言えます。

その最もたる施策が、ILSカテゴリーⅢによる計器着陸方式の導入です。

ILSとは、滑走路から発せられる電波のガイドラインに飛行機を乗せることで、滑走路延長線上を飛行機が正確に飛行し、着陸を可能とする装置のことです。

ILSを使用した進入(着陸)方式であっても、やはり最終的に滑走路を視認できないといけない高度の基準(ランディングミニマ)があります。

ただし、カテゴリーⅢと呼ばれる方式ですと、飛行機が基準に適合する自動着陸機能(オートランディング)を有しており、適切な運航要領が定められていることが前提ですが、最後まで滑走路が見えなくとも着陸することが可能なのです。

日本でILSカテゴリーⅢの方式が設定されている空港は以下になりますが、国内の主要空港のほかは、先に挙げた霧による視程障害が発生しやすい空港に導入されていることが分かります。

<ILSカテゴリーⅢによる進入方式が設定されている空港>(2022年4月時点)

・新千歳空港 RWY19R
・釧路空港 RWY17
・青森空港 RWY24
・成田空港 RWY16R
・羽田空港 RWY34R
・中部国際空港 RWY36
・広島空港 RWY10
・熊本空港 RWY07

実際にカテゴリーⅢでなければ運航できない条件の日は、年間を通じても数えるほどしかないそうですが、現状で欠航を減らすための最も効果のある対策なのです。

終わりに

いかがでしたか?

霧による運航への影響は、悪天候による運航障害と言ってしまえば単純ですが、運航の裏事情や気象のメカニズムを踏まえると、非常に奥深い事象と言えるのです。

飛行機を頻繁に利用する方であれば、ひょっとしたらこれまでに霧の影響でスケジュール変更を余儀なくされた経験があるかもしれません。

仮に今後そのような場面に遭遇した場合でも、運航の裏側や気象に関する知識が多少でもあれば、状況を理解・納得して飛行機を利用することができるかと思います。

本記事がその際の参考になれば幸いです。

以上!

POSTED COMMENT

  1. のぶお より:

    初めまして。いつも勉強させていただいております。一点確認ですが、ILSカテゴリーⅢによる進入方式の表において、広島空港のCATⅢがRWY28となっておりますが、正しくはRWY10でよろしいでしょうか。今後参照される方のためにと思い指摘させていただきました。今後とも宜しくおねがいいたします。

    • ころすけ より:

      のぶおさん

      おっしゃる通りですね、ご指摘ありがとうございます!
      いつも見ていただいているとのこと、大変嬉しい限りです。
      今後とも当ブログを宜しくお願いいたします!

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