こんにちは。ころすけです。
みなさんは、飛行機の翼の取り付け角度に注目したことはあるでしょうか?
実は、国内で見られる飛行機のほとんどは、根元から先端に向かって反り上がるような角度で翼が取り付けられているのです。
もちろん、これにはちゃんと理由があるのです。
今回は、飛行機の翼の取り付け角度について、その理由や秘密を解説したいと思います。
ほとんどの飛行機の翼には上反角がついている
下の画像をご覧ください。
これはエアバスのA350を正面から見た画像ですが、翼が先端に向かうにつれて、地面から離れるような角度で取り付けられていることが分かります。
このような取り付け角度のことを上反角と言うのですが、A350に限らず、ほとんどの飛行機で同様に上反角が付けられています。
もちろん、この上反角は意味もなく付けられているわけではありません。
飛行機は飛行中、気流の乱れによって、頻繁に姿勢を乱されます。
このような外部の気流の乱れを擾乱と言うのですが、飛行機が安定して飛行するためには、擾乱を受けても姿勢が大きく乱されないことが重要なのです。
実は、上反角には「上反角効果」と言って、外部から擾乱を受けても飛行機の姿勢を安定させる働きがあるのです。
上反角効果とは?
上反角効果とは、機体のロール安定性を高める働きをするもので、機体が気流に対して滑る状態を利用しています。
順を追って説明しましょう。
まず、「機体が気流に対して滑る」とはどういうことでしょうか?
下の画像で、左の図では飛行機は気流を真正面から受けています。
一方で右の図では、飛行機が気流を斜め方向から受けていますが、このように機軸が気流に対して斜めになっている状態を「機体が滑っている」と表現するのです。
この滑っている状態の飛行機に上反角が付いている場合、上反角効果が発生するのですが、それを説明したものが下の図です。
気流を斜め方向から受けるということは、飛行機に対して真横に流れる気流の成分があることになります。
左の図を見ると分かるように、この時に風上側の翼は風下側の翼に比べて、気流を下側から受ける角度が大きくなることが分かります。
飛行機の翼は、気流を下側から受ける角度(迎角)の大きさに応じて揚力を発生させるのですが、この場合は機体が滑ることで風上側の翼の方が揚力が大きくなることを意味します。
こうして左右の翼に揚力の差が生まれると、揚力差によって飛行機は横に傾く(ローリングする)動きをします。
このように、機体が滑ることによって、結果的に機体をロールさせる働きをするのが上反角効果なのです。
では、これが飛行の安定性を高めるとは、どういうことなのでしょうか?
飛行機は安定して飛行している時、揚力と重力が釣り合った状態になっています(下図左)。
飛行機が擾乱を受けて機体が傾くと、翼に垂直に発生している揚力も傾きます。
揚力が傾いた分だけ重力と釣り合わなくなるので、機体はやや重力に引っ張られるように動きます(下図右)。
機体が下に動くと相対的に下側から風を受けるようになりますが、機体は傾いているので、下側からの相対風により機体に対して横風成分(滑り)が発生します(下図左)。
すると、滑りの発生により上反角効果が働き、最初の傾きとは逆方向に機体を傾ける力が発生します。
これにより、飛行機が擾乱で受けた姿勢の乱れが自動的に修正されるのです。
このように、擾乱によって飛行機の姿勢がある方向に乱されても、自然に逆方向の動きが発生して元の姿勢に戻る性質のことを「静安定性がある」と言います。
上反角は機体のロール運動(横に傾ける動き)に対して静安定性を高めるための工夫なのです。
ロール安定を与えるのは上反角だけではない?高翼機があえて上反角を付けない理由。
ロール安定性を高めるための上反角ですが、飛行機の中には上反角を付けていない、もしくはほとんど付いていない機体も存在します。
旅客機ではDHC-8-Q400やATRなどの、高翼機と呼ばれる飛行機が上反角をほとんど持たない代表例です。
高翼機というのは、翼が胴体の上部に接続している機体のことを指します。
反対に、先ほどのA350やB777などは、翼が胴体の下側に接続した低翼機と呼ばれます。
下の画像はQ400のものですが、見てのとおりほとんど上反角が見られず、地面に対して翼が真っすぐであることが分かります。
その理由は、高翼機は上反角を付けずとも、元々ロール方向の静安定性を高める要素を持っているからです。
下の図を見ると分かるように、高翼機は重心に対して胴体の重みが下側に作用しますから、機体が傾いた際に胴体の重みが自然と傾きを戻す方向に作用します。
いわゆる起き上がりこぼしと同じ効果があるのですが、これも上反角効果と同じくロール方向の静安定と言えます。
このように高翼機では、他に同等の安定性をもたらす仕組みがあるため、敢えて上反角を付ける必要がないのです。
敢えてロール安定性を悪くさせる?下半角を持つ機体。
機体形状自体が高いロール安定性をもたらす高翼機ですが、上反角とは反対に下半角を持つ機体も存在します。
下半角を持つ機体としては、航空自衛隊のC1型輸送機や、米軍のB52といった輸送機に多く見られます。
下半角は上反角とは反対向きに翼を取り付けるわけですから、当然、上反角効果とは逆の効果が発生します。
つまり、下半角を持つ機体では、敢えてロール安定性を悪くしているのです。
その理由は、下半角を付けないと静安定性が強すぎてしまい、逆に安定性が悪くなってしまうからです。
下の図をご覧ください。
擾乱によって機体が傾いてしまった場合、高翼機では自然と傾きを戻す方向に力が働きます。
しかし、この復元力が強すぎると、戻した際に中立の位置を超えて、今度は逆に反対方向に機体が傾いてしまいます。
このような場合は敢えて復元力(静安定性)を悪くするために、下半角を付けるとちょうどバランスが取れるのです。
輸送機は全体の重量バランスで見て胴体部分の重量が大きいですから、このように下半角を付けた機体が多いと考えられるのです。
終わりに
いかがでしたか?
何気なく付いている飛行機の翼ですが、取り付け方1つとっても非常に興味深い理由が隠されているのです。
飛行機にとって静安定性という概念は非常に重要で、ロール(横の傾き)だけでなく、ピッチ(機首上げ下げ)やエンジン推力と抗力の関係にも静安定性が考慮されています。
今後も飛行機にまつわる雑学や航空力学の話を紹介していきますので、興味がありましたらご覧になってみてください。
以上!