以前に比べ、技術の進歩により飛行機の燃費は格段に良くなってきています。
飛行機の燃費を向上させるポイントには、機体形状による空力的な改善、使用する構造部材による重量軽減などがありますが、もう一つ重要なポイントとしてエンジンの性能向上が挙げられます。
飛行機のエンジンなので、一般的にはジェットエンジンのことを指しています。
しかしこのジェットエンジン、性能(燃費)が向上してきたと言っても、何がどう変わって性能が向上したのか、いまいちよく分からないと思いませんか?
もちろん、ものすごく専門的で難しい仕組みが改良され、性能が向上している部分もあります
ですが、旧世代のジェットエンジンと新型のジェットエンジンを比較すると、最も大きく改善された部分は意外に単純な理屈で説明できるものだったりするのです。
昔と今でジェットエンジンがどのように異なり、どのような理屈で性能(燃費)が向上しているのか、解説したいと思います。
燃費が良い最大の理由はジェット噴射のさせ方の違い
ジェットエンジンは前方から吸引した空気を内部で燃焼させて、後方に噴射することで推進力を得るエンジンです。
すなわち、吸った空気を後方に噴射する反作用で推進力を得ているのです。
この基礎原理自体は今も昔も変わることはありません。
ですが、その反作用をどのようにして受けるかという点が、今のジェットエンジンと昔のジェットエンジンでは大きく異なるのです。
ジェットエンジンの推力=押し出した空気量×噴射速度
そもそも後方に押し出した反作用(推力)の大きさは何で決まるのでしょうか?
例として水泳の平泳ぎを考えてみましょう。
平泳ぎも手や足で水を後方に押し出す反作用で前に進んでいるのですが、より力強く前に進もうと思ったらどのようにするのが良いでしょうか?
一般には以下の点に注意すべきと言われています。
・手や足を大きく使って水をかく
・手や足を素早く動かして水をかく
手や足を大きく使うと、それだけ多くの水をかくことができるので推進力は上がります。
また、手や足を素早く動かして水をかくことでも推進力は上がります。
このように、物体を後方に押し出した時の反作用は、押し出した物体の量と押し出した速さに依存するのです。
ジェットエンジンの原理もこれと全く同じで、以下のような式で推力は決まります。
ジェットエンジンの推力 = 押し出した空気の量 × 噴射速度
この原理を抑えた上で、次に昔のジェットエンジンと、最近のジェットエンジンの違いについて見ていきましょう。
昔のジェットエンジンはとにかく速く噴射する
上の図は、ジェットエンジンの作動原理を簡単に図示したものです。
ジェットエンジンは前方から吸い込んだ空気を圧縮機で圧縮し、その後方にある燃焼器で燃料とともに燃やすことで高速のジェット噴射を生み出しています。
初期のジェットエンジンでは、この高速のジェット噴射をそのまま用いることによって、推力を得ていました。
すなわち、先ほどのジェットエンジンの推力の式で言えば、噴射速度を大きくすることで必要な推力を生み出していたのです。
ジェットエンジンの推力 = 押し出した空気の量 × 噴射速度
初期のジェットエンジンでは噴射速度を大きくして推力を得ていた
最近のジェットエンジンはゆっくり大きく噴射する
一方で最近のエンジンでは、先ほどのジェット噴射が当たる位置にタービンを配置し、エンジンの最前方にはタービンと同じ軸で回転するファンが取り付けられています。
ジェット噴射がタービンに当たると、その力で前方のファンが回転する仕組みになっているのです。
このようにすると、速い噴射のエネルギーのほとんどはタービンとファンを回すためのエネルギーとして使われて弱まってしまいますが、代わりにファンが回ることによってファンが押し出す新たな噴射が生み出されることになります。
この新たな噴射は速度こそ遅いですが、ファンが大きいため押し出す空気の量は速い噴射よりも格段に大きくなります。
推力の式で説明すると、噴射速度の代わりに押し出す空気の量を大きくして推力を得ることになるのです。
ジェットエンジンの推力 = 押し出した空気の量 × 噴射速度
最近のジェットエンジンでは噴射速度の代わりに押し出す空気の量を大きくしている
ゆっくり大きく噴射するとエネルギーロスが小さい
では、同じ推力を得る場合であっても、噴射速度を大きくした場合と押し出す空気量を大きくした場合では、どちらが効率が良いのでしょうか?
正解は押し出す空気量を大きくした場合です。
実は空気のような流体には、周りの流体に比べて速度の違う流体がある場合、その速度差によって抵抗を受けてしまうという性質があるのです。
なので噴射の速度を速くした場合、周りの空気との速度差によって抵抗が発生し、思ったほど推力を得られない結果となってしまうのです。
すなわち、同じ推力を得るために余計なエネルギーが必要になる=燃費が悪くなることを意味します。
ジェット噴射が速いと、周りの空気との間で抵抗が生まれて効率が悪くなる
最近の飛行機のジェットエンジンはどれもファンが大きい
以上のような理由から、最近の飛行機ではどれもファンを大きくしたジェットエンジンが採用されています。
ファンの大きさは年々大きくなっていますが、こうすることでより噴射する空気の量を大きくでき、噴射速度を小さくすることができるからです。
上のダグラスDC-8は1950年代の飛行機ですが、エンジンを見ると細長い筒のような形状になっていることが分かります。
この時代からすでに前方にファンを取り付けるジェットエンジンが採用されていましたが、まだそれほど大きなファンではなく、速いジェット噴射で推力を得る割合の大きいエンジンでした。
最新の787のような機体では、ファンが大口径化して樽のような形に変貌しているのが良く分かります。
このようなエンジンでは、推力のほとんどがファンによる大きな空気量の遅い噴射によって生み出されています。
ジェット噴射がゆっくりだと騒音も小さい
押し出す空気の量を大きくしてジェット噴射の速度を遅くすると燃費が良くなると説明しましたが、実はそれ以外でも利点があります。
このようなエンジンでは騒音も小さくできるのです。
先ほど、速い噴射では周りの空気との間の抵抗が大きくなると説明しましたが、抵抗が大きいということは、ジェット噴射の振動が周りの空気により伝わることを意味します。
音は空気の振動が元になりますから、
速いジェット噴射は周りの空気との間の抵抗が大きい
周りの空気に振動として伝わる
伝わった振動が騒音となって届く
の理屈が成り立ちます。
従って、周りの空気との干渉が小さい最近のジェットエンジンは、騒音を小さくできる点でもメリットがあるのです。
ジェットエンジンの口径の大きさに注目してみよう
ファンのついたジェットエンジンで、推力となる速い噴射と遅い噴射の割合のことをバイパス比と言います。
一般にバイパス比が大きければ大きいほど燃費が良いとされているのですが、それはバイパス比が大きいほど遅い空気の流量が大きくなるからです。
バイパス比が大きいということはファンの径が大きいことも意味しますので、外観からでも見比べることができます。
B787やA350といった最新型の機体では、とりわけ他の機体と比べて口径の大きなエンジンがついているのが分かります。
エンジンの口径の大きさは、飛行機の燃費の良さを推し量る上で着目点の一つになるのです。
空港で飛行機を見る際、エンジンの口径の大きさにも注目してみてはいかがでしょうか?
以上!