こんにちは。ころすけです。
TCAS(ティーキャス)という装置を聞いたことはあるでしょうか?
TCASは日本語名では、「航空機衝突防止装置」と言い、航空機同士の衝突を防止するための装置です。
航空機同士の急接近(ニアミス)が発生すると話題になるので、聞いたことがあるという方も多いかもしれません。
ですが、TCASがどのような仕組みなのかと問われれば、よく分からないという人が多いのではないでしょうか?
本記事ではTCASについて詳しく解説します。
TCAS(航空機衝突防止装置)とは?
TCASは接近する他機の位置や、衝突回避操作を発する装置
TCASは略語で、正式にはTraffic Alert and Collision Avoidance Systemという名称です。
航空業界でTraffic(トラフィック)とは、飛行中や地上走行中の機体のことを指し、他機位置に対して警告と衝突を回避するという意味です。
TCASではなくACAS(Aircraft Collision Avoidance System)という言葉が使われる場合がありますが、ACASは衝突防止装置の概念の名称で、実際に実用化された機器名称がTCASです。
TCASは電波を飛ばして周辺の他機の位置をモニターし、距離が近い他機に対しては注意喚起の位置情報を、衝突の恐れがある他機については回避操作を発するのです。
![近接する他機に対する警報イメージ](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/21fda718d1fb23012e6906fbdfbb1107.png)
![衝突の恐れがある他機に対する警報イメージ](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/e749703b580b0cc91b20815e2c1f9ab3.png)
TCASシステムが表示する情報
TCASシステムの情報は、パイロットの正面にある2枚のディスプレイに表示されます。
まず1枚目がND(Navigation Display)で、NDには経路上の機体の位置やチェックポイントからの距離が表示されるのですが、ここにTCASが検知した周辺の他機情報が重ねて表示されます。
![ND上のTCAS表示](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/34e986f9e4b86b332f516f9e3bbb2007.jpg)
上の図で、色の付いた□や〇のシンボルがTCASが検知している他機の情報です。
シンボルの脇に表示される数値や矢印は、自機から見た相対的な動きを表しています。
↑であれば自機から見て上昇、↓であれば降下しており、+30であれば自機の上方3000ftの高度にいることを表しています。
そして一番重要なのが、シンボルの色と形です。
シンボルの色と形は、緊急度の度合いによって4段階の警報を表しています。
RA (Resolution Advisory):■
・航空機同士が数十秒内に衝突の恐れがある
・コクピット内で警報音が鳴る
・Primary Flight Displayに回避操作ガイダンスが表示される
TA (Traffic Advisory):●
・航空機同士が数十秒内(RAよりは余裕がある)に衝突の恐れがある
・コクピット内で警報音が1回鳴る
Proximate Traffic:◆
・衝突エリア内ではないが、近接している
・警報音なし
Other Traffic:◇
・衝突エリア内ではないが、近接している(Proximate Trafficより離れている)
・警報音なし
つまり、RAやTAの警報が発せられる場合が危険度が高いことを意味しているわけです。
さらに、RAが発せられる場合は、PFD(Primary Flight Display)に回避操作ガイダンスが表示されます。
![PFD上のTCAS表示](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/TCAS-PFD.png)
PFDは機体の傾きや機首角度といった姿勢を表示する計器で、真ん中の黒いシンボルが飛行機(翼と胴体)を表しています。
RAが発せられると、衝突回避のために保つべき姿勢や進路の範囲が表示されるのです。
機種によって若干表示は異なるかと思いますが、上の例では2つの赤色の台形で挟まれた範囲に姿勢と進路を維持するようにガイダンスが出ています。
TCASが他機と互いの位置を知る仕組み
航空機同士で電波のやり取りを行います
TCASは航空機同士がそれぞれ電波を送受信することで、互いの位置を検知する仕組みになっています。
電波の行き来に掛かる時間から他機との距離が分かり、さらに電波に高度情報を載せることで、互いの相対的な距離を把握することができるのです。
![TCASで互いに電波をやり取りするイメージ](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/40d06f0123262882147ebf3b423ab66c.png)
TCASはトランスポンダーの拡張機能と言える
実はTCASの仕組みは、管制レーダー画面上で管制官が航空機の位置を把握する仕組みと同じです。
管制レーダーでは航空機から跳ね返ってくる電波と、電波に乗せられた便名や高度情報を取得することで、航空機の位置を識別しています。
この便名や高度情報を応答する装置をATCトランスポンダーと言うのですが、実はTCASもATCトランスポンダーと同じ周波数の電波を使用しています。
いわばTCASは、ATCトランスポンダーの拡張機能と見ることができるのです。
![ATCトランスポンダーとTCASの仕組み](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/5051cc7118f84fd041b401302044a3ba.png)
このような理屈から、TCASとトランスポンダーで電波送受信用のアンテナを共有している機種もあるのです。
![TCAS/トランスポンダーのアンテナの画像](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2020/08/GPSXPDRアンテナ1.jpg)
回避操作はそれぞれ逆方向のガイダンスが表示される
TCASがRA(回避警報)を発する場合、当然警報は片方の機体だけでなく、双方の機体に出されることになります。
その際、回避操作の方向が反対でなければ、衝突を回避することができません。
そのため、TCASのRAによる回避操作ガイダンスは、お互いが反対向きの操作になるようになっています。
具体的には、一方が上昇操作であるならば、もう一方は降下操作のガイダンスが出るのです。
![互いに反対向きの回避操作ガイダンスのイメージ](https://bukiyoublog.com/wp-content/uploads/2021/02/d58f7be89be1f86122f138da6606d24e.png)
旅客機はTCASを装備しなければならない!
TCASは航空機同士がお互いに電波を送受信して機能する装置なので、双方が装備していないと意味がありません。
特に大型の航空機に対しては安全上の理由のため、TCASを装備することが航空法で義務付けられています。
航空法60条(航空機の航行の安全を確保するための装置)
・航空運送事業の用に供する航空機は航空機衝突防止装置を装備しなければならない。
・第二世代TCAS(TCASⅡ)である必要がある。
・上記は客席数19または最大離陸重量5,700kgを超えるジェットエンジン機に限る。
航空運送事業とは、いわゆるエアラインや貨物機事業のことを指しています。
TCASは開発された世代ごとに、対応している機能が異なるのですが、以下のとおりです。
TCASⅠ:RA機能なし。
TCASⅡ:RA機能あり(回避ガイダンスは上下方向のみ)
TCASⅢ:RA機能あり(回避ガイダンスは上下方向と左右方向)
つまり現在の旅客機では、上下方向のRAガイダンスに対応したTCASの装備が義務付けられているのです。
TCASⅢはまだ実用化の段階に至っていないようですが、実用化がされれば今後、搭載義務が発生するものと思われます。
終わりに
いかがでしたか?
少々難解だったかもしれませんが、TCASはなかなか奥が深い装置なのです。
実はエアラインの旅客機は、TCASのRAによって回避操作を行った場合は、航空局にその旨を報告しなければなりません。
航空局のウェブサイトに行くと、航空輸送の安全にかかわる情報として報告事例が公開されていますので、興味があればご覧になってみてはいかがでしょうか?
以上!