飛行機

サークリングアプローチって何ですか?

こんにちは。ころすけです。

突然ですが、みなさんは飛行機の着陸と言うとどのような光景を思い浮かべますか?

滑走路の延長線上に飛行機のランディングライトが見え始めて、それが徐々に近づいて大きくなりながら真っすぐ滑走路に着陸する。

このような光景を思い浮かべるのではないでしょうか?

一般的にこのような着陸の仕方は「ストレートインランディング」と呼ばれるのですが、実はこれ以外にも、「サークリングアプローチ」と呼ばれる少々変則的な着陸方法があるのです。

今回はこのサークリングアプローチについて解説したいと思います。

サークリングアプローチとは?

特にジェット旅客機が着陸する際には、まず空港から十分離れたところで滑走路の延長線上に乗り、そのまま真っすぐ着陸する手法が一般的です。

このような着陸の仕方をストレートインランディングと言います。

ストレートインランディングのイメージ

一方でサークリングアプローチでは、途中まではストレートインランディングと同じように滑走路に向かって真っすぐ降りてきます。

ですが滑走路の手前まで降下したところでそのまま着陸せずに、一旦滑走路の脇(ダウンウインドレグ)に向かうように針路を変えて、滑走路の反対側に回り込むように着陸するのです。

サークリングアプローチのイメージ

このように滑走路の手前で方向を変え、反対側の方向に着陸するようにぐるりと回り込む(サークリングする)方式をサークリングアプローチと言うのです。

どのような場合にサークリングアプローチを行うの?

通常の着陸と比べると変則的なサークリングアプローチですが、どのような場合に実施されるのでしょうか?

まず大原則として、飛行機は向かい風に向かって離着陸するのが基本です。

飛行機が揚力を発生させるには空気の流れに対して所定の速度が必要ですから、追い風を受けて離着陸する場合、地面に対する速度が速くなる分だけ長い滑走路が必要になるからです。

そのためほとんどの空港では、滑走路に対してどちら向きに風が吹いていても運航に支障がないように、滑走路のどちら側にもストレートインランディングの進入方式が設定されています。

両側に進入方式があるイメージ

ところが空港によっては、滑走路の片側の延長線上に山などの障害物があって、一方側にしか進入方式を設定できない場合があります。

このような空港で風向きの関係上どうしても進入方式が設定されていない側から着陸する必要がある場合に、サークリングアプローチが実施されるのです。

片側にしか進入方式がないイメージ

サークリングアプローチの実施例を見てみよう!

ここからは、実際にサークリングアプローチが行われた例をいくつか見ていきましょう。

サークリングアプローチで有名な空港としては、大阪伊丹空港でのRWY14(南風)への着陸がまず挙げられます。

下の図はRWY32(北風)に向かって着陸する進入方式ですが、伊丹空港ではこのようにRWY32側への進入方式はありますが、RWY14側への進入方式がありません

従ってRWY14(南風)で着陸する際には、RWY32への進入からサークリングアプローチになるのです。

伊丹空港RWY32アプローチの例

下の図は実際にRWY14に着陸した便の軌跡ですが、RWY32に着陸するかと見せかけて滑走路手前で左側に針路変更、反対側に回り込んでRWY14に着陸しています。

伊丹空港でのサークリングアプローチ実施例

また図をよく見ると、伊丹空港の北西側は山がちになっていることも分かります。

北側の山に阻まれて、伊丹空港ではRWY14にストレートインで着陸する進入方式を設定できないのです。

伊丹空港以外にも例を挙げて見ていきましょう。

続いては秋田県の大館能代空港です。

下の画像は大館能代空港のRWY29(西向き)に着陸した際の軌跡です。

大館能代空港も、空港の東側は山がちになっていることが画像からも分かりますね。

大館能代空港でのサークリングアプローチ実施例

ここでも同じように、途中まで東向きのRWY11に着陸する方式で滑走路に近づき、途中から空港の周りをぐるっと回り込んで反対側のRWY29に着陸しています。

大館能代空港RWY11アプローチの例

実を言うと、大館能代空港のRWY29側の着陸には、厳密に言えばストレートインで着陸する方式が設定されています。

ですがRWY29側の着陸方式は少し特殊で、実施するためには特別な運航許可が必要になります。

本例の便で使用されたANAのA320はこの許可を得ていなかったため、サークリングアプローチを実施しなければならなかったというわけです。

最後の例は長野県の松本空港で、ここも空港の南側が山に阻まれています。

松本空港でのサークリングアプローチ実施例

この例では南側から空港に近づいた後、わざわざ空港北側の開けたエリアに出てRWY18(南向き)で進入したのち、さらに空港の周りをサークリングしてRWY36(北向き)に着陸しています。

松本空港RWY18アプローチの例

実は松本空港にも大館能代空港と同じように、少し特殊な運航許可が必要ですが、RWY36にストレートインで着陸する方式が2020年の3月から新たに設定されています。

下の画像がその方式で、山の低いところを縫うようにして滑走路に着陸するため経路がぐにゃぐにゃしていますが、先ほどのようにサークリングアプローチを実施する必要はありません。

松本空港RWY36アプローチの例

松本空港に就航しているのはフジドリームエアラインズ(FDA)ERJ175ですが、FDAのERJ機はこの特殊な運航許可を取得しています。

下の画像は新しい方式でRWY36にストレートインランディングした際のものです。

松本空港でのRWY36ストレートインランディング実施例

最近では運航技術の進歩によって、従来は山があるために進入方式を設定できなかった着陸方向に、山を避けて着陸する方式が新たに設定される例が増えているのです。

松本空港ではRWY36側に着陸するための進入方式が設定され、就航機材もその方式の運航許可を取得していることから、今後はわざわざサークリングアプローチを実施してRWY36に着陸するケースはなくなると予想されます。

またサークリングアプローチは視程(視界)が悪くなると実施できなくなるという弱点もありますし、パイロットの技量も要求されます。

これらを併せて考えると、将来的にサークリングアプローチは実施する機会がどんどん減っていく着陸方式と言えるのです。

終わりに

いかがでしたか?

今回紹介したサークリングアプローチですが、伊丹空港ではレアな着陸方式として、特に航空写真家の間ではよく知られた着陸方式になっているようです。

サークリングアプローチは空港のすぐ近くを飛行機が通過して、さらに低高度で旋回もするため、見ごたえのある光景を目の当たりにすることができるのです。

もしも興味がありましたら、サークリングアプローチがよく実施される空港を狙って、飛行機を眺めに行ってみてはどうでしょうか?

 

以上!

POSTED COMMENT

  1. pewee007 より:

    初めまして。フライトシムやってます。非常にありがたく拝見させております。

    いろいろわからないことが多く,質問先もわからない状態でした。
    参考にさせていただいてます。

    質問してよろしいでしょうか。

    サークリングは、ビジュアルアプローチの一種なのですか。

    この場合、ISLアプローチとかRNAV(GNSS)アプローチができないと思うのですが。

    さらに、アプローチチャートでは(正規のアプロt-の場合)細かく規定されているのに、サークリングやビジュアルアプローチではおおざっぱ(失礼)なアプローチが許容されているのでしょうか。

    よろしくおねがいします。

    • ころすけ より:

      こんにちは!コメントありがとうございます!
      サークリングとビジュアルアプローチは別物です。
      サークリングは途中までILS進入やRNAV進入で降下した後、滑走路を視認できた時点で滑走路脇にそれて、反対向きの滑走路に降りる方法になります。
      なので、進入方式自体はILS進入やRNAV進入になります。
      アプローチチャートをお持ちであれば、チャートに記載のLanding Minimaをご覧ください。
      通常の進入方式のMinimaの中にCIRCRINGと書かれた欄があり、進入限界高度(MDA)や視程(VIS)が記載されていると思います。
      このことからも、サークリングアプローチが通常のILS進入やRNAV進入の一部であることが分かります。
      例えば同じILS進入であっても、サークリングで降りる場合はストレートインで降りる時に比べて、MDAやVISの限界が厳しく設定されています。
      サークリングを行う場合の周回経路幅などは確かにきっちり描かれていませんが、周回進入区域という設定があって、一般的な速度の旅客機であれば2NM以内でなければならないはずです。
      一方でビジュアルアプローチはILS進入やRNAV進入などによらず、一部、または全部を省略する方式で、ATCからも「Cleared for Visual Approach」と許可が出ます。
      こちらはパイロットの責任下において自由に経路が設定できますが、通常はTraffic Patternを飛行することになると思います。
      この場合は空港のローカルルールとしてTraffic Patternで守るべき高度などがAIPに記載されている場合がありますので、そちらに従う必要があります。

  2. ひろぽん より:

    ころすけさまのお書きの通りです。
    ただ、ILS誘導などからから外れて有視界、マニュアルで着陸すると言うことがコメ主さまの言う「ビジュアルアプローチ」とすれば、そうなのかもしれません。
    伊丹14は六甲山系が間近にあるため、見た目はセクシーですが、あまり経験がないパイロットだと緊張すると思いますね。
    あと、昭和50年くらいの話ですが、14Lサークリングのときleft brakeではなくright brakeしたことがありました。今あるかはわかりませんし、機種もYSなので、ビジュアルでのサークリングかもしれませんが、貴重な体験でした。

    • ころすけ より:

      ひろぽんさん

      コメントありがとうございます!
      right brakeですか!チャートを見ると現在、ジェット機はleft brakeしか認められていないようです。
      私も通年の運用に詳しいわけではないですが、いずれにしてもジェット機主体の現在ではかなり稀と言えそうですね。
      ただ伊丹ではプロップ機のQ400も運航されていますし、もしかしたらお目に掛かるチャンスがあるかもしれません。もちろんYSでもアリですね。
      古い時代のオペレーションを知ると、ふと航空機運航の原則を理解することができたり、現在のオペレーションにある固定観念に気が付いたりすることがあります。
      貴重なお話をありがとうございました!

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