こんにちは。ころすけです。
みなさんは空港の滑走路というと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
おそらく「ものすごく長くて平らな道路」というようなイメージをお持ちの方が大半ではないかと思います。
そのイメージは概ね正しいのですが、実は「滑走路には勾配があって、意外と平たんではない」と聞いたらどう思いますか?
滑走路にまつわる雑学を紹介します。
空港の滑走路は意外と平たんではありません
滑走路の素材は多くの場合アスファルトでできています。
空港によってはコンクリートの滑走路もありますが、多くの空港で滑走路はアスファルト舗装だと思ってよいでしょう。
このアスファルトですが、車が走る普通の道路では厚さが数センチほどだそうですが、飛行機が離着陸する滑走路では数十センチ以上という厚さになっているそうです。
このように非常に頑丈に作られている空港の滑走路ですが、実はまったく平たんであるかというとそうではないのです。
経年によって地盤自体が歪んでしまうこともありますし、そもそもの地盤が傾斜している場合などもあって、よくよく見るとわずかに傾斜があるのです。
下の図を見てください。
下の図は羽田空港A滑走路の断面の様子を表した図になっています。
一番標高が高いところは0m地点の20.5ftですが、一番くぼんだ地点は2,060m地点付近の12.0ftになっていて、高低差で言えば8.5ftの差になっています。
8.5ftはメートルに換算すると約2.5mです。
滑走路全体の長さが3,000mありますからこの差はわずかかもしれませんが、住宅1階分ぐらいの高低差があると考えると結構な差だと思いませんか?
0m地点から2,060m地点までの高低差を平均勾配で表すと0.12%となるのですが、これは国内全空港の滑走路と比較すると実は平坦な部類に入ります。
次は中部国際空港の滑走路断面を見てみましょう。
中部国際空港では一番高い標高が0mから445m地点と3,055mから3,500m地点の15.39ftなのに対し、一番低いのは745mから2,755m地点の12.43ftになっています。
もしも0m地点から2,755m地点までの平均勾配で見ると0.03%となり、こちらはかなり平坦に近い滑走路であることが分かりますね。
中部国際空港は埋め立てによって人工的に作られた敷地に滑走路がありますが、このように埋立地にある滑走路はかなり平坦に作られているのが特徴的です。
上の図を見ても滑走路断面の様子が左右対称になっていて、人工的に作られた雰囲気が出ていますよね。
一般に滑走路勾配は滑走路の端から端までで平均した値に注目するのですが、中部国際空港の場合は端から端までですと高低差が0ftですから、勾配は0%ということになります。
日本の空港で最も勾配が大きいのは松本空港と福江空港。高低差では旭川空港。
ここまで見てきた羽田空港や中部国際空港の滑走路は、国内全空港で見てもかなり平坦な部類に入ります。
では、勾配や高低差が最も大きな空港はどこでしょうか?
答えは勾配で言えば松本空港と福江空港、高低差で言えば旭川空港が国内の空港ではナンバー1です。
まず、松本空港の滑走路断面図を見てみましょう。
松本空港では0m地点が2,132ftで、そこから2,000m地点まで右肩上がりの上り勾配になっています。
2,000m地点は2182ftですから高低差は50ftで、勾配にすると0.76%になります。
福江空港も同じく両端の高低差が50ftで、滑走路の長さも松本空港と同じ2,000mですから、勾配の値は同じです。
一方で次の図は旭川空港の滑走路断面図です。
図を見ると、旭川空港も0m地点から右肩上がりに0.75%の勾配が続いている断面になっています。
勾配の値としては松本空港や福江空港よりは小さいですが、滑走路の長さが2,500mと長いので、高低差で見ると61ft、なんと約19mの差があることが分かります。
19mというと、少なく見積もってもビル4階~5階分の高さに相当しますから、相当な高低差であることが分かりますね。
これらの空港の共通点は、いずれも盆地であったり、周囲が山に囲われたような複雑な地形の地域にある点です。
限られた土地を整備して滑走路を敷くわけですから、元々の地形の影響が残ってしまっていると考えられます。
滑走路の勾配は飛行機の運航に影響を与えます
このように思った以上に勾配や高低差がある滑走路ですが、飛行機の離着陸に影響はないのでしょうか?
結論から言うと、影響はあります。
飛行機の運航では、毎運航ごとに離着陸の際に必要な滑走路の長さを確認しなければならないのですが、実はその確認をするにあたって滑走路の勾配をきちんと考慮しています。
では上り勾配と下り勾配でそれぞれどのような影響があるのでしょうか?
順番に見ていきましょう。
上り勾配の場合は離陸時の加速に影響あり
想像していただければわかる通り、上り勾配は坂道を上るわけですから、当然離陸の時に加速しようとすると大きな力が必要になってしまいます。
実際には飛行機の離陸推力は滑走路の勾配によらずほとんどいつも同じ大きさのものを使いますから、離陸速度に達するまでに必要な滑走路が長くなってしまうのです。
逆に飛行機が停止しようとする場合はブレーキの利きが良くなりますから、減速の時に必要な滑走路の長さは短くなります。
離陸の場合は離陸速度まで加速する場合と、離陸を中断してブレーキをかけて停止する場合とで必要な滑走路の長さをそれぞれ算出しないといけないのですが、上り勾配で加速が悪くなる影響の方が大きい場合がほとんどです。
下り勾配の場合は着陸時のブレーキの利きに影響あり
一方で下り勾配は着陸の場合に特に影響が大きくなります。
着陸の場合は当然ブレーキをかけて減速させる必要があるのですが、下り坂になっていると減速するまでに必要な滑走路が長くなってしまうのです。
乾いた滑走路ではさほど問題にならない場合が多いですが、滑走路に雪が積もっていたり滑走路が凍結して滑りやすい状態であったりすると、特に影響が大きく出てきます。
勾配がある値を超えていると飛行機は離着陸すらできません
このように滑走路の勾配は飛行機の離着陸に影響を与えるので、勾配がある値を超えている場合には、その空港での離着陸を禁止するようにパイロットのマニュアルには定められています。
これはどの機種でも同じ値で、±2%の勾配が離着陸可能な限界になっています。
ただし実際には世界の空港を見渡しても、勾配が±1%を超えるような空港でもわずかしかありません。
印象としては9割以上の空港で±0.5%以内の勾配に収まっているイメージになります。
終わりに。もしも離陸前に滑走路の先が見えたら勾配に注目してみよう!
いかがでしたか?
普段飛行機を運航する立場でなければ、滑走路の勾配なんて気にも留めないことだと思います。
そもそも飛行機の窓は横に付いていますから、離着陸しようと機首が滑走路方向を向いている時に先の様子を見ることは難しいですよね。
ですが、一瞬だけ滑走路の先の様子を見るチャンスがあります。
それは誘導路から滑走路に入って、離陸しようと機首の向きを変える瞬間です。
誘導路は大抵滑走路に対して90度方向に伸びていますから、運よく滑走路の先が見える方の窓側に座っていれば、滑走路の勾配の様子を見ることができるかもしれません。
もしも飛行機に乗る際に興味がありましたら、滑走路の勾配がどうなっているか、窓の外を覗いてみてはいかがでしょうか?
以上!