飛行機

飛行中の揺れは予測可能?パイロットが乱気流を予測する方法。

こんにちは。ころすけです。

「飛行機に乗るのが怖い」と思う方は結構いるかと思います。

では「飛行機の何が怖いのか?」と尋ねられたら、「飛行機が揺れるのが怖い」と答える人が多いのではないでしょうか?

飛行機が揺れるのは、基本的に気流の流れが悪いところを飛行している場合です。

揺れをもたらすような気流のことを乱気流タービュランスと言いますね。

乱気流は飛行機にとって有害でしかありませんから、パイロットは何とかして乱気流を避けようと、あの手この手を使って乱気流の存在を事前に予測しようと努めるのです。

パイロットはどのようにして乱気流を予測するのでしょうか?

解説します。

パイロットが乱気流を予測する方法。

天気図を使って判断する

まず最も基本となるのが、天気図の情報から乱気流の存在を予測する方法です。

パイロットは飛行前の準備の段階で、必ずその日の天気図を見て気象状況を確認します。

ニュースの天気予報で見られる天気図は地上天気図と言って、地上付近の大気状態のみの情報ですが、飛行機の運航で使用される天気図には上空の天気図である高層天気図など様々な種類があります。

その中には悪天天気図と言って、運航に重大な影響を及ぼしそうな乱気流や積乱雲、機体への着氷などが懸念されるエリアを示した天気図があるのです。

下の図が悪天天気図の例になります。

悪天天気図の例

この日は、九州から四国にかけてのエリアにModerateレベルのCAT(Clear Air Turbulence:晴天乱気流)が予想されており、赤点線の枠で範囲が示されています。

晴天乱気流は目視では確認が難しい、いわゆるエアポケットと呼ばれる乱気流です。

Moderateというのは、揺れの程度を表す5段階の度合いの内、4番目に激しいレベルを指す用語です。

最も激しいSevereの乱気流は、遭遇したら整備確認が必要なレベルですから、Moderateは運航可能なレベルで最も激しい揺れに相当します。

上図ではModerateの乱気流が32000ft~37000ftの高度に発生することを予想しています。

35000ft前後はちょうど通常の巡航高度に該当する高度ですから、この情報によって巡航高度を高め(37000ftより上)にしたり、逆に低め(32000ftより下)にしたりして事前に乱気流を回避する計画を立てるのです。

また、上の例では秋田・岩手県付近の12000ft~17000ftにも晴天乱気流が予想されています。

こちらは空港から上昇・降下する時に通過する高度帯ですから、付近の空港へ離着陸する飛行機は注意が必要と予測できるのです。

さらに天気図の中には、大気の垂直断面を解析したものもあります。

下の画像は大気断面図と呼ばれる天気図です。

大気断面図の例

これは気象庁が航空気象情報として提供しているもので、図の例では釧路(RJCK)、新千歳(RJCC)、新潟(RJSN)、中部(RJGG)、伊丹(RJOO)、福岡(RJFF)の各空港を結んだ線の断面を表しています。

図の黄土色から茶色の線は鉛直ウインドシアと言って、垂直方向に風速の変化が激しい場所の強さを表しています。

風速の変化が激しい=乱気流と思っていただいて構いません。

図を見るとちょうど新潟(RJSN)から中部(RJGG)の間の13000ft以下で、鉛直ウインドシアの濃いエリアが見られます。

この経路はちょうど北海道や東北から中部空港に到着する際の降下経路にあたりますから、中部空港へ降下中に大きな揺れに遭遇する可能性が高いと予測できるのです。

他の飛行機からの情報を参考にする

乱気流の様子を予測する2つ目は、他の飛行機からの情報を入手する方法です。

飛行機の運用ではPIREPと呼ばれる、遭遇した気象状況などを飛行中のパイロットが報告する仕組みがあるのですが、その中に乱気流による揺れの報告も含まれるのです。

PIREPでは、乱気流による揺れの程度をLight -(ライトマイナス)、Light (ライト)、Light +(ライトプラス)、Moderate(モデレート)、Severe(シビア)の5段階で表します。

パイロットは乱気流に遭遇した時刻地点高度揺れの程度をPIREPとして報告することで、後続の飛行機はPIREP情報から乱気流の予測を行うことができるのです。

PIREPは例えば、羽田-福岡など、一日中ほぼ絶え間なく便がある路線ではかなり有益な情報です。

飛行機の飛行ルートは、基本的に航空会社によらず同じ路線であれば同じルートを通るからです。

自分よりも少し前の時間に通過した飛行機からの情報であれば、かなりの確率で後から続く便も同じ状況に遭遇すると予想できるわけです。

また、PIREPは管制機関の回線を通じて航空会社間で共有されるもののほかに、各航空会社内で共有されるものもあります。

各航空会社の就航地空港にはそれぞれ運航補助スタッフが配置されていて、飛行機がスポットインすると、パイロットは巡航から降下中の揺れの状況を運航補助スタッフに報告します。

この情報は次に着陸してくる後続便への情報として活用されるのです。

さらに運航補助スタッフは、折り返しで向かう次の目的地までの揺れの情報もパイロットに伝えます。

これらPIREPのやり取りには、通常の音声を用いた無線交信のほか、最近ではテキストメッセージを用いたデータリンクも使われています。

飛行機に搭載されたウェザーレーダーで乱気流を探知する

3つ目は、飛行機に搭載された装置を使う方法です。

飛行機には前方の雨の様子を探知するウェザーレーダーが搭載されていて、コックピットの画面に表示されるようになっています。

このウェザーレーダーの拡張機能として、前方の乱気流の様子を探知し、雨雲と併せて表示する機能があるのです。

コックピットのウェザーレーダー画面のイメージ

ウェザーレーダーは前方に電波を発射し、雨滴に当たって跳ね返ってきた電波を再びキャッチすることで雨雲の存在を探知する仕組みです。

その際にドップラー効果と呼ばれる、雨滴の動きによって現れる現象を探知することで、雨雲内の気流の乱れを同時に検知するのです。

ただし、この方法では仕組み上、雨雲など雨滴を伴った乱気流しか探知できません。

晴天乱気流のような、目視で確認することが困難な乱気流はウェザーレーダーで探知することができないので、きちんとした使い分けが必要になります。

知識や経験、目視情報を頼りに判断する

最後はこれまでとは少し毛色が異なりますが、パイロットによっては最も大切にしている方法かもしれません。

乱気流が発生する仕組みや場所にはセオリーがあって、目視で見ることでその兆候を掴めるものも数多く存在します。

最も一般的な情報として雲の様子が挙げられます。

乱気流は多くの場合、雲の発達や形状変化を伴うので、雲を観察することで大気の様子を予測することができるのです。

飛行機から見た雲の様子の画像

パイロットにとって「揺れる雲と揺れない雲」を判別する能力は非常に重要と言われていますが、それを判断するためには正しい知識と確かな経験が求められるのです。

また雲に限らず、風の変化や気温の分布など、気流の乱れを知るヒントとなる情報はたくさんあります。

パイロットはあらゆる情報から総合的に判断して、毎飛行ごと、乱気流に対処できるように予測を立てるのです。

乱気流を100%避けることは難しい

このように様々な方法を使って乱気流を予測することが可能ですが、残念ながら乱気流を100%避けるのは不可能に近いことです。

特に局地的な気象変化は予測が非常に難しいほか、飛行機の経路上、どうしても避けられない位置に乱気流がある場合も多いからです。

ここでは、乱気流に遭遇してしまった場合にどのような対処がなされるのか、いくつか例を紹介します。

乱気流に遭遇したら高度や針路を変更してみる

まず巡航飛行では、そもそも揺れの少ない高度で飛行計画を立てることが基本になります。

巡航高度をどの高さで飛行するかは、よほどでない限り飛行機側に選択の自由がありますから、事前に入手した情報から揺れの少ない高度を始めから飛行するのです。

それでも揺れに遭遇してしまった場合は、管制に高度変更をリクエストするがまず第一に取られる対処かと思われます。

飛行機の巡航高度は2000ft 刻みで選択が可能ですが、高度を1つ上げるかまたは下げると、揺れが収まる場合があるのです。

飛行機に乗っていて巡航中に揺れが継続する場合、よーく注意を払っているとエンジンが出力を上げて上昇する場合や、機首が若干下がって降下する場合があると分かります。

このような場合、「揺れの少ない高度へ変更するんだな」と分かるわけです。

また、降下中は雲に近づいて飛行する場合がほとんどですが、その場合は針路変更をして雲を避けることで揺れを回避することができます。

多少ならば問題ありませんが、あまり大きく針路を変えると経路逸脱になってしまいますから、その場合も管制に針路変更をリクエストします。

降下フェーズの飛行機からの無線を聞いていると「Request heading 120 due to CB(積乱雲を避けるため針路120度をリクエストします)」のようなフレーズが聞かれますが、目の前にある積乱雲を避けるための対処なのです。

避けようがない乱気流へは万全の準備で対処

乱気流は避けて対処できるのであれば回避するに越したことはないですが、そう都合の良い状況ばかりではありません。

ある高度帯の広い範囲に乱気流があって、その高度を通過しなければならない場合や、上昇・降下経路など針路や高度選択の自由度が少ない場合があるからです。

このような場合は乱気流に遭遇することを前提に対処を考えます。

最も一般的なセオリーとしてはベルト着用サインを早めに点灯させる、またはベルト着用サインを常時点灯させておくです。

乱気流はModerateまでであれば機体の構造上影響があるわけではなく、避けようとする理由は乗り心地を良くするためと、何よりも搭乗者にケガをさせないためです。

なので、搭乗者にシートベルトをできる限り事前に締めてもらって、ケガだけには至らないように対処するのです。

ただし飛行中ずっとシートベルトを付けっぱなしでは、機内サービスを行うことができませんしトイレにも行けませんから、エアラインなどのサービス業では判断が非常に難しいところです。

パイロットはお客様の快適性が損なわれることを承知の上で、なお安全を優先すべきと判断してベルト着用サインを点灯させるのです。

終わりに

いかがでしたか?

乱気流は人が空を飛び始めて以来、未だに対処が難しい課題なのです。

一方で乱気流に対して予測・対処する方法を知っていると、実際に飛行機に搭乗して乱気流に遭遇した際に「この乱気流は予測不可能だったのかな?予測できたけど止むを得ずの状況なのかな?」などと考察ができて興味深いものでもあります。

乱気流はできれば遭遇したくないものですが、逆に多少なりとも楽しめるようになれば、より一層飛行機に乗るのが楽しく(?)なるかもしれませんね。

 

以上!

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