飛行機

ショートカットで着陸!Visual Approach(ビジュアルアプローチ)とは?

こんにちは。ころすけです。

飛行機という乗り物は到着が遅れることは割と頻繁にあれど、予定よりも早く到着することは滅多にないイメージを多くの方がお持ちではないでしょうか?

実は飛行機は予定のスケジュールよりも遅れているからと言って、スピードを大幅に上げて遅れを挽回するようなことはできないのです。

それでも航空会社にとっては、定時運航の堅持はサービスの良さのアピールとなる重要な要素なわけでして、パイロットも何とか定時に遅れないように様々な手段を講じるわけです。

その手段の1つに、Visual Approach(ビジュアルアプローチ)と呼ばれる着陸の仕方があります。

これはある特定の条件下において、通常の着陸経路をショートカットして最短距離で空港に着陸することができる運航方式なのです。

今回はVisual Approachについて解説したいと思います。

Visual Approach(視認進入)とは?

Visual Approachを日本語の専門用語では視認進入と言い、以下のような定義になっています。

視認進入(Visual Approach)

レーダー管制下において計器飛行方式により飛行している航空機が、所定の進入方式によらないで地上の物標を視認しながら行う進入。

まあ、よく分からないですよね。

通常、航空会社の運航では計器飛行方式と呼ばれる飛行方式に従って飛行機を運航していて、着陸の際は計器進入方式と呼ばれる方式で着陸するのが基本です。

計器進入方式と言うのは、例えば代表的なものがILS (Instrument Landing System)進入というもので、これは地上設備から発せられた電波に沿って飛行機を滑走路まで導いてもらう方式になります。

このように地上からの電波や何かしらのガイダンスに従って滑走路に進入する方式を計器進入方式と言いますが、Visual Approachではこれらのガイダンスを使用せず、パイロットが目で見て飛行経路を確認しながら滑走路に進入するのです。

下の図を見ても分かるとおり、計器進入方式では最終的に滑走路の延長線上のガイダンスに機体を合わせるという性質上、どうしても空港から離れたところを大きく回り込んで滑走路に近づく必要があります。

一方でVisual Approachではそのような制限はなく、まずは空港へ大回りせずに近づいた後、さらに最短距離で滑走路の延長線上に回り込むことができるため、飛行経路を短縮することができるというわけです。

Visual Approachと計器進入方式のイメージ

Visual Approachが許可される条件

Visual Approachは勝手にやってよいのかというとそうではなく、実施する際には必ず管制官から許可を得なければなりません。

Visual Approachの許可が下りる条件としては、周辺を飛行する他の飛行機の存在など状況判断によるものの他、以下の気象条件を満たしている必要があります。

  1. 雲高の値に飛行場標高を加えた高さが最低誘導高度よりも500フィート以上高いこと
  2. 地上視程が5キロメートル以上あること

これもまあよく分からないと思います。

①は要するに「飛行している自分より低い高度に雲が広がっていないこと」という意味です。

Visual Approachは目視で地上物標を確認して飛行するわけですから、地上が雲で覆われていて見えないようでは前提が成り立ちません。

②は分かるかもしれませんが、簡単に言えば「5キロ以上先の目標物を確認できること」ということです。

これも①と同じく、そもそもVisual Approachとは?というところから当然の条件と言えます。

つまり要約すると、Visual Approachというのはすごく天気が良い日にしか実施できない飛行方式と言えるかと思います。

ちなみに、地上視程が5キロメートル以上の条件は、真っ暗な夜でも満たすことができます。

夜間であっても空港や地上の障害物には航空法で定められた灯火が点いていますから、それらを確認することができればよいのです。

5キロメートルの視程を確保できない状況とは、基本的に雨が降っていたり雲が垂れ込めていたりして視界が悪い場合になります。

Visual Approachで着陸する際はTraffic Pattern(トラフィックパターン)に従うのが基本

Visual Approachはパイロットが目視で地上物標を確認しながら滑走路に進入する方式なので、厳密に言えばどのような方向から滑走路に近づいてもOKと言えるかもしれません。

ですが基本的にVisual Approachで着陸する際には、空港に近づいたらTraffic Pattern(トラフィックパターン)に沿って滑走路の延長線上に回り込むのが普通です。

Traffic Patternは日本語で場周経路とも呼ばれますが、下の図のように滑走路の延長線上に回り込むまでの軌跡がパターン化されています。

トラフィックパターンのイメージ図

Traffic Patternでは空港に近づいた後、まずは滑走路と平行にある程度の距離を保ちながら飛行します。

この部分のことをダウンウインドレグと言い、滑走路からの距離は大体2~3NM(約4~5kmほど)になります。

続いてダウンウインドレグ上を一旦滑走路を超えて飛行したのち、90度旋回して今度は滑走路と直角に飛行します。

この部分のことをベースレグと言います。

最後に滑走路の延長線とベースレグが交わる地点に近づいたら、さらに90度旋回してファイナルアプローチのラインに機体を合わせるのです。

このようなTraffic Patternに従う理由の1つは、パターン化された経路に沿って滑走路に合わせることで、高度処理やランディングギアを下すタイミング、フラップの展開や減速のタイミングなどもパターン化することができるからです。

毎回毎回異なる経路で滑走路に合わせようとすると、高度処理が間に合わなかったり、ランディングギア操作など必要な手順を失念してしまう可能性があるのです。

なお、航空用語で真横のことをアビームと言うのですが、滑走路末端(スレショールド)のアビームを基準に何マイルとか何分飛行するとかを決めておけば、ベースレグの位置を常に安定させることができます。

ベースレグの位置が安定すれば最後にファイナルアプローチに移った際、滑走路に向かって理想的な降下角になる高度に常に合わせることができるのです。

さらにTraffic Patternで飛行すべきもう1つの理由は、他の飛行機を含めた交通流を整えるためです。

Visual Approachでは他機との間隔も目視などによりパイロットがその責任を負わなければなりません

複数の飛行機があらゆる方向から滑走路に集まってきたのでは危険なので、自由な経路の中にも秩序ある流れを作ることが必要なのです。

実はTraffic Patternは有視界飛行方式で飛ぶ小型飛行機が着陸する際の基本方式であり、操縦訓練を始めたてのパイロットがまず最初に覚えるのがこの着陸の仕方なのです。

Visual Approachの具体例を見てみよう!

ここまででVisual Approachの基本が分かったところで、今度は実際のエアラインの運航でVisual Approachが実施された例をいくつか見ていきましょう。

1. 福岡空港 RWY34 Approachの場合

まずは福岡空港でのVisual Approachを見てみましょう。

福岡空港Visual ApproachとILS進入の比較 福岡空港ILS進入のチャート

見て分かるとおり、仮にRWY34にILSで着陸する場合には久留米市付近のHAWKSというウェイポイントまで回り込んでからILSのガイダンスに従うことになります。

しかしVisual Approachの場合には、レーダー管制によって福岡空港のダウンウインドまで誘導されたあと、福岡市内で小さくベースターンをして滑走路に最短距離で着陸しているのです。

実はVisual Approachを実施する場合、管制機関に飛行機からリクエストする場合と、逆に管制機関からVisual Approachを指示される場合とがあります。

福岡空港の場合は後者で、ILS進入を行う場合は市街地の上空を広く飛行することになるため、RWY34で着陸する場合にはできる限りVisual Approachを実施する運用をしているのです。

2. 県営名古屋空港 RWY34 Approachの場合

お次は通称小牧空港こと、セントレアができるまで中部地方の拠点空港であった県営名古屋空港でのVisual Approachの例です。

県営名古屋空港のVisual ApproachとILS進入の例

似たような経路を辿っているように見えますが、左側のVisual Approachの方が明らかに小さな経路を描いて着陸しています。

なお、この例では空港に向けて針路を取っている途中で、Traffic Patternのベースレグに直行するように管制官から指示を受けているようです。

3. 松山空港 RWY32 Approachの場合

さらに続いて松山空港の例です。

松山空港のVisual Approachの例

福岡空港の例と同じようにレーダー誘導の後、ダウンウインドレグに接続していることが分かります。

計器進入方式の場合、松山空港のRWY32では下のように空港の東側の陸地を南下してくる方式しか設定されていません。

松山空港RWY32 RNP ARのチャートこの方式は特別な運航承認が必要であるため、どの飛行機でも実施できるわけではない上に、市街地の上空を通過するためあまり推奨されていないようです。

なので、天気が良い日にRWY32に着陸する場合は、できる限りVisual Approachを実施する運用となっているようです。

4. 宮崎空港 RWY09 Approachの場合

最後は宮崎空港です。

宮崎空港のVisual Approachの例

こちらもダウンウインドに入ってからトラフィックパターンに従って着陸している様子が見て取れます。

さてよく見ると、宮崎空港の西側はいくらか山がちになっていることが分かるでしょうか?

このような地形的な要因から、RWY09への進入では直線区間を長く取るような計器進入方式を設定できないようで、松山空港と同じように特別な運航承認が必要な方式のみが設定されています。

なので特別な運航承認がない場合、やはり天気が良い日にはできるだけVisual Approachを実施する運用になっているようですね。

終わりに

いかがでしたか?

Visual Approachは多くの場合、経路が短縮されるため時間の節約と共に飛行に必要な燃料の節約にもなります。

なので空港によっては積極的にVisual Approachが実施されているところもあり、そのような空港を探すのも面白いかもしれません。

また、ダウンウインドを飛行している間、空港が見える側の席ではこれから着陸しようとする滑走路が間横に見えているはずです。

予めVisual Approachが実施されることを予想した上で座席の左右をチョイスすれば、普段とは違うちょっと面白い光景を眺めることができるのです。

もしも興味がありましたら、飛行機に乗る前にちょっとだけVisual Approachの可能性について考えてみてはいかがでしょうか?

 

以上!

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